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大学・研究所にある論文を検索できる 「小児の病院前バイタルサインと病院での臨床的重要アウトカムとの関連」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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小児の病院前バイタルサインと病院での臨床的重要アウトカムとの関連

黒澤, 寛史 神戸大学

2022.09.25

概要

背景
心拍数や呼吸数などのバイタルサインは、患者評価のために重要である。過去10年ほどの間に、健康な小児、救急外来での小児、入院中の小児、それぞれのデータに基づく心拍数と呼吸数のセンタイルカーブが示された。これらは患者評価や救急外来におけるトリアージ基準の一部として用いられている。

病院前救護では、環境要因(見知らぬ人に囲まれる、環境温、騒音など)や、身体的要因(痛み、けいれん、発熱など)といった様々な要素のために、バイタルサインの解釈がより難しいかもしれない。病院前救護においても搬送先選定基準の一部としてバイタルサインが用いられることがあるが、私たちが知る限りにおいて、その妥当性は評価されていない。

そこで私たちは、病院前救護における小児のバイタルサインと、病院搬送後のアウトカムとの関連について調べた。また、過去に出版された、健康な小児、救急外来の小児、入院中の小児それぞれのセンタイルカーブの、病院前救護における有用性についても調べた。

方法
神戸市消防局救急搬送データベースと、神戸市内の三次医療機関の診療録を用いた後方視的観察研究。対象は2013年1月から2015年12月までの3年間に神戸市消防局により救急搬送された19歳未満の症例のうち、三次医療機関に搬送された症例。病院間搬送症例は除外した。救急搬送データベースから抽出したデータは、バイタルサイン、年齢、性別、重症度(救急隊員による評価)、救急覚知から現場到着までの時間、現場出発から病院到着までの時間、搬送先病院であった。バイタルサインは1)患者接触時、2)救急車へ搬入時、3)病院到着時の3ポイントで記録された。原則として心拍数は心電図から読み取るが、状況により脈拍数が用いられることもあった。呼吸数は聴診法で計測された。搬送先病院は神戸市消防局のプロトコール(Supplementary Fig. S4)に従って選定された。

心肺蘇生中や、その後のバイタルサインは除外した。バイタルサインは救急車へ搬入時の記録を最優先し、その記録がない場合には患者接触時の記録を用いた。病院到着時の記録は、搬送中の環境など一時的な要因により影響を受けている可能性があるために用いなかった。

患者転帰に関するデータは神戸市の三次医療機関において、診療録を用いて収集した。病院における転帰の定義には、小児院内急変対応システムで検証された、重大な悪化の指標(Critical deterioration metric)を改変して用いた。もともとの重大な悪化の指標は、集中治療室入室の12時間後に、生命維持するための介入を受けているものと定義されている。この生命維持するための介入には、侵襲的人工呼吸開始、非侵襲的人工呼吸開始、血管作動薬(ドブタミン、ドパミン、アドレナリン、イソプロテレノール、ミルリノン、ノルアドレナリン)投与開始が含まれる。本研究においては、集中治療室入室後ではなく、病院への搬送12時間後における死亡、生命維持するための介入を要する入院を、臨床的重要アウトカムとして定義した。

臨床的な関連性を調べるために、臨床的重要アウトカムに該当する小児のバイタルサインを、過去に発表された健康な小児、救急外来や入院中の小児のデータと比較した。臨床的重要アウトカムを検出するための感度と特異度を計算する際には、それぞれのデータの1パーセンタイルと99パーセンタイルを用いた。

結果
19歳未満の18,493例が約160の医療機関に搬送され、そこには三次医療機関8施設が含まれた。不搬送、データ欠損、病院間搬送、非三次医療機関への搬送を除外し、4,477例が解析対象であった(Fig.1)。年齢中央値は4歳(四分位範囲1–11歳)であり、59.6%が男性であった。現場から病院までの搬送時間は中央値13分(四分位範囲8–18分)であった。

4,477例のうち、患者接触時か救急車へ搬入時のバイタルサインが記録されていたのは、心拍数4,225例、呼吸数3,328例であった。そのうち心拍数は96.8%(4,091/4,225)、呼吸数は78.0%(2,597/3,328)が救急車へ搬入時に測定されていた。患者接触時と救急車へ搬入時の標準化平均差は心拍数0.012、呼吸数0.052であった。

