視床高悪性度神経膠腫摘出例におけるヒストン変異およびTERT promoter変異と生存予後に関する研究
概要
高悪性度神経膠腫は, 2016 World Health Organization (WHO)脳腫瘍分類でグレード III およびIV に分類される神経膠腫である. 集学的治療を実施した場合でも予後不良であり, グレード III である退形成性星細胞腫およびグレード IV である膠芽腫の全生存期間中央値は, それぞれ 38.0 ヵ月および 15.0 ヵ月である.その内, 視床で発生した高悪性度神経膠腫は稀少であり, さらに予後不良である. 視床神経膠腫の約 50%にヒストン変異である H3K27M 変異を認め, 小児例では予後不良因子とされているが, 過去の生検例を主体とした研究では成人例では生存予後との関係はみられないとされる. 病変が脳の深部である視床に発生し ているため合併症回避の観点より最大限の腫瘍摘出術が行われず, 生検術および化学放射線療法で治療さ れることも少なくない. そのため, 最大限の腫瘍摘出および化学放射線治療実施例の予後に関する報告は少ない. また, 成人星細胞由来神経膠腫で予後不良因子である Telomerase reverse transcriptase promotor (TERTp)変異について, これまでに視床高悪性度神経膠腫の生存予後に関する報告はなく変異と生存予後 との関係は不明である. 本研究では, 成人視床高悪性度神経膠腫におけるH3K27M 変異またはTERTp 変異と生存予後との関係を明らかにするため, 腫瘍摘出術を実施した成人視床高悪性度神経膠腫を後方視的に 解析した.
1997 年 1 月から 2020 年 3 月に東北大学病院または北里大学病院で最大限の腫瘍摘出術を実施した初発成人視床高悪性度神経膠腫 25 例を対象とし, 後方視的検討を行った. H3K27M 変異および TERTp 変異の有無に着目し, 腫瘍の組織学的診断および分子学的診断について比較検討した. また, ぞれぞれの無増悪生存期間および全生存期間について検討した.
H3K27M 変異は 12 例/25 例 (48.0%)でみられた. TERTp 変異は H3K27M 変異群では見られず, H3 野生型群の 8 例/13 例 (61.5%)でみられた. 統計学的有意差は認めなかったが, H3 野生型群に比較してH3K27M変異群で無増悪生存期間 (中央値 6.7 ヵ月; P = 0.2928)および全生存期間 (中央値 22.8 ヵ月; P = 0.2875)ともに短い傾向であった. さらに, H3K27M 変異群とTERTp 変異群との比較では, TERTp 変異群がH3K27M変異群と同様に予後不良であった. また, H3 またはTERTp のいずれかに変異を認めた群と比較して, H3 およびTERTp ともに野生型の群では無増悪生存期間 (59.2 ヵ月; P = 0.0456)および全生存期間 (71.8 ヵ月; P= 0.1168)ともに長い傾向を認め予後良好であった.
本研究では, TERTp 変異はH3K27M 変異と相互排他的に認めた. H3 野生型群に見られるTERTp 変異は, H3K27M 変異と同様に予後不良因子と考えられ、そのために腫瘍摘出術実施例においても H3 野生型群と H3K27M 変異群の間に生存の違いは確認できなかった. さらなる大規模研究による実証が望まれる.