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書き出し

将来の地域医療の実践に対する地域医療臨床実習の影響:横断研究

八幡, 晋輔 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

Long-term impact of undergraduate communitybased clinical training on community healthcare
practice in Japan: a cross-sectional study

八幡, 晋輔
(Degree)
博士(医学)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8506号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100482254
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

(課程博士関係)

学位論文の内容要旨

Long-term impact of undergraduate community-based clinical training
on community healthcare practice in Japan: a cross-sectional study

将来の地域医療の実践に対する地域医療臨床実習の影響:横断研究

神戸大学大学院医学研究科医科学専攻
地域医療教育学
(指導教員:岡山 雅信 特命教授)
八 幡

晋 輔

【背景と目的】
地域基盤型医学教育とは、医育機関附属の病院ではなく、地域の現場で医学生の教育を行う
ものであり、世界的に導入されている。この教育手法は、医学生に幅広いスキルやコンピテン
スをもたらし、さらにプライマリ・ケアやへき地医療に対する意欲を向上させると報告されて
いる。また、人口の高齢化は様々な社会的課題を有している。このような課題に対応するため
に、プライマリ・ケアや地域医療が着目されており、それらを実践する医師の育成が求められ
ている。地域基盤型医学教育は、幅広いスキルやコンピテンスを有し、意欲的にプライマリ・
ケアや地域医療を実践する医師を育成するという点で非常に重要といえる。
しかし、地域基盤型医学教育の長期的な教育効果に関するエビデンスは不十分である。過去
に地域基盤型医学教育の教育効果に関して報告された結果の多くは、短期的な効果に関する
ものである。また、長期的な効果を評価したものに関しても、地方出身者や元々地域医療に対
する意欲の高い者を対象とした特別プログラムに関するものであり、選択バイアスが強く影
響している可能性がある。そのため、出身や元々の意欲などの要因を排除した、地域基盤型医
学教育そのものの長期的な教育効果が評価される必要がある。地域基盤型医学教育が、長期的
にプライマリ・ケアや地域医療の実践に影響を及ぼすことが立証されれば、この教育手法を充
実させる意義がより明確となる。
本邦では、2007 年の医学教育モデル・コア・カリキュラムに、初めて地域医療が記述され
た。しかし、本邦の医科大学では、従来から一部の医学生に地域の病院や診療所で臨床実習を
行う機会を提供してきた。このような実習は、地域基盤型医学教育の中でも、地域医療臨床実
習と言えよう。従来の地域医療臨床実習プログラムの長期的な効果を評価することは、本邦の
今後の地域基盤型医学教育の発展にとって極めて重要である。
本研究では、従来本邦で行われていた地域医療臨床実習が、医師の地域医療の実践に長期的
な影響を与えるかどうかを検証することを目的としている。

【方法】
対象
1998 年から 2004 年の間に神戸大学医学部を卒業し、卒後 15 年以上経過した医師を対象
に、質問紙調査を実施した。卒業生名簿から氏名および所属施設を抽出し、2019 年 9 月から
11 月の間に質問紙を郵送した。
定義

地域医療の実践
地域包括ケアシステムに関する以下の項目の実践・理解を、地域医療の実践とした。
(1)

在宅医療(訪問診療・往診、退院時共同指導)

(2)

予防医療(予防接種、健康教育または患者教育、健診活動)

(3)

多職種連携(地域ケア会議、保健職、福祉職、行政職、住民)

(4)

社会保障制度(介護保険制度、地域包括ケアシステム)

(5)

地域医療教育(医療現場、教育機関)

地域医療臨床実習
外来業務や病棟業務のみでなく、訪問診療または往診、訪問看護または訪問介護、デイサー
ビスまたはデイケア、介護施設、リハビリテーション、健診活動、予防接種、健康教育または
患者教育、巡回診療または出張診療といった経験を含む臨床実習を地域医療臨床実習とした。

へき地
2015 年国勢調査をもとに、1742 自治体を人口密度で 5 等分し、下位 3 分位に該当する自
治体をへき地とし、その他の自治体を都市部とした。
測定項目

主要アウトカム
地域医療の実践:定義した地域医療の実践の各項目の有無を測定し、いずれか 1 つでも実
践・理解があれば実践ありとした。

副次アウトカム
総合診療科勤務およびへき地勤務:調査時点の所属診療科および勤務地を測定した。

曝露因子
地域医療臨床実習:定義した地域医療臨床実習経験の有無を測定した。

交絡因子
全てのアウトカムに関して、年齢および性別を交絡とした測定した。また、アウトカムが地
域医療の実践と総合診療科勤務の場合、入学時点の地域医療への態度(やりがいおよび自信を
Visual analogue scale で測定)を交絡として測定した。加えて、アウトカムがへき地勤務の
場合、入学時点のへき地勤務希望(Visual analogue scale で測定)
、自身の出身地、配偶者の
出身地、居住地選択の際に子の進学を重視したかどうかを交絡として測定した。
統計解析
地域医療臨床実習あり・なしの 2 群に分け、各項目の連続変数は対応のない t 検定、カテゴ
リ変数はχ2 検定を用いて比較した。また、各アウトカム指標に関して、ロジスティック回帰
分析を用いて、地域医療臨床実習経験の粗オッズ比および調整オッズ比を算出した。

