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Type 1 regulatory T cellにおける転写因子Jazf1を介したIL-10産生制御機構の解明

河野, 正憲 東京大学 DOI:10.15083/0002002398

2021.10.13

概要

全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus: SLE)は抗double-strand DNA(ds-DNA)抗体の出現と免疫複合体沈着を特徴とした全身性自己免疫疾患であり、多臓器障害を生じる代表的膠原病である。1950年初頭には5年生存率はわずか50%であったが、治療法の発展により10年生存率は95%以上と劇的に改善した。しかし、今日においてもSLE患者の死亡リスクは同年代一般人口と比較して高く再燃率も極めて高いことから、新たな治療薬の開発が求められている。

 免疫系は自己と非自己を区別しながら自己免疫応答を惹起しない仕組みを備えているが、完全ではなく、一部の自己反応性T細胞は制御性T細胞(regulatory T cell: Treg)などにより抑制的に制御される。Tregはその分化誘導される部位により胸腺で誘導されるthymus-derived Treg(tTreg)と、末梢(胸腺外)で誘導されるperipherally derived Treg(pTreg)に大別される。免疫学的恒常性はtTregとpTregが協調することで保たれていると考えられており、代表的pTregとしてtype 1 regulatory T cell(Tr1細胞)が知られている。Tr1細胞はIL-10を高産生し主にIL-10によって免疫抑制機能を発揮するが、tTregと異なりその機能は転写因子Foxp3に依存しない。当研究室はTr1細胞の一つであるIL-10高産生性CD4+CD25-LAG3+ Treg(LAG3+Treg)を同定した。LAG3+Tregは転写因子early growth response gene 2 (Egr2)を発現し、IL-10産生を介してマウス腸炎モデルを改善する。さらに、当研究室ではLAG3+TregがTGF-β3産生を介して強力にB細胞抗体産生を抑制し、SLEモデルマウスにおけるループス様病態を改善することを報告している。その後の解析で、Toll様受容体刺激下のB細胞はIL-10またはTGF-β3単独では抗体産生が増強されるが、両者が共存することで抗体産生は負に制御されることを示し、サイトカインが共存することで免疫応答促進性から抑制性に転化する現象をInhibitory Cytokine Synergy(ICS)と定義し報告した。これらの結果は、LAG3+Tregから産生されるTGF-β3のみならずIL-10もループス様病態制御において必須であることを意味している。

 近年、ゲノムワイド関連解析(GWAS)が盛んに行われ、自己免疫疾患においても数多くの研究が発表されている。GWASで同定された疾患感受性遺伝子は、論理的帰結として疾患の原因や増悪に一義的に関与している。SLEにおいては、現在までに疾患と関連する遺伝子座が100以上報告されている。その中で近年新たに報告されたJuxtaposed with another zinc finger gene 1 (JAZF1)遺伝子はSLEのみならず関節リウマチや全身性強皮症、炎症性腸疾患など複数の疾患感受性遺伝子であり、SLEをはじめとする自己免疫疾患発症に重要な役割を果たしていると推測される。しかしながら免疫制御機構におけるJAZF1遺伝子の機能はこれまでのところ明らかとなっていない。そのため、本研究では、SLE疾患感受性遺伝子JAZF1の役割を、SLE病態制御で中心的な役割を果たすLAG3+Tregを含む各種CD4+T細胞の詳細な機能解析を通じて明らかとした。

 我々は先ずWTマウスの脾細胞中の各免疫細胞サブセットにおけるJazf1発現をqRT-PCRで評価した。その結果、Tr1細胞の1つであるLAG3+TregでJazf1が特異的に高発現することが明らかとなった。次に、Jazf1遺伝子プロモータ制御下にenhanced green fluorescent protein (eGFP)を発現するJazf1eGFPマウスのCD4+T細胞における遺伝子発現プロファイルを確認したところ、LAG3+Tregで特徴的に発現するEgr2及びLag3についてはCD4+Jazf1eGFP+T細胞において有意に高発現していた。すなわち、Jazf1はLAG3+Tregで特異的に発現すること、またCD4+Jazf1eGFP+T細胞はLAG3+Tregに特徴的な遺伝子発現を呈することを示した。

 続いてJazf1eGFPマウスの脾細胞からCD4+T細胞を分離し、Jazf1eGFP陽性細胞と陰性細胞を分取した。興味深いことにIl10発現はCD4+LAG3+Jazf1eGFP-細胞で最も高く、CD4+LAG3+T細胞におけるJazf1発現は著しくIl10発現を低下させた。以上からJazf1はIL-10産生性CD4+T細胞におけるIL-10を抑制性に制御することが示唆された。

