[1] S. Ko, JE. Choi, CW. Lee, YP. Jeon, “Preparation of petroleum-based mesophase pitch toward
cost-competitive high-performance carbon fibers”, Carbon Letters, 30, 35-44 (2020).
[2] J. Guo, X. Li, H. Xu, H. Zhu, B. Li, A. Westwood, “Molecular structure control in mesophase
pitch via co-carbonization of coal tar pitch and petroleum pitch for production of carbon fibers
with both high mechanical properties and thermal conductivity”, Energy and Fuels, 34, 64746482 (2020).
[3] DH. Lee, J. Choi, YS. Oh, YA. Kim, KS. Yang, HJ. Ryu, YJ. Kim, “Catalytic hydrogenationassisted preparation of melt spinnable pitches from petroleum residue for making mesophase
pitch based carbon fibers”, Carbon Letters, 24, 28-35 (2017).
[4] I. Mochida, H. Toshima, Y. Korai, T. Varga, “Comparative evaluation of mesophase pitches
derived from coal tar and FCC-DO”, Journal of Material Science, 25, 3484-3492 (1990).
[5] 大谷杉郎, 真田雄三, “炭素化工学の基礎 ”, オーム社, (1980).
[6] H. Shimanoe, T. Mashio, K. Nakabayashi, T. Inoue, M. Hamaguchi, J. Miyawaki, I. Mochida,
S.H. Yoon, “Manufacturing spinnable mesophase pitch using direct coal extracted fraction and
its derived mesophase pitch based carbon fiber”, Carbon, 158, 922-929 (2020).
[7] O. Katoh, S. Uemura, Y. Korai, I. Mochida, “Preparation of mesophase pitch and high
105
performance carbon fiber from decant oil”, J. Jpn Petrol. Inst., 47, 100-106 (2004).
[8] R. Tanaka, E. Sato, JE. Hunt, RE. Winans, S. Sato, T. Takanohashi, “Characterization of
asphaltene aggregates using X-ray diffraction and small-angle X-ray scattering”, Energy and
Fuels, 18, 1118-1125 (2004).
[9] S.H.Yoon, Y. Korai, I. Mochida “Assessment and optimization of the stabilization
process of mesophase pitch fibers by thermal analyses”, Carbon, 32, 281-287 (1994).
[10] J. Drbohlav, WTK. Stevenson, “The oxidative stabilization and carbonization of a synthetic
mesophase pitch, part I: The oxidative stabilization process”, Carbon, 33, 693-711 (1995).
[11] J. Drbohlav, WTK. Stevenson, “The oxidative stabilization and carbonization of a synthetic
mesophase pitch, part Ⅱ: The carbonization process”, Carbon, 33, 713-731 (1995).
106
Figure 5-1. 従来のメソフェーズピッチ調製法と本研究における新規の調製法の概略
107
Figure 5-2. 本研究における実験フローチャートおよび加熱混合ピッチの組み合わせ
108
Figure 5-3. 原料として用いたSO-THFS、CT-THFSの分子量分布
Table 5-1. 原料として用いたSO-THFS、CT-THFSの諸物性
*1 Odiff = 100-(H+C+N)
*2 平均分子量(Average molecular wights:AMWs)
*3 芳香族度(Carbon aromaticity:fa)
109
Figure 5-4. 水素化処理を経ずにSO-THFS、CT-THFSから調製したピッチの偏光顕微鏡像
110
Figure 5-5. 水素化処理を経ずにSO-THFS、CT-THFSから調製したピッチの分子量分布
Table 5-2. 水素化処理を経ずにSO-THFS、CT-THFSから調製したピッチの諸物性
*1 原料(SO-THFS、CT-THFS)に対するピッチ収率
*2 Odiff = 100-(H+C+N)
*3 平均分子量(Average molecular wights:AMWs)
*4 芳香族度(Carbon aromaticity:fa)
111
Figure 5-6.
水素化処理を経ずにSO-THFS、CT-THFSから調製したメソゲン成分の
分子量分布
Table 5-3. 水素化処理を経ずにSO-THFS、CT-THFSから調製したメソゲン成分の諸物性
*1 原料(SO-THFS、CT-THFS)に対するメソゲン成分収率
*2 Odiff = 100-(H+C+N)
*3 平均分子量(Average molecular wights:AMWs)
*4 芳香族度(Carbon aromaticity:fa)
112
Figure 5-7 .
水素化を経ず調製した加熱混合ピッチと水素化により調製した
メソフェーズピッチの偏光顕微鏡像
113
Table 5-4.
