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大学・研究所にある論文を検索できる 「非晶質ナノシリカの獲得免疫系を介したハザード発現機序解明とハザード回避を目指した最適デザイン研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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非晶質ナノシリカの獲得免疫系を介したハザード発現機序解明とハザード回避を目指した最適デザイン研究

衞藤, 舜一 大阪大学

2022.03.24

概要

近年、少なくとも一次元の長さが100nm以下の微粒子であるナノマテリアル(NM)が、その特徴的機能によって工業用途から我々の身の回り品まで、様々な分野において汎用されている。一方で、NMはその微小さゆえに従来素材とは異なる体内動態・細胞内動態を示すことから、NM曝露に起因した予想外の生体影響を呈してしまうことが危惧されている。本観点から、我々の研究室においても、NMの物性―動態―ハザードの連関解析に立脚した安全性情報の収集(ナノ安全科学研究)を推進している。さらに、これらリスク解析の結果に基づき、安全性に懸念が示されたものについては、ハザード発現機序の解明やそのハザードを回避し得るようにNMの物性を制御するといった、ナノ最適デザイン研究にも取り組んでいる。このような背景のもと、過去のアスベストによる健康被害において、自然免疫系の活性化を通じて肺に慢性的な炎症を誘導することで、長い年月を経て症状が顕在化したことを踏まえ、同じ轍を踏まないためにも自然免疫系に着目したNMの安全性研究が注力されている。実際、一部のNMが自然免疫系を慢性的に活性化する等、アスベスト様の性質を示し得ることが明らかとなっている。このように、自然免疫系に着目したNMの安全性研究が精力的に進められつつあるものの、自然免疫応答と共に活性化される獲得免疫系に着目したNMの安全性評価は進んでいない。

 獲得免疫は、時にはアナフィラキシーショックのような重篤な症状を呈してしまう恐れもある。実際、詳細な機序は明らかになっていないものの、アスベスト等による珪肺症の患者は自己免疫疾患を併発することも報告されており、自然免疫惹起による獲得免疫への影響が危惧されている。従って、今後も使用が拡大し、持続的に曝露することが考えられるNMの安全性を担保し、その恩恵を最大限に享受するためにも、獲得免疫系に着目したNMの安全性研究が求められている。そこで本研究では、身の回り品における使用量が最も多い非晶質ナノシリカをモデル粒子として、獲得免疫系に着目した安全性研究を推進することとした。

 まず、第一章では、獲得免疫系を介したハザードの同定を試み、粒子径50nmの非晶質ナノシリカ(nSP50)を実験動物に予め複数回投与しておくことで、(1)過剰量のnSP50に再曝露した際に、nSP50誘導性の肝障害が増悪すること、一方で、(2)免疫不全マウスにおいては肝障害の増悪が誘導されず、本現象に獲得免疫系が関与し得ることを見出した。すなわち、獲得免疫系を介した非晶質ナノシリカのハザードとして、肝障害の増悪を見出すことに成功した。そこで次に、同定した肝障害増悪の発現機序を解明するべく、体液性免疫および細胞性免疫の関与を、血清移入並びに細胞除去の検討により評価した。その結果、nSP50を事前投与したマウスの血清を移入した群において、肝障害の増悪は認められなかったものの、中和抗体を用いてCD8陽性T細胞を除去した群においては、肝障害増悪の改善が認められた。従って、nSP50前投与による肝障害の増悪には、獲得免疫系の中でも、CD8陽性T細胞が中心的な役割を担う細胞性免疫が関与し得ることが示された。さらに、肝障害の増悪において、CD8陽性T細胞数の増減が関わっているか、もしくは活性化が関わっているかを検証したところ、CD8陽性T細胞の割合に変化は認められなかったものの、CD8陽性T細胞を活性化するIFN-γの産生量が、nSP50を前投与したマウスの脾細胞において増加することが示された。そこで、抗IFN-γ中和抗体を用いた際の肝障害の増悪を評価したところ、IFN-γの活性を阻害した群では肝障害増悪の部分的な改善が認められた。従って、肝障害の増悪にIFN-γが部分的な役割を果たしていることが示唆された。以上、獲得免疫系を介したnSP50のハザードとして肝障害が増悪し得ることを同定し、その誘導機序の一部を解明するなど、従来のナノトキシコロジー研究に新たな切り口を提示した。

 次に、第二章では、物性情報との連関によりナノ安全科学研究、及びナノ最適デザイン研究を推進するため、多様な物性の非晶質ナノシリカを用い、肝障害増悪における交差反応性を評価した。まず、異なる物性の非晶質シリカを前投与に用い、nSP50誘導性の肝障害の誘導を評価した。その結果、他の粒子径(10、30、70、100、300、1000nm)を前投与した際には、nSP50の事前投与により誘導された肝障害増悪は認められなかった。一方で、表面修飾(カルボキシル基、アミノ基)を施したnSP50を前投与に用いたところ、異なる粒子径のものを投与した場合とは異なり、いずれの表面修飾体を用いた場合でも肝障害増悪が認められた。また、多様な物性の非晶質シリカを惹起投与に用いた際の肝障害増悪に与える影響を評価したところ、nSP50以外の非晶質シリカの惹起投与では、顕著な肝障害の増悪は認められなかった。以上より、物性の違いによって肝障害増悪の有無が異なることを見出し、非晶質ナノシリカの物性が獲得免疫の活性化に寄与していることが示唆された。そこで、NMの物性の違いにより、その構成が変化する蛋白質―NM複合体(プロテインコロナ)に着目し、肝障害増悪の発現に与える影響を評価した。その結果、本研究で用いた非晶質シリカにおいても、吸着する蛋白質の組成が異なることを見出した。さらに、ヒト血清と混合して作製したプロテインコロナを用いた場合のみ、獲得免疫の活性化に肝要な樹状細胞の活性化を誘導でき、プロテインコロナが肝障害の増悪に重要であることが示唆された。従って今後、肝障害の増悪における、特定の蛋白質の関与等を検証する必要はあるものの、蛋白質の結合を制御することでハザード回避を目指した最適デザインを実現可能であると考えられる。以上、ハザード規定因子として、NMが形成するプロテインコロナの表面蛋白質が関与し得ることを示し、獲得免疫系を介したハザードを回避可能な最適化のモデルケースを提示できた。

 本研究では、獲得免疫系に着目し、非晶質ナノシリカ誘導性の獲得免疫系を介したハザード同定、ハザード発現機序解明に取り組み、ハザード回避を目指した最適化戦略の提案を試みた。これら研究は、獲得免疫系に着目したNMのリスク解析につながるうえに、ワクチンアジュバント開発、並びに、微粒子誘導性の自己免疫疾患の誘導機序解明に貢献できるものである。このように本研究成果は、薬学的立場から今後のナノトキシコロジー研究の進展に貢献し得るものであり、その上で医学的立場、工学的立場においても応用可能な知見を孕んでいることから、Sustainable Development Goals(SDGs;持続可能な開発目標)に適う、NMの持続可能な利用促進(Sustainable Nanotechnology)に向けた重要なものである。

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