リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「ウイルス感染による自然免疫応答誘導メカニズムの解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

ウイルス感染による自然免疫応答誘導メカニズムの解析

石渡(青山), 幸恵子 東京大学 DOI:10.15083/0002001495

2021.09.08

概要

【序論】
ウイルス感染が起こった時、細胞内においてウイルス由来核酸は“非自己”として認識され、抗ウイルス作用のあるインターフェロン(IFN)の分泌や感染細胞のアポトーシスという抗ウイルス応答が引き起こされる。これまでの研究で、Retinoic acid-inducible gene-I (RIG-I) や Melanoma differentiation-associated gene 5 (MDA5) といった基質特異性の異なる RIG-I Like Receptors (RLRs) がウイルス RNA の認識を担うことが明らかにされてきた。さらに、ウイルスRNA を認識したRLRs は、下流の共通アダプター分子Interferon-beta promoter stimulator 1 (IPS-1)と結合することによってそれを活性化し、抗ウイルス応答を惹起することが明らかとなっている。IPS-1 のノックアウトマウスは野生型に比べ様々なウイルスに対する抵抗性が失われることが報告されており、この事実からも IPS-1 が抗ウイルス応答の重要な鍵分子であることが分かる。しかしながら、RLRs や IPS-1 による抗ウイルス応答誘導機構には未解明な点が多く残されている。特に、IPS-1 がどこで RLRs と相互作用しどのように IPS-1 が活性化するのか、その詳細なメカニズムは不明である。そこで本研究では、抗ウイルス応答誘導に関わる分子メカニズムに関して新たな知見を得ることを目的とした。そして、新たな IPS-1 結合因子として RNA 結合タンパク質である Nucleoside diphosphate linked moiety X (Nudix) - type motif 21(NUDT21)を見出し、NUDT21 が抗ウイルス応答誘導に必須の役割を果たすことを初めて明らかにした(図 1)。

【方法・結果】
(1) NUDT21 は IPS-1 の結合因子である
私はまず、IPS-1 の局在制御や活性化制御に関わり抗ウイルス応答誘導に重要な役割を果たす新規分子が存在するのではないかと考えた。当研究室の先行研究において、質量分析による IPS- 1 の結合因子の網羅的探索が行われていたことから、その結果を調べたところ、NUDT21 という RNA 結合タンパク質のフラグメントが検出されていた。そこで、NUDT21 が本当に IPS-1 と相互作用するかを検討するため、293T 細胞に IPS-1 と NUDT21 を
過剰発現して免疫沈降を行った。その結果、IPS-1 と NUDT21 が共沈降することが判明した(図 2)。したがって、NUDT21 と IPS-1が複合体を形成していることが示唆された。

(2) NUDT21 は抗ウイルス応答誘導に必須の分子である
NUDT21 は、mRNA のポリ A 配列付加部位を決定する選択的プロセシングに関わることが示されているものの、それ以外の機能についてはほとんど報告がない。さらに、NUDT21 の免疫系での働きについては全く明らかにされていない。そこで、NUDT21 がウイルス感染時の抗ウイルス応答誘導に関わるかどうかを検討するため、子宮がん由来内皮細胞 HeLa S3 細胞において NUDT21 をノックダウンし、ウイルス感染模倣刺激として合成二本鎖 RNA である poly (I:C) のトランスフェクションを行った(以下dsRNA 刺激と記す)。細胞にウイルスが感染すると、転写因子 IRF-3 や NF-κB、MAPK の p38 や JNK が活性化し、抗ウイルス作用のある IFN-βや炎症性サイトカインである IL-6、TNF-αの発現を誘導すること、またウイルスの感染拡大を防ぐためにアポトーシスを誘導することが知られている。驚いたことに、NUDT21 をノックダウンした細胞では dsRNA 刺激によるこれら転写因子と MAPK の活性化や、アポトーシスを誘導する Caspase-3 の活性化が抑制されることが判明した(図 3A)。さらに、IFN-β、IL-6、TNF-αの発現も NUDT21 のノックダウンで顕著に抑制された(図 3B)。これらの結果から、NUDT21 が抗ウイルス応答の活性化に必須の役割を果たす分子であることが示唆された。

また、NUDT21 が実際のウイルス感染時においても抗ウイルス応答の誘導に必要であるかを検討するため、主に RIG-I と MDA5 によってそれぞれ認識される水泡性口内炎ウイルス(VSV)と脳心筋炎ウイルス (EMCV)を細胞へ感染させた。その結、VSV、EMCV どちらの感染による IFN- βの mRNA 量の上昇も、NUDT21 のノックダウンによって抑制される傾向にあることが判明した(図 3C, D)。以上の結果から、RNA の種類によらない様々なウイルス感染に対する防御に NUDT21 が必要である可能性が強く示唆された。