Figure2は、健康な小児のバイタルサイン参照範囲、神戸市消防局が用いていた参照範囲に、本研究の対象患者の値を記したものである。

病院への搬送12時間後に生命維持するための介入を要したのは65例であり、非侵襲的人工呼吸が11件、侵襲的人工呼吸が53件、血管作動薬投与が23件であった。

臨床的重要アウトカムの患者を、健康な小児のセンタイルカーブ上に記すと、心拍数は30/52(58%)、呼吸数は24/44(55%)が1〜99パーセンタイルの範囲外であった(Fig.3)。同様に救急外来の小児のセンタイルカーブ上に記すと、心拍数は18/52(35%)、呼吸数は13/44(30%)が1〜99パーセンタイルの範囲外であり(Supplementary Fig.S1)、入院中の小児のセンタイルカーブ上に記すと、心拍数は13/52(25%)、呼吸数は7/44(16%)が1〜99パーセンタイルの範囲外であった(Supplementary Fig.S2)。

健康な小児のバイタルサイン参照範囲をもとにすると、臨床的重要アウトカムの患者を同定するための感度と特異度(%[95%信頼区間])は、心拍数が感度57.7[44.3;71.1]、特異度67.5[66.1;69.0]、呼吸数が感度54.5[39.8;69.3]、特異度67.7[66.1;69.3]であった(Table1)。同様に、救急外来の小児の参照範囲をもとにすると、心拍数が感度40.4[27.0;53.7]、特異度85.7[84.6;86.8]、呼吸数が感度40.9[26.4;55.4]、特異度77.6[76.2;79.1]であり、入院中の小児の参照範囲をもとにすると、心拍数が感度28.8[16.5;41.2]、特異度91.0[90.1;91.9]、呼吸数が感度15.9[5.1;26.7]、特異度95.2[94.5;96.0]であった。神戸市消防局が用いていた参照範囲をもとにすると、心拍数が感度67.3[54.6;80.1]、特異度40.6[39.1;42.1]、呼吸数が感度43.2[28.5;57.8]、特異度71.4[69.8;72.9]であった(Table1)。

考察
過去に発表されたバイタルサインの参照範囲の中で、健康な小児のデータから作成されたものを参照範囲として用いると最も感度が高く、特異度もかなり高かった。そして病院前におけるバイタルサインにより、搬送12時間後に臨床的重要アウトカムとなる小児患者の約半数を同定できた。病院前では患者評価のための時間が限られており、防ぎうる死を避けるためには、特異度よりも感度の高さが重要である。本研究結果は、病院前救護にあたる救急隊員が、小児のバイタルサインを解釈する時に有用かもしれない。しかし重症小児の病院前バイタルサインのうち、心拍数では42%、呼吸数では45%が健康な小児の1〜99パーセンタイルの参照範囲内にあったことから、評価の際には注意が必要であり、高い感度と特異度を持つバイタルサインの参照範囲を作成することは困難であることが示唆された。

今回の対象症例(4,477例)を神戸市消防局のプロトコールで定められた参照範囲上に記すと、大部分の症例が参照範囲外であった(Fig.2)。これは特に若年齢において参照範囲の幅が狭すぎるためであり、結果として心拍数は感度が高く特異度が低かった。この神戸市の参照範囲はエキスパートの意見で決められていたが、本研究結果からは、改訂することが適切と示唆された。なぜなら、低すぎる特異度は、過剰なオーバートリアージと、三次医療機関の不適切な利用につながるかもしれないからである。

この研究にはいくつかの限界がある。一つ目は、一都市のデータベースから後方視的に得たデータであること。そのため研究結果を一般化しにくいかもしれないが、サンプルサイズは大きく、救急隊によりしっかり患者評価されていること、また臨床的重要アウトカムと紐づけたことが、本研究の価値を高めている。2つ目は日本の救急隊に許可された介入が非常に限られていること。そのため、本研究結果を、その他の介入が許可されている地域に直接適用することはできない。3つ目は、2つのポイント(救急車搬入時と現場到着時)のバイタルサインを用いたこと。しかし、標準化平均差は十分小さかった。4つ目は患者の長期的アウトカムを調査しなかったこと。長期的アウトカムよりも、臨床的重要アウトカムの方が病院前救護での状況をより正確に反映し、病院搬送後の介入の影響が少ないと考えられる。最後に、非三次医療機関に搬送された症例のアウトカムを調査できなかったこと。これも本研究の一般化への限界となる。

結論
病院前におけるバイタルサインは、救急搬送12時間後の死亡あるいは生命維持するための介入を要する入院を要する重篤な小児の半分を検出できるかもしれない。病院前のバイタルサインの参照範囲として、健康な小児のセンタイルを用いるのが適切である。しかし、感度と特異度は限定的であり、バイタルサインに過度に依存することは危険である。今後はより高い感度と特異度を持つ指標の調査が望まれる。

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