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大学・研究所にある論文を検索できる 「磁気共鳴分光法を用いた2-hydroxyglutarate測定による成人脳幹グリオーマの遺伝子診断」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

磁気共鳴分光法を用いた2-hydroxyglutarate測定による成人脳幹グリオーマの遺伝子診断

岩橋, 洋文 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

2-HYDROXYGLUTARATE MAGNETIC RESONANCE
SPECTROSCOPY IN ADULT BRAINSTEM GLIOMA

岩橋, 洋文
(Degree)
博士(医学)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8604号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100482352
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

(課程博士関係)

学位論文の内容要旨

2-HYDROXYGLUTARATE MAGNETIC RESONANCE
SPECTROSCOPY IN ADULT BRAINSTEM GLIOMA
磁気共鳴分光法を用いた 2-hydroxyglutarate 測定による成人脳幹グリオーマの遺伝子診断

神戸大学大学院医学研究科医科学専攻
脳神経外科学
(指導教員:篠山 隆司教授)

岩橋 洋文

【背景】

成人脳幹グリオーマは全成人グリオーマの 2%以下と稀な腫瘍で、小児脳幹グリオ
ーマよりは予後良好とされているが、平均生存期間は 30-40 ヶ月程度である。その
中でも H3K27M 変異をもつものは diffuse midline glioma と呼ばれ、生存期間の中
央値は 10-20 ヶ月と極めて予後不良である。対照的にイソクエン酸脱水素酵素(IDH)
変異をもつものは生存期間の中央値が 43.8―141 ヶ月と予後は比較的良好である。
IDH は通常イソクエン酸をαケトグルタル酸に変換するが、変異型 IDH はαケトグ
ルタル酸をさらに 2-ヒドロキシグルタル酸(2HG)に変換する。そのため 2HG は IDH
変異を示すバイオマーカーとして用いられる。さらに H3K27M 変異と IDH 変異は相
互排他的な関係にあると報告されている。そのため H3K27M 変異や IDH 変異の有無
を知ることは治療戦略を立てたり、患者の予後を推定するために重要である。確定診
断には生検による病理組織検査が必要であるが、脳幹病変に対する生検の難しさを考
慮すると非侵襲的な検査が必要である。近年テント上グリオーマにおいて、組織中の
2HG を磁気共鳴分光法(MRS)で非侵襲的に検出することができることが報告され
ている。脳幹グリオーマにおいても 2HG に最適化された MRS(2HG-MRS)が診断
に有用である可能性がある。
【目的】
本研究の目的は、成人脳幹グリオーマに対する 2HG-MRS の遺伝子診断と予後予測
における有用性を評価することである。
【方法】
2005 年 7 月から 2022 年 5 月の間に神戸大学医学部附属病院脳神経外科において
治療された全グリオーマ患者のうち、放射線画像検査で新規の脳幹部腫瘍が確認され、
3 テスラ装置を用いて MRS を行ったのちに生検を行い、その後放射線単独もしくは
放射線化学療法を行った 10 症例を対象とした。MRS は、T2 強調画像もしくは FLAIR
画像を参考に病変部にボクセルを設定し、2HG 用 MRS プロトコル(Philips 社製 3
テスラ MRI 装置 Achieva; point-resolved spectroscopic sequence [PRESS]; echo
time, 35 ms)に従って解析した。10 症例全てで病理組織学的診断のため術中ナビゲ
ーションガイド下、もしくは CT ガイド下に生検を行った。IDH および H3K27M 変
異の有無を免疫組織化学検査および DNA の直接塩基配列シーケンスによって確認し
た。さらに MRS における 2HG 濃度と、IDH 変異の有無、生存期間との関連を調べ
た。
【結果】
10 名の患者(男性 7 名、女性 3 名、年齢中央値 33.5 歳)に対し 2HG-MRS と生検

を行った。生検に関連した合併症は生じなかった。H3K27M 変異が 4 名に、IDH1 変
異が 4 名(典型的な R132H 変異が 1 名、非典型的な R132S 変異が 2 名と R132G 変
異が 1 名)にみとめられた。IDH2 変異を有する症例はみられなかった。2 名には
H3K27M 変異、IDH 変異共にみられなかった。H3K27M 変異と IDH 変異は相互排
他の関係にあった。ほとんどの腫瘍が橋に存在していた。従来の MRI シーケンスに
おいて、H3K27M 変異の有無、IDH 変異の有無に有意な差はみられなかった。MRS
における 2HG 濃度≥1.8mM が IDH 変異に対する感度 100%(95%信頼区間 28%–
100%)、特異度 100%(95%信頼区間 42%–100%)を示した(p = 0.0048)。全生存
期間の中央値は IDH 野生型脳幹グリオーマ患者 6 名において 10 ヶ月であったが、
IDH 変異型脳幹グリオーマ患者 4 名においては死亡者が少ないため算出できなかっ
た。カプランマイヤー曲線では IDH 変異型脳幹グリオーマで全生存期間が有意に長
かった。
(p = 0.008)

