超伝導重力計で観測された重力季節変化のモデル化
概要
重力の時間変化を詳細に捉えることは,地球内部の質量の移動や密度の変化に関する情報を得
ることに繋がる.北海道大学や産業技術総合研究所などで構成された研究グループは,道東のカ
ルデラ地域の精密重力観測を通してテクトニックな活動や火山活動のモニタリングを行うため,
北海道大学弟子屈観測所で超伝導重力計 iGrav#17 による観測を 2018 年から 2022 年まで行った
(名和ほか,2019)
.iGrav は,センサー部を液体ヘリウムで極低温に冷却して超伝導状態を作り
出し,超伝導物質で出来た試験球を磁気浮上させ,その位置変化から極めて高感度で安定的に重
力を連続測定できる.そのため,µGal(=10-8 m/s2) 以下の,いわゆるサブマイクロガルレベル
までの微小な重力時間変化の議論が可能である.
重力計によって捉えられる重力変化には,潮汐や気圧変化に対する応答,極運動による影響な
どのほか,観測点周辺の陸水の移動による成分が含まれている.例えば,神岡鉱山(東ほか,
2009)や桜島(風間ほか,2014)で観測された重力季節変化は積雪や降雨などに伴う地下水の移
動が原因であると示唆されている.これらの環境影響を重力データから取り除くことができれば,
地殻変動や火山活動に伴う重力変化の検出が可能となる.
本研究では,弟子屈観測所の iGrav で観測した 4 年分のデータを解析することで,前半 2 年と
後半 2 年で異なる冬から春先に掛けての重力変化を検出することができた.それから,観測され
た 4 年間の重力季節変化を再現可能な陸水重力変化モデルを構築した.陸水重力変化の計算に必
要なパラメータの 1 つである飽和透水係数は,前半 2 年間のデータから山佳・名和(2020)で推
定されたものよりも 1 桁大きな値が得られた. ...