 IL-27添加によるin vitro Tr1細胞誘導条件における検討では、Il10、Egr2発現が誘導されたが、Jazf1発現は逆に抑制された。続いてpMIG-Jazf1ベクターを構築し、レトロウイルスを用いてCD4+T細胞に導入した。Tr1細胞誘導条件下ではJazf1過剰発現によりEgr2発現に変化は認めないものの、Il10発現が強く抑制された。以上から、Jazf1はIL-10を高産生するTr1細胞においてIL-10産生を抑制性に制御することが示された。

 Jazf1 KOマウスにおけるCD4+T細胞のTr1細胞誘導条件では、興味深いことにJazf1欠損はEgr2発現に影響を与えないものの、Jazf1 KO Tr1細胞においてPrdm1及びIl10 mRNA発現が著明に亢進し培養上清中のIL-10タンパクも有意に増加した。

 次にLAG3+Tregを用いて抗Jazf1抗体によるchromatin immunoprecipitation (ChIP)アッセイを行なったところ、Jazf1はPrdm1のプロモータ領域に結合し、Il10の既知のconserved noncoding sequence (CNS)、hypersensitivity site (HSS)と合致した領域に複数結合することを示した。

 転写因子Blimp1をコードしているPrdm1は、Tr1細胞においてIL-10産生を制御することが知られている。すなわち、Jazf1はIl10に直接的、またPrdm1発現を介してIl10発現を制御することが示唆された。

 最後に、SLEのモデルマウスであるイミキモド誘発ループスモデルマウスによる検討を行った。その結果、イミキモド塗布開始8週間経過後、マウス体重あたりの脾臓重量はイミキモドを塗布したJazf1 KOマウスでより増加する傾向にあった。SLEにおける代表的自己抗体である血清抗dsDNA抗体価は、イミキモドを塗布し8週経過したJazf1 KOマウスの方がWTと比べて上昇する傾向を認めた。腎障害の指標となる尿タンパクは有意差を認めないもののイミキモド処理Jazf1 KOマウスにおいて最も高度であった。以上の結果よりJazf1はSLE様病態の制御機構において重要な役割を果たしていると考えられた。

 本研究では、SLEの疾患感受性遺伝子であるJAZF1遺伝子が、マウスTr1細胞であるLAG3+Tregにおいて特異的に高発現すること、そして同細胞及びinvitroで誘導したTr1細胞どちらにおいてもIL-10産生を負に制御することを明らかにした。LAG3+Tregを用いたChip解析においてJazf1はPrdm1のプロモータ領域に結合すること、またIl10においてはプロモータ領域のみならずエンハンサー及びイントロン領域にも結合することから、Jazf1はIl10を直接かつPrdm1発現を介して二次的に制御することが示唆された。さらに、Jazf1 KOマウスではSLEの病勢が悪化することから、Jazf1がCD4+T細胞におけるIL-10産生制御機構を介してSLEの病態を制御していることが示唆された。

 SLEの病態形成において、IL-10は病勢を悪化させる可能性が示唆されている。実際SLE患者の病勢と血清中のIL-10が相関しているとする報告も存在する。IL-10はB細胞の抗体産生・免疫グロブリンのクラススイッチや形質細胞への分化を誘導し抗体産生を促進することでSLE病態を悪化させると考えられている。LAG3+TregはIL-10およびTGF-β3を大量に産生するが、IL-10もしくはTGF-β3単独ではB細胞の抗体産生は亢進され、IL-10とTGF-β3が共存することではじめて抗体産生が抑制される。本研究では、Jazf1欠損によってTGF-β3とのICS効果が期待できる範囲を超えた過剰なIL-10が産生され、結果としてB細胞の抗体産生を促進しイミキモド誘発ループスモデルの悪化に関与した可能性が想定された。

 本研究ではJazf1が、Tr1のIl10発現を抑制する働きを持ち、さらにJazf1欠損がSLE病態悪化に寄与する可能性を示した。JAZF1がヒトSLEの疾患感受性遺伝子であること、またCD4+T細胞におけるJAZF1発現低下がSLEのリスクになるとする報告が存在することからも、CD4+T細胞におけるJazf1遺伝子に関する更なる検討がSLE病態の解明、新規治療ターゲットの発見につながると考えられた。

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