水素化処理を経ずに調製した加熱混合ピッチと水素化処理により調製した
メソフェーズピッチの収率と軟化点
*1 YieldMix:加熱混合処理時の収率
*2 YieldMP = (YieldTHFI × 0.3 + YieldP × 0.7) × YieldMix
114
Table 5-5. 加熱混合ピッチの紡糸性と得られたピッチ繊維の平均繊維径
115
Figure 5-8. 加熱混合ピッチより調製した黒鉛化繊維の表面構造と断面構造の様子
116
Table 5-6. 各加熱混合ピッチより調製した黒鉛化繊維の各過程の収率と機械的特性
*1 Yield(S)、Yield(C)、Yield(G)はそれぞれ不融化、炭素化、黒鉛化の際の収率を表す
*2 黒鉛化繊維の平均的な直径
*3 引張強度(tensile strength:TS)
*4 伸び率(Elongation ratio:ER)
*5 ヤング率(Young’s modulus:YM)
117
Figure 5-9. 各メソゲン成分のXRDスペクトル
Table 5-7. 各メソゲン成分のd002、Lc (002)、分子積層枚数
118
第6章
総括
高性能炭素繊維は、軽量で高強度という特性から航空宇宙・スポーツ分野などへの応用は
活発的だが、高価格ゆえに自動車・建築分野など一般向け製品への適用は限定的である。こ
れまで、本研究グループは炭素繊維の用途拡大のためメソフェーズピッチ系炭素繊維に注
目し、その製造コストの低減を目的に研究してきた。メソフェーズピッチ系炭素繊維の製造
コストが高くなる原因の1つとして、前駆体であるメソフェーズピッチの低い製造収率が
挙げられる。そこで、本研究ではメソフェーズピッチのリオトロピック液晶特性に基づいて、
別々の処理によって調製したメソゲン成分と溶媒成分を加熱混合することで、高収率なメ
ソフェーズピッチの調製を試みた。この第 6 章では、第 2 章から第 5 章までの研究で得た
知見をまとめた。
第2章
さまざまなメソフェーズピッチのリオトロピック液晶特性の評価
第 2 章では、メソフェーズピッチのリオトロピック液晶特性が一部のメソフェーズピッ
チに特異な性質であるかを調べるため、さまざまな原料や製造方法により得られたメソフ
ェーズピッチを用意し、それらのリオトロピック液晶特性の有無を確認した。その結果、用
意したすべてのメソフェーズピッチでリオトロピック液晶特性が確認でき、原料や製造方
法に関係なくメソフェーズピッチはリオトロピック液晶特性を有していると結論付けた。
第3章
メソゲン成分の違いによるメソフェーズピッチへの影響
第 2 章の結果より、リオトピック液晶特性はメソフェーズピッチの種類に影響されない
ことがわかったものの、TC 値はメソフェーズピッチによって異なった。そして、これはメ
ソフェーズピッチ中のメソゲン成分や溶媒成分の物性の違いによるものだと推察した。そ
こで第 3 章ではメソゲン成分の種類によって、第 4 章では溶媒成分の種類によって得られ
るメソフェーズピッチへの影響を調査した。
第 3 章では溶媒成分を AR-THFS に統一し、さまざまなメソゲン成分と加熱混合した。そ
の結果より、メソゲン成分の種類ごとにメソフェーズピッチの TC 値や軟化点が異なり、メ
ソゲン成分の違いはメソフェーズピッチの物性に影響を及ぼすことが確認できた。
第4章
溶媒成分の違いによるメソフェーズピッチへの影響
第 4 章では、メソゲン成分を AR-THFI に統一し、さまざまな溶媒成分と加熱混合するこ
とで、メソフェーズピッチの物性に影響が現われるかを調査した。また、この章の研究では、
別個に調製した等方性ピッチが溶媒成分として機能するかどうかを評価するため、スラリ
119
ーオイルやコールタールピッチを原料として異なる物性を持つ等方性ピッチを調製した。
その結果、溶媒成分の種類ごとにメソフェーズピッチの物性が異なり、メソフェーズピッチ
の物性は溶媒成分によっても左右されることがわかった。メソゲン成分とは別に調製した
等方性ピッチを溶媒成分として混合したところ、得られたメソフェーズピッチにはリオト
ロピック液晶特性が確認でき、等方性ピッチの種類や混合比率によっては 100 vol.%の異方
性組織を持つメソフェーズピッチが得られた。これは、別途調製した等方性ピッチが、メソ
フェーズピッチの溶媒成分として使用できることを意味している。また、AR-THFS のよう
にナフテン環を豊富に持つピッチが溶媒成分としての性能が高い可能性が示唆された。
このように第 3 章および第 4 章の研究結果から、メソゲン成分や溶媒成分はメソフェー