【結果】
研究対象者 793 名中、宛先不明者を除く 468 名に質問紙を郵送した。内、有効回答が得ら
れた 195 名(回答率 41.7%;195/468 名)を解析した。研究参加者の平均年齢(標準偏差)は
43.8(3.5)歳で、男性が 76.4%であった。48 名(24.6%)の医師が、地域医療臨床実習の経
験ありと回答した。実習期間の平均(標準偏差)は 26.3(27.3)日であった。実習地域が同定
可能であった 23 名全員が、都市部で実習を受けていた。148 名(76.3%)の医師が、現在地
域医療を実践していた。1 名(0.5%)だけが総合診療を主な専門としていた。12 名(6.5%)
がへき地で勤務していた。将来の地域医療の実践に対する地域医療臨床実習経験の粗オッズ
比(95%信頼区間 [CI])は 1.24 (0.53-3.08)、調整オッズ比(95%CI)は 1.00 (0.43-2.30)
と、差はなかった。将来のへき地での勤務に対する地域医療臨床実習経験の粗オッズ比
(95%CI)は 0.59 (0.06-2.94)、調整オッズ比(95%CI)は 0.59 (0.11-3.04)と、こちらも
差は同定できなかった。総合診療の選択に関しては、1 名のみであったため、オッズ比の算出
ができなかった。

【考察】
本研究において、2000 年前後に実施されていた地域医療臨床実習が、将来の地域医療の実
践や勤務地の選択に与える影響は同定されなかった。過去の研究において、米国の Rural
Physician Associate Program (RPAP) や University of Missouri Rural Track Pipeline
Program (MU-RTPP)、オーストラリアの Parallel Rural Community Curriculum (PRCC)と
いった教育プログラムは、専門診療科や勤務地選択において、長期的な影響をもたらしたと報
告されている。本研究結果は、これら既報とは異なる結果となった。その要因として、本研究
の地域医療臨床実習と既報の教育プログラムとでは、参加者の背景、経済的支援、実習地域、
実習スタイルという、4 つの点で違いがあったと思われる。既報の教育プログラムの参加者は、
もともとへき地医療に対する強い意欲があり、経済的支援を受け、へき地で実習を行い、実習
スタイルも Longitudinal Integrated Clerkship とよばれる 6~9 か月の長期臨床実習であっ
た。一方、本研究の地域医療臨床実習の参加者は一般的な医学生であり、特別な経済的支援は
受けておらず、都市部で実習を行い、実習期間は 4 週間程度であった。地域医療を実践する
医師を育成するためには、単に地域で実習を行うというだけでは不十分であり、実習場所や実
習内容を工夫する必要があると思われる。
本邦の医学教育モデル・コア・カリキュラムにおいて、全ての医学生が地域医療実習を経験
することが推奨されている。これは、日本政府が地域医療の充実を図るため、地域医療実習に
大きな期待を寄せていることの表れであると思われる。しかし、本研究結果からは、従来通り
の教育方略ではこの期待に十分に応えることは難しいといえる。実習地域や実習期間を含め、
地域医療臨床実習を再設計する必要がある。そして再設計された地域医療臨床実習は、その短
期的効果だけでなく、本研究のように長期的な効果が検証されるべきである。その際に、本研

究結果は、貴重な参考資料となると思われる。

【結論】
地域医療を実践する医師を効果的に育成するためには、従来の地域医療臨床実習では不十
分と考えられた。本邦の地域医療臨床実習は、その内容や質を見直すことを通して、標準化さ
れる必要がある。そして、今後も実習の中・長期的な教育効果が評価される必要がある。

神 戸大学大学院医学(
系)
研究科(博士課程)

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論文題目

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甲第

3250 号



受 付 番号



八幡 晋 輔

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将来の 地域医療の実践に対する地域医療臨床実習の影需 :横断研究

主 査
審査委員

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副 査

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(要旨は 1
, 000字∼ 2, 000字程度)


背景 と目的

地域基盤型 医学教育 とは、医育機 関附属の病院では な く、地域の 現場で医学生の教育を
行うも ので あり 、世界的に導入 されて いる。この教育手法は 、医学生に幅広 いスキルやコ
ンピテ ンスをもたらし 、さ らにプラ イマ リ
・ ケアやへき 地医療に対する意欲を向上させる
と報告さ れている。しかし 、地域基盤型医学教育の長期的な教育効果に関するエビデンス
は不十分である。
本邦の医科大学では 、従来から一部の医学生に地域の病院や診療所で臨床実習を行う機
会 を提 供 してきた。本研究では 、従来本邦で行われていた地域医療臨床実習が 、医師の地
域医療の実践に長期的 な影孵を与えるかどうかを検証することを目的として い る