(3) 一部の NUDT21 はミトコンドリアに局在する
NUDT21 が核内で mRNA の選択的プロセシングに関わる一方、IPS-1 は主に細胞質のミトコンドリア外膜上で機能することが知られており、両者が細胞内のどこで複合体を形成するのかは不明である。そこで、NUDT21の細胞内局在を細胞染色により観察した。すると、NUDT21 の大部分は核に局在していたが、興味深いことに一部の NUDT21 が細胞質にも局在する様子が見られた。さらに、細胞質で見られたNUDT21 のシグナルがミトコンドリアマーカー分子であるシトクロム c と重なる様子が観察されたことから、NUDT21 が一部ミトコンドリアにも局在していることが分かった(図 4)。この結果は、NUDT21 が IPS-1 とミトコンドリア上で相互作用する可能性を示唆するものである。

(4) dsRNA 刺激によって一部の IPS-1 と NUDT21 は Stress Granule に局在するようになるウイルス感染が起こると、細胞質では anti-viral Stress
Granule(avSG)と呼ばれるタンパク質と RNA の凝集体構造が形成され、そこに RLRs とウイルス RNA が集積することが知られている。また、avSG 形成に必須の因子を欠損させると抗ウイルス応答が抑制されることが報告されており、avSG はウイルスRNA 認識の場として働いていると考えられている。avSG に局在する RLRs とミトコンドリア上の IPS-1 がどこで相互作用するかは不明であることから、IPS-1 の局在を細胞染色により調べた。興味深いことに、dsRNA 刺激をした細胞では IPS-1 のシグナルが SG マーカー分子であるTIAR のシグナルと一部重なる様子が観察された。よって、一部の IPS-1 が avSG に局在して RLRs と相互作用することが示唆された。次に、NUDT21 もウイルス感染時に avSGに局在するか検討を行った。dsRNA 刺激をした細胞では一部の NUDT21 が細胞質において粒状の凝集体を形成する様子が観察され、さらにこの NUDT21 の凝集体は TIARと共染色された(図 5)。以上より、NUDT21はウイルス感染により avSG に局在するようになることが示唆された。これは、avSG に局在する NUDT21 が抗ウイルス応答誘導を制御する可能性を示している。

(5) NUDT21 は IPS-1 の Stress Granule への局在を制御する可能性がある
avSG に局在する NUDT21 が IPS-1 の avSG 集積を制御する可能性を考え、NUDT21 をノックダウンした細胞で IPS-1 の局在を観察した。すると、コントロール細胞で見られた IPS-1 と TIAR のシグナルの重なりが、NUDT21 のノックダウンによって有意に減少することが判明した (図 6A、B)。この結果は、ウイルス感染時に NUDT21 が IPS-1 を avSG に集積させる役割を担う可能性を示唆するものである。

【考察・結言】
本研究では、NUDT21 が抗ウイルス応答誘導の新たな仲介分子であることを初めて明らかにした。IPS-1 が RLRs と相互作用する詳細なメカ二ズムには未解明な点が多く残されていたが、本研究の結果から avSG において RLRs と IPS-1 が相互作用する可能性が示唆され、さらに IPS-1avSG への集積を NUDT21 が促進する可能性が示された。このことから、「NUDT21 は IPS- 1 を avSG にリクルートして抗ウイルス応答を活性化する」という仮説を考えている(図 1)。今後、 NUDT21 の抗ウイルス応答誘導メカニズムを解析することにより、ウイルス感染防御の新たなメカ二ズムを提唱できるのではないかと期待している。また、これまで核内で選択的プロセシングを制御することしか知られていなかった NUDT21 が、免疫系の活性化にも関わることを初めて見出した点において、本研究は非常に新規性の高いものである。さらに、NUDT21 は細胞質にも局在することが明らかとなり、細胞質の NUDT21 が抗ウイルス応答誘導を制御する可能性も示唆された。この NUDT21 の核外での機能はこれまで全く予想されていなかったものである。今後、NUDT21 による抗ウイルス応答誘導制御を明らかにすることにより、NUDT21 が細胞質で機能する際の作用機序についても解明できるのではないかと考えている。その結果、これまで NUDT21 の関与が全く想定されていなかった様々な生命現象においても、NUDT21 が重要な役割を果たしていることを明らかにできる可能性がある。

この論文で使われている画像

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る