ズピッチの物性を決定する重要なファクターであることが確認できた。
第 5 章
リオトロピック液晶特性に基づく加熱混合法によるメソフェーズピッ
チの高収率調製
第 5 章では、メソフェーズピッチのリオトロピック液晶特性に基づいて、高収率なメソフ
ェーズピッチの調製を試みた。スラリーオイルやコールタールを原料として、低収率化の原
因である水素化処理を経ない方法により、メソゲン成分や溶媒成分をそれぞれ調製した。水
素化処理を経ない方法により調製した 100 vol.%の異方性を持つメソフェーズピッチは、水
素化処理によって調製したメソフェーズピッチより高収率で調製することに成功した。ま
た、これらのメソフェーズピッチを前駆体として炭素繊維(黒鉛化繊維)を調製した。原料
別に比べると、SO 由来のメソゲン成分を含むメソフェーズピッチは、CT 由来のメソゲン
成分を含むメソフェーズピッチよりも優れた紡糸性を示した。さらに、それぞれの黒鉛化繊
維の機械的特性を比較したところ、CT 由来のメソゲン成分を含んだメソフェーズピッチか
ら調製した黒鉛化繊維のほうがより優れた機械的特性を示した。
本研究によって、メソフェーズピッチが一般的にリオトロピック液晶特性を有すること
が明らかになった。また、メソゲン成分や溶媒成分がメソフェーズピッチに与える影響を調
査する中で、理想的な両成分の分子構造についての知見を得た。しかし、メソゲン成分およ
び溶媒成分にも未だ不明な部分が多く、高性能炭素繊維のための理想的なメソフェーズピ
ッチの分子構造を明らかにするには更なる研究が必須である。例えば、本研究の結果より、
溶媒成分には AR-THFS のようにナフテン環構造や脂肪族側鎖が豊富なほうが異方性発現に
適していると推測した。これを明確にするため、同原料からナフテン環の含有量が異なる溶
媒成分を調製しメソゲン成分と加熱混合することで、そのピッチの異方性発現量の違いを
比較する予定である。また、本研究で行ったリオトロピック液晶特性に基づく調製方法によ
り得られたソフェーズピッチは、その紡糸性などに課題を残すことになった。このような結
果から、今後の研究では「高収率」および「高紡糸性」を両立できるメソゲン成分、溶媒成
分の調製条件を模索していく必要がある。しかし、本博士論文の主目的としたメソフェーズ
120
ピッチの高収率化を同手法により達成したのは事実であり、本研究において得られた数々
の知見はメソフェーズピッチの製造コストを低下のための一端を担い、メソフェーズピッ
チ系の炭素繊維の用途拡大のための礎になると考えている。
121
本論文の要約
高性能炭素繊維は、軽量で高強度という特性から航空宇宙・スポーツ分野などへの応用は
活発だが、高価格ゆえに自動車・建築分野など一般向け製品への適用は限定的である。本研
究グループは炭素繊維の用途拡大のためメソフェーズピッチ系炭素繊維に注目し、その製
造コストの低減に向けて継続的に研究している。メソフェーズピッチ系炭素繊維の製造コ
ストが高くなる原因の1つとして、前駆体であるメソフェーズピッチの低い製造収率が挙
げられる。そこで本博士論文では、炭素繊維紡糸用メソフェーズピッチの高収率調製法の開
発を目的とした。
メソフェーズピッチとは光学的に異方性を示すピッチであり、この異方性の発現はピッ
チ中の平板状分子の積層に由来するものだと考えられている。近年、本研究グループはメソ
フェーズピッチの1種である AR ピッチは、分子積層を形成している「メソゲン成分」と高
温溶融状態でメソゲン成分の自由挙動を許容する「溶媒成分」で構成されている「リオトロ
ピック液晶」と見なすことができることを示した。もしメソフェーズピッチ全般がリオトロ
ピック液晶であるならば、メソフェーズピッチの調製方法には改善の余地があり、メソフェ
ーズピッチの収率を大きく向上できる可能性がある。例えば、現行のメソフェーズピッチ製
造ではメソゲン成分と溶媒成分の双方を含む原料を同時に処理するため、工程の1つであ
る水素化処理ではメソゲン成分も低分子化されてしまい、過剰な量の溶媒成分が生成する。
この過剰な溶媒成分は後続の熱処理において除去されるため、メソフェーズピッチの収率
は非常に低いものとなる。これに対し、リオトロピック液晶であるという認識に基づけば、
それぞれの成分に対して別々に適切な処理を調製した後にそれらを混ぜ合わせることでメ
ソフェーズピッチを得うる。つまり、片方の成分には必要だが、もう片方の成分には不要も
しくは悪影響を及ぼす処理を避けることができ、メソフェーズピッチ製造の自由度が向上
するのみならず高収率化が期待できると考えた。