方法


1998年から 2004年の間に神戸大学医学部を卒業し 、卒後 15年以上経過した医師を対
1月の間に質問紙 を郵送した。主要ア ウ
象に 、質問紙調査 を実施した。 2019年 9月から 1
トカム は地域医療の実践、副次アウトカ ムはへき地勤務 、暴露は地域医療臨床実習の有無
とした。各アウ トカム指標に関 して、 ロジスティック回帰分析 を用 いて、地域医療臨床実
習経験の粗オッズ比および調整オッズ比を算出した。

結果 】
、 宛先不明者を除く 468名に質問紙を郵送した。内、有効回答が得
研究対象者 793名 中
回答率 41.7%;1
95/468名) を解析した。研究参加者の平均年齢(標準偏
られた 195名 (

3
.
8(
3
.
5)歳で 、男性が 7
6
.
4
%であった。 48名 (
24.
6%)の医師が 、地域医療臨
差)は 4
6
.
3(
2
7
.
3
) 日であった。
床実習の経験ありと回答した。実習期間の平均(標準偏差)は 2
。 148名 (
76.
3%)
実習地域が同定可能であった 23名全員が 、都市部で実習を受けて いた
の医師が、現在地域医療を実践して いた
。 1名 (
0.5%)だけが総合診療を主な専門として

6.5%)がへき地で勤務していた。将来の地域医療の実践に対する地域医療
いた
。 12名 (
95%信頼区間 [
C
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]
)は 1
.
2
4(
0.
53-3
.
0
8
)、調整オッズ比
臨床実習経験の 粗 オッズ比 (
(
95%CI) は 1
.
0
0(
0
.
4
3-2.
3
0
)と、差はなかった。将来のへき地での勤務に対する地域医
95%CI) は 0
.
5
9(
0
.
0
6-2
.
9
4
)、調整オッズ比 (
95%CI)は
療臨床実習経験の粗オッズ比 (
0
.
5
9(
0
.
1
1-3.
0
4
)と、こちらも差は同定できなかった。総合診療の選択に関しては、1名の
みであったため 、オッズ比の算出ができなかった。
【考 察 】

本研究において 、2000年前後に実施されて いた地域医療臨床実習が、将来の地域医療の
実践や勤務地の選択に与える影轡は 同定されなかった。過去の研究において 、米国の Rural

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fMissouriRuralTrackP
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eProgram(RPAP)や U
Program(MURTPP)、オース トラリアの P
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a
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l
e
lRuralCommunit
yCurriculum(PRCC)

といった教育プログラムは、専門診療科や勤務地選択において、長期的な影害をもたらし
たと報告されている。本研究結果は、これら既報とは異なる結果となった。その要因とし
て、本研究の地域医療臨床実習と既報の教育プログラムとでは、参加者の背景、経済的支
援、実習地域、実習スタイルという、 4 つの点で違いがあったと思われる。既報の教育プ
ログラムの参加者は、もともとへき地医療に対する強い意欲があり、経済的支援を受け、

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へき地で実習を行い、実習スタイルも Lo
9 か月の長期臨床実習であった。一方 、本研究の地域医療臨床実習の参加者は一般的な 医

学生であり 、特別な経済的支援は受けておらず、都市部で実習を行い
、 実習期間は 4週間
程度であった。地域医療を実践する医師を育成するためには、単に地域で実習を行うとい
うだけでは不十分であり、実習場所や実習内容を工夫する必要があると思われる。
本邦の医学教育モデル ・コア ・カリキュラムにおいて、 全ての医学生が地域医療実習を
経験することが推奨されている 。 これは 、 日本政府が地域医療の充実を図るため、地域医
療実習に大きな期待を寄せていることの表れであると思われる 。 しかし、本研究結果から
は、従来通りの教育方略ではこの期待に十分に応えることは難しいといえる。実習地域や
実習期間を含め、地域医療臨床実習を再設計する必要がある 。 そして再設計された地域医
療臨床実習は、その短期的効果だけでなく、本研究のように長期的な効果が検証されるべ
きである。その際に、本研究結果は、貴重な参考資料となると思われる 。
【結諭 】
地域医療を実践する医師を効果的に育成するためには、従来の地域医療臨床実習では不
十分と考えられた。 本邦の地域医療臨床実習は、その内容や質を見直すことを通して、標
準化される必要がある。そして、今後も実習の中・長期的な教育効果が評価される必要が
ある。
本研究は、本邦における地域医療臨床実習が、長期的な経過において医師の地域医療の
実践に与える影響を明らかにし 、高齢化社会や医師の地域偏在という問題を 抱える我が 国
の、医学教育の問題点と改善点を示した価値ある業績であると認める 。よって本研究者は、
博士(医学)の学位を得る資格があるものと認める。

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