【考察】
テント上グリオーマにおいて、IDH 変異の診断に 2HG-MRS は広く用いられてい
るが、脳幹グリオーマにおいて 2HG-MRS を行い生検により分子診断を確認した報告
は我々が渉猟しえた限りでは見当たらなかった。IDH 変異にはいくつかのサブタイプ
があり、テント上グリオーマにおいては IDH1 R132H 変異がもっとも頻度が高く、
その他のサブタイプは稀である。一方テント下グリオーマにおいては IDH1 R132C や
R132G といったサブタイプがしばしばみとめられる。本研究でも IDH 変異をみとめ
た 4 例のうち、1 例で R132G、2 例で R132S 変異をみとめており、これらは通常稀
なサブタイプである。免疫組織化学染色で通常用いられるのは R132H の抗体である
が、脳幹グリオーマの診断においては他のサブタイプを同定できないため不十分であ
る。MRS は変異 IDH により産生される 2HG を直接検出できるという点で有用であ
ると考えられた。
画像所見に関して、Aboian らは H3K27M 変異の有無と画像所見は関連しなと報告
しているが、Wang らは H3K27M 変異と腫瘍の造影効果は予後不良と関連していた
と報告している。本研究でも H3K27M 変異をみとめた 4 例中 2 例は腫瘍の造影効果
をみとめたが残り 2 例は造影効果をみとめなかった。造影効果の有無だけでは分子情
報や予後を推定するのは困難であると考えられる。
脳幹病変に対する MRS は病変が小さいことや、骨のアーチファクトにより磁場の
不均一を生じる可能性があるが、びまん性に腫脹した病変は髄液の影響が少ないこと
で MRS に適している可能性がある。偽陽性や偽陰性を生じるもとになる壊死や出血、
石灰化が脳幹グリオーマに少ないことも今回の結果に繋がったと考えられた。
2016 年の WHO 分類の改定以降、中枢神経系腫瘍の診断に分子診断が必須となっ
ており、脳幹グリオーマにおいても安全に生検できるという報告もなされている。今

回我々も 10 例の脳幹グリオーマに対する生検も合併症なく行うことができた。それ
でもなお、診断に十分な組織量が採取できない場合や、生検自体が行えない場合が存
在する。また、直接 DNA シーケンスは行うことができる施設は限られており、組織
量もある程度必要である。我々は 2HG-MRS が脳幹グリオーマの診断や非典型的な
IDH 変異の検出、予後の推測、治療効果のモニタリングなどの補助に役立つものと考
えている。
【結論】
2HG-MRS は成人脳幹グリオーマにおいて IDH 変異に対する高い感度と特異度を
示し、予後予測にも有用である可能性が示唆された。MRS を用いた非侵襲的な 2HG
検出が成人脳幹グリオーマ患者の診断、治療に役立つものと思われた。

神戸大学大学院医学(
系)研究科(博士課程)

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
受付番号

I
甲 第 3269号

氏 名

岩橋洋文

磁 気 共 鳴 分 光 法 を 用 い た 2・
hydroxyglut
a
ra
t
e測 定 に よ る
論文題目

1

成人脳幹グリオーマの遺伝子診断

Ti
t
l
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f
2HYDROXYGLUTARATEMAGNETICRESONANCE
D
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t
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SPECTROSCOPYINADULTBRAINSTEMGLIOMA

主 査
審査委員

Examin
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fExaminer
副 査

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副 査

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1
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e・
exam1ner

加九霞恐

つ 屋紋打こ

叶Iシ\~

(要旨は 1
, 000字 ∼ 2, 000字程度)


背景】
成人脳幹グリオーマは全成人グリオー マの 2%以下と稀な腫瘍で、 小児脳幹グリオー
マよりは予後良好とされているが、平均生存期間は 30-40ヶ月程度である 。その中でも

