Comparison of postoperative knee stabilities between cruciate-retaining and posterior-stabilized total knee arthroplasty with medial preserving gap technique
概要
はじめに
我々は人工膝関節全置換術(TKA)の術後内側膝不安定性を回避するため,TKAの新しい術中軟部組織バランスの獲得法として外側弛緩性を許容し内側安定性の獲得を重視したmedial preserving gap technique(MPGT)を考案し,PS-TKAにおいてmeasured resection technique(MRT)にt匕ベより安定した内側安定性が得られることを報告した1⁾.またPS-TKAにおいて,術後内側膝安定性が術後1年の歩行能力や満足度に影響を与えることを報告し2⁾,PS-TKAにおいてMPGTが有用であると考えている.さらに我々はCR-TKAにおいてもMPGTを使用している.本研究ではMPGTを使用したTKAの術後膝安定性において,CR-TKAとPS-TKAを比較検討したため報告する.
対象と方法
内反型0Aに対してMPGTを使用して初回TKAを施行した116例を対象とし,CR-TKAを行った59膝(CR群)とPS-TKAを行った57膝(PS群)を対象とした.
MPGTの手術手技を以下に紹介する.伸展gapはMRTと同様関節面が機能軸に垂直となるように作成し,内側軟部組織解離は脛骨外顆骨切り量に相当するspacer blockが挿入可能となるまでに留めた.続いてOFR-tensor®を用いて大腿骨後顆骨切り前の伸展・屈曲位での軟部組織バランスを評価し(center gap, varus angle), varus angleの差から大腿骨外旋骨切り角度の計画を行い,その回旋角度で計測した大腿骨前後サイズとtensorでの伸展・屈曲位のcenter gapの差から大腿骨component size を決定した.
膝関節安定性の評価は単純X線ストレス撮影を用い,術後1力月,6力月,1年,3年の時点で評価を行った.伸展位の評価には,15°屈曲位でTelos SE®を用いた10kg負荷での内外反ストレス撮影を行い,内外側の関節裂隙幅,すなわち大腿コンポーネント顆部最下点とポリエチレンインサートとの距離を計測!し,それぞれextension medial joint opening(Ext. MJO), extension lateral joint opening(Ext. LJO)とした.屈曲位の評価は,1.5kg重錘負荷での上顆軸撮影を行い,内外側の関節裂隙幅をそれぞれflexion medial joint opening(Flex. MJO), flexion lateral joint opening(Flex. LJO)とし計測した.なお,すべての計測値は脛骨コンポーネント遠位端の直径を計測して撮影倍率を求め補正した.
各時期における各群内での伸展・屈曲位のMJOとLJOの比較をpairedt-testで検討し,2群間の比較をunpairedt~testを用いて解析した(p<0.05).
また各群の伸展・屈曲位のMJO,LJOの経時的変化についてrepeated measures ANOVAを用いて検討した(ρ<0.05).
結果
各時期における伸展位のMJO, LJOを図1に,屈曲位のMJO, LJOを図2に,群別に示した.
両群とも全時期で伸展・屈曲位ともにMJOはLJOと比べて有意に小さな値を示した.また全時期において伸展位のMJOはCR-TKAがPS-TKAに比べて有意に小さな値を示した.伸展位のMJO, LJO,屈曲位のMJOは,両群ともに有意な経時的変化を認めなかったが,屈曲位のLJOはCR-TKAでは術後1力月から1年まで,PS-TKAは術後1力月から6力月までに有意な増加を認めた.
考察
我々はMPGTを用いたPS-TKAにおいて安定した内側gap kinematicsが得られることを報告し1\またCR-TKAにおいてもPS-TKAと同様に安定した内側gap kinematicsが得られることを報告した3\本研究における術後膝安定性の検討ではCR群でもPS群と同様に外側弛緩性を残しながら内側安定性が確保されており,その効果は術後3年間維持されていた.
また伸展位の外側安定性は術後3年まで維持されていたが,屈曲位の外側弛緩性はCR群では術後1年まで,PS群では術後6力月まで増加を認めた.
TKA術後の外側弛緩性は経過とともにある程度減少してくるとの報告があるが4\本研究ではCR群,PS群ともに屈曲位の外側弛緩性の増加を認めた.術後の過度な外側弛緩性は経過とともに減少するが,MPGTを用いたTKAでは術直後の屈曲位の外側弛緩性が少ないため,経過とともに外側弛緩性が増加したと考えられた.
結語
Medial preserving gap techniqueを用いたTKAにおいて,術後膝安定性は内側の方が外側に比べより有意に安定しており,術後3年間維持された.