生物情報ネットワークの解析と制御
概要
令和4年度
京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
生物情報ネットワークの解析と制御
Analysis and Control of Biological Information Networks
京都大学 化学研究所 数理生物情報研究領域
阿久津 達也
研究成果概要
生物情報ネットワークの解析について、ブーリアンネットワーク(BN)とニューラルネットワー
クを主対象にこれまでの研究を継続・発展させた。
BN は遺伝子ネットワークの離散数理モデルの一つである。BN は、基本的に、同期してネッ
トワーク全体の状態が変化するが、すべての可能な状態を考えた場合、次の時刻においてど
のくらい元の状態が保存、もしくは、失われるかの理論解析を行った。特に、ブール関数として
XOR 関数、Canalyzing 関数、閾値関数を用いた場合についてエントロピーを用いて解析した
[1]。主要な結果の一つとして、XOR 関数の場合、入次数が奇数の場合にはエントロピーを保
存する BN が存在するが、入次数が偶数の場合にはそのような BN が存在しないことを示した。
また、Canalyzing 関数を用いた場合のエントロピーの上限と下限を導いた。
BN において静的もしくは周期的な定常状態はアトラクターとよばれるが、それらは細胞の種
類などと関連する可能性があることから、その検出のために多数の研究が行われてきた。しか
し、幅広い BN のクラスに対し O(2n)時間より高速に周期的アトラクターを検出することのできる
アルゴリズムは知られていない(ただし、n は頂点数)。そこで、その壁を破るために、各頂点の
状態についての事前情報を利用するアルゴリズムを開発した[2]。さらに、実際の生体ネットワ
ークの BN モデルを用いてその有効性を評価した。
ニューラルネットワークの表現能力については以前より多数の研究が行われていた。しかし、
まだ十分に解明されていない。そこで、他の数理モデルであるランダムフォレストと二分決定グ
ラフ(BDD)との表現能力の違いを、頂点数や階層数を指標として理論的に解析した[3]。具体
的には(あるモデル化のもとで)、任意のランダムフォレストは3層のニューラルネットワーク、深
さ D の BDD は、O(log D)層のニューラルネットワークで表現可能であることを示すなどの結果
を得た。
発表論文(謝辞なし)
[1] S. Guo, P. Liu, W-K. Ching, T. Akutsu, On the distribution of successor states in Boolean
threshold networks. IEEE Trans. Neural Networks and Learn. Syst., 33(9), 4147-4159, 2022.
[2] U. Münzner, T. Mori, M. Krantz, E. Klipp, T. Akutsu, Identification of periodic attractors in
Boolean networks using a priori information. PLoS Comput. Biol., 18(1), e1009702、2022.
[3] S. Kumano, T. Akutsu, Comparison of the representational power of random forests, binary
decision diagrams, and neural networks. Neural Comput., 34(4), 1019-1044, 2022. ...