H3K27M変異をもつものは d
i
f
f
u
s
em
i
d
l
i
n
egliomaと呼ばれ、生存期間の中央値は 1
0IDH) 変異をもっ
20ヶ月と極めて予後不良である 。対照的にイソクエン酸脱水素酵素 (
3
.
8
-141ヶ月と予後は比較的良好である 。IDHは通常イソ
ものは生存期間の中央値が 4
クエン酸を aケ トグルタル酸に変換するが 、変異型 IDHは aケトグルタル酸をさらに 2
ヒドロキシグルタル酸 (
2HG) に変換する 。そのため 2HGは IDH変異を示すバイオマ
ーカーとして用いられる。さらに H3K27M変異と IDH変異は相互排他的な関係にある
と報告さ れ ている 。 そのため H3K27M変異や IDH変異の有無を知ることは治療戦略を
立てたり、患者の予後を推定するために重要である 。確定診断には生検による病理組織
検査が 必要であるが、 脳 幹病変に対する生検の難しさを考慮すると非侵襲的な検査が必

MRS)
要である 。近年テン ト上グリオーマにおいて、組織中の 2HGを磁気共鳴分光法 (
で非侵襲的に検出することができることが報告されている 。脳幹グリオーマにおいても

2HGに最適化された MRS (2HGMRS) が診断に有用である可能性がある 。
【目的 】
本研究の目的は、成人脳幹グ リオーマに対する 2HG-MRSの遺伝子診断と予後予測に
おける有用性を評価することである 。

方法】

2005年 7月から 2022年 5月の間に神戸大学医学部附属病院脳神経外科において治療
された全グリオーマ患者のうち、放射線画像検査で新規の脳幹部腫瘍が確認され、 3テス
ラ装置を用いて MRS を行ったのちに生検を行い、その後放射線単独もしくは放射線化

0症例を対象とした。MRSは、T2強調画像もしくは FLAIR画像を参
学療法を行った 1
考に病変部にボクセルを設定し、 2HG用 MRSプロトコル (
P
h
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l
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p
s社 製 3テスラ MRI
装置 A
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csequence[PRESS];
e
c
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otim
e
,35ms) に従

0症例全てで病理組織学的診断のため術中ナビゲーションガイド下 、も
って解析した。 1
しくは CTガイ ド下に生検を行 った。 IDHおよび H3K27M変異の有無を免疫組織化学
検査および DNAの直接塩基配列シーケンスによって確認した。 さらに MRS における

2HG濃度と 、IDH変異の有無、生存期間との関連を調べた。

結 果】

10名の患者(男性 7名、女性 3名、年齢中央値 3
3
.
5歳)に対し 2HG-MRSと生検を
行った。生検に関連した合併症は生じなか った。 H3K27M変異が 4名に、 IDHl変異が

4名(典型的な R132H変異が 1名、非典型的な R132S変異が 2名と R132G変異が 1
名)にみとめられた。 IDH
2変異を有する症例はみられなかった。 2名には H3K27M変

、 IDH変異共にみられなかった。 H3K27M変異と IDH変異は相互排他の関係にあっ
た。ほとんどの腫瘍が橋に存在していた。従来の MRIシーケンスにおいて、 H3K27M変
異の有無 、IDH変異の有無に有意な差はみられなかった。 MRS における 2HG濃 度
:l
.8mMが IDH変異に対する感度 100% (
95%信頼区間 28%-100%)、特異度 100%
p=0
.
0
0
4
8
)。全生存期間の中央値は IDH野生
(
95%信頼区間 42%-100%)を示した (
0ヶ月であったが 、IDH変異型脳幹グリオーマ患
型脳幹グ リオーマ患者 6名において 1
者 4 名においては死亡者が少ないため算出できなかった。カプランマ イ ヤー曲線では

IDH変異型脳幹グリオーマで全生存期間が有意に長かった。 (
p=0
.
0
0
8
)。

結 論】

2HGMRS は成人脳幹グリオーマにおいて IDH変異に対する高い感度と特異度を示
し、予後予測にも有用である可能性が示唆された。 MRSを用いた非侵襲的な 2HG検出
が成人脳幹グリオーマ患者の診断、治療に役立つものと思われた。
本研究は、 IDH変異による代謝産物 2HGに注目し、生検が困難な成人脳幹グリオー
マにおける非侵製的「バイオプシー」法としての MRSの有用性を明らかにし 、脳腫瘍診
断において重要な貢献をしたものと認める 。よって、本研究者は、博士(医学)の学位を
得る資格があると認める 。

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