以下に本論文における各章の内容を示す。
第 1 章では、メソフェーズピッチの用途や従来の製造方法、液晶的特性に関する先行研究
について述べた。
第 2 章では、
「メソフェーズピッチはリオトロピック液晶特性を示す」ということの一般
性について検討した。さまざまな原料や製造方法により得られたメソフェーズピッチを用
意し、それらのリオトロピック液晶特性の有無を確認した。その結果、用意したすべてのメ
ソフェーズピッチがリオトロピック液晶特性を示すことが確認でき、原料や製造方法に関
係なくメソフェーズピッチはリオトロピック液晶特性を有していると結論付けた。また、リ
オトピック液晶特性はメソフェーズピッチの種類に影響されないものの、TC 値(メソフェ
ーズピッチが 100 vol.%異方性を示すために必要なメソゲン成分の最少量)はメソフェーズ
ピッチによって異なった。そして、これはメソフェーズピッチ中のメソゲン成分や溶媒成分
122
の物性の違いによるものだと推察した。
第 2 章での考察の結果を基に、続く第 3 章ではメソゲン成分の種類によって、第 4 章で
は溶媒成分の種類によって、それぞれ得られるメソフェーズピッチへの影響を調査した。
第 3 章では、溶媒成分を AR ピッチ由来成分(AR-THFS)に統一し、さまざまなメソゲン
成分と加熱混合した。その結果より、メソゲン成分の種類ごとにメソフェーズピッチの TC
値や軟化点が異なり、メソゲン成分の違いはメソフェーズピッチの物性に影響を及ぼすこ
とを見出した。
続く第 4 章では、AR ピッチ由来のメソゲン成分に対して、さまざまなメソフェーズピッ
チ由来の溶媒成分を加熱混合することで、メソフェーズピッチの物性に影響が現われるか
を調査した。さらに、別途調製した等方性ピッチが溶媒成分として機能するかどうかを評価
するため、スラリーオイルやコールタールピッチを原料として異なる物性を持つ等方性ピ
ッチを調製した。その結果、溶媒成分の種類によってメソフェーズピッチの物性が異なり、
メソフェーズピッチの物性は溶媒成分によっても左右されることがわかった。また、メソゲ
ン成分混合割合の増加とともに得られたメソフェーズピッチの異方性組織の含有量が増加
し、リオトロピック液晶特性が確認できた。これは、別途調製した等方性ピッチが、メソフ
ェーズピッチの溶媒成分として機能していることを意味している。このように第 3 章およ
び第 4 章の研究結果から、メソゲン成分や溶媒成分はいずれもメソフェーズピッチの物性
を決定する重要なファクターであることが確認できた。
第 5 章では、メソフェーズピッチのリオトロピック液晶特性に基づいて、別々に調製した
メソゲン成分と溶媒成分を用いたメソフェーズピッチの高収率調製を試みた。スラリーオ
イルやコールタールを原料として、低収率化の原因である水素化処理の代わりに加圧熱処
理および窒素吹き熱処理を施すことで、メソゲン成分や溶媒成分をそれぞれ調製した。これ
らの 2 成分を加熱混合することで、100 vol.%の異方性を持つメソフェーズピッチを水素化
処理なしで高収率で調製することに成功した。
第 6 章では、本研究により得られた主な研究成果について総括した。
123
謝辞
本論文は筆者が九州大学大学院総合理工学府量子プロセス理工学専攻博士課程後期課程
に在学中の研究成果をまとめたものである。同専攻教授である尹 聖昊先生には指導教官と
して本研究の実施の機会を与えていただき、またその遂行にあたって終始適切な助言と懇
切丁寧な指導をしていただいたことに深謝の意を表する。また、永長 久寛教授、宮脇 仁准
教授には副査として助言をいただくとともに本論文の細部にわたりご指導をいただいたこ
とに深謝の意を表する。同専攻の中林 康治助教にも本研究において、さまざまな助言をし
ていただいた。
また本研究において、さまざまな助言や質問、刺激を与えていただいた非常勤講師の下原
孝章氏、事務員の中野 美穂氏、先導物質化学研究所物質機能評価センターの出田 圭子氏、
学術研究員である島ノ江 明生博士、Yi Hyeonseok 博士、博士課程の He Da 氏、Choi JuEun 氏、修士課程の古志 康滉氏、徳丸 貴哉氏、都丸 大晟氏、西 将太氏、Gao Ailing 氏、
Li Minghao 氏、Peng Yuanshuo 氏、荒木 玲音氏、三味 幸太郎氏、野上 久哉氏、森永 健
太氏、Jiang Xunjian 氏、Wang Zhangxiao 氏、学士課程の坂本 喬志朗氏に感謝の意を表す
る。
令和 5 年 3 月
真塩 昂志
124
...