Clinical diagnostic value of telomere length measurement in inherited bone marrow failure syndromes
概要
【緒言】
骨髄不全症は骨髄低形成および汎血球減少を特徴とし、遺伝性骨髄不全症(Inherited bone marrow failure syndromes :IBMFS)と自己免疫的な原因によって起こる後天性再生不良性貧血(aplastic anemia:AA)に大別される。IBMFSは小児期の骨髄不全症の5-30%を占め、遺伝性角化不全症(dyskeratosis congenita:DC)、Fanconi貧血(Fanconi anemia:FA)、Diamond-Blackfan貧血(Diamond–Blackfan anemia:DBA)、Shwachman Diamond症候群(Shwachman–Diamond syndrome:SDS)などが含まれる。IBMFSは特徴的な身体の奇形や所見を呈することが多く従来は臨床診断がなされてきたが、その表現型は多様であり、血球減少以外の臨床症状がみられないこともある。近年、遺伝子解析の進歩により以前は後天性AAと診断されてきた特徴的な所見をもたない骨髄不全症においても、次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子解析によりIBMFSの診断がなされるようになってきた。
テロメアはDNAの分解や修復から染色体を保護する役割を担っており、老化とともに短縮することから加齢性変化を示すマーカーとされている。IBMFSのうち、DCはテロメアに関連する遺伝子の異常が原因であり、テロメア長が著明に短縮することが知られている。一方で、DC以外のIBMFSや後天性AAにおいても、テロメア長が短くなることが報告されているが、IBMFSと後天性AAのテロメア長を直接比較した研究はこれまでに見られない。本研究では骨髄不全症133例に対して次世代シーケンサーを用いた網羅的な遺伝子学的解析を行い、骨髄不全症をDC(11例)、DC以外のIBMFS(15例)、後天性AA(107例)の3群に分類した。さらに、3群のテロメア長を比較検討することで、骨髄不全症の診断におけるテロメア長測定の意義について検討した。
【対象及び方法】
2013年から2018年に名古屋大学医学部附属病院小児科でターゲットシークエンスによる遺伝子学的解析と、末梢血リンパ球のテロメア長を測定した骨髄不全症133例を対象とした。ターゲットシーケンスは次世代シーケンサーを用いて184のIBMFSに関連した遺伝子を網羅的に解析した。テロメア長はFlow-FISH法を用いて測定し、71人の健常人を対照とした年齢調整後の相対的テロメア長の標準偏差(standard deviation: SD)を算出し比較検討した。
【結果】
133例の骨髄不全症の患者をFigure1Aに示す診断基準に従い、26例をIBMFS、107例を後天性AAと診断した。IBMFS26例の内訳はDC11例、FA9例、DBA4例、SDS1例、Bloom症候群1例であった(Figure1B)。DCの9例は、TINF2に6例、TERTに3例の遺伝子変異が同定され遺伝子学的診断に至った。遺伝子変異が同定されなかったDCの2例は、臨床診断基準に従って診断した。DC以外のIBMFSは、IBMFS関連の遺伝子変異が全例で同定され15例が遺伝子学的診断に至った。以上を、DC(11例)、DC以外のIBMFS(15例)、後天性AA(107例)の3群に分類し、比較検討した(Table1)。年齢と性別は3群間で有意差を認めなかった。血球減少症の重症・最重症の比率が、DCは3例(30%)、DC以外のIBMFSは2例(17%)で、AAの57例(53%)と比較して有意に低かった(P=0.024)。133例の全体におけるテロメア長の中央値は-0.96SD(範囲-5.73to+4.00SD)であった。疾患ごとのテロメア長の中央値を比較すると、DCでは3.50SD(範囲-5.73to+0.83SD)、DC以外のIBMFSでは-1.89SD(範囲-4.74to+2.05SD)、後天性AAでは-0.84SD(範囲-4.27to+4.00SD)であり、DCおよびDC以外のIBMFSは後天性AAよりもテロメア長が有意に短縮していた(Figure2A)。また、Receiver Operating Characteristic(ROC)曲線を用いてDCとDC以外の骨髄不全症を区別するテロメア長のカットオフ値を<−2.19SDと算出し、Veryshorttelomere lengthと定義した(Figure2B)。また、DCを含むIBMFSと後天性AAを区別するカットオフ値を<-1.71SDと算出し、Relativelyshort telomere length(TL)と定義した(Figure2C)。全体のコホートのうち44例(33%)がRelativelyshortTLに相当し、DCの10例(91%)とDC以外のIBMFSの9例(60%)は、AAの25例(23%)と比較して有意にRelativelyshortTLの頻度が高く(Table1)、IBMFSのテロメア長は後天性AAに比べて短縮していることが示された。
【考察】
本研究では次世代シーケンサーを用いたターゲットシークエンスによる網羅的遺伝子学的解析を実施したコホートにおいて、Flow-FISH法を用いてテロメア長を測定し、テロメア長が正常値の-1.71SD未満を新たな基準としてRelativelyshortTLと定義した。この基準を満たした患者は、DC(91%)とDC以外のIBMFS(60%)で、後天性AA(23%)よりも高頻度に見られた。以上から、骨髄不全症におけるテロメア長の測定はDCのスクリーニング検査のみでなく、網羅的な遺伝子解析を必要とするDC以外のIBMFSの診断においても、有用な補助的診断ツールになりうると考えられた。本研究の限界は症例数が少ないことが考えられるが、IBMFSの診断におけるRelativelyshortTLの検出力を計算したところ0.998の検出力が得られ、十分な症例数の解析であることが示された。DC以外のIBMFSの症例数が少なく(n=15)、個々の疾患のテロメア長を直接比較することは難しいが、FAの6/9例、DBAの2/4例、SDSの1例でテロメア長の短縮(<-1.71SD)を認め(Figure1B)、テロメア長の中央値はFAで-1.84SD(範囲-4.74to+2.05SD)、DBAで-0.89SD(範囲-2.83to+1.21SD)、SDSで-1.99SDであった。この結果は、FA、DBA、SDSでもテロメア長が短縮していることを示した過去の症例報告を支持するものであった(Table2)。遺伝性骨髄不全症は希少疾患のため、今後の症例の蓄積が望まれる。
【結論】
本研究により、骨髄不全症の患者のテロメア長を測定することは、DCの診断のみでなく、DC以外のIBMFSのスクリーニング検査としての役割も果たすことが期待される。テロメア長の短い骨髄不全症の患者に対して次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子解析を行うことで、IBMFSをより確実に診断することができる可能性がある。