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大学・研究所にある論文を検索できる 「腎有機カチオントランスポーターの新規機能マーカー探索および発現調節機構の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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腎有機カチオントランスポーターの新規機能マーカー探索および発現調節機構の解明

三宅, 健之 東京大学 DOI:10.15083/0002005185

2022.06.22

概要

【序論】
 薬物の尿中排泄は、糸球体ろ過のほか、近位尿細管を形成する上皮細胞の細胞膜に発現する種々トランスポーターの基質選択性ならびに輸送能力により決定される。低分子有機カチオンは、げっ歯類においてはorganic cation transporter(Oct)1/2(Slc22a1/2)、ヒトにおいてはOCT2を介して、血管側から尿細管上皮細胞へ取り込まれる。刷子縁膜側にはmultidrug and toxin extrusion(MATE)1(SLC47A1)およびMATE2-K(SLC47A2)が発現し、内向きのH+勾配を輸送駆動力として、細胞内から尿中への有機カチオンの排泄を担っている(図1)。
 トランスポーターの機能変動により、薬物応答性および副作用の発現リスクは変動し得るが、その要因としてもっとも注目されているのは薬物間相互作用である。具体的な薬物の例として、抗HIV薬dolutegravirや、チロシンキナーゼ阻害剤crizotinib, vandetanibは臨床投与量でOCT2を阻害することが知られており、OCT2基質薬であるmetforminとの薬物間相互作用が添付文書にも記載されている。同様に、H2受容体拮抗薬cimetidine,抗マラリア薬pyrimethamine(PYR),抗菌薬trimethoprimといった薬物は、臨床投与量でMATEsを阻害する薬物であり、基質薬物の腎組織内の蓄積を生じる可能性がある。
 医薬品開発では、in vitro試験からトランスポーターの阻害が疑われる事例において、第3相試験の前に、当該分子種選択的に輸送されるプローブ薬物を被験者に投与し、新薬の有無による血中濃度推移の変動をみる試験を行うことが強く推奨されているが、偽陽性・偽陰性ともに生じてしまう。そこで、トランスポーターの内在性基質を代替プローブとして利用できれば、臨床予見性を高めつつ、第1相試験の時点で早期に薬物相互作用リスクを評価することが可能になると考えられる。当研究室では、OCT2およびMATEsの基質となるcreatinine, N1-methylnicotinamide(NMN)を用いて本方法の有用性を実証し[Imamura Y et al., 2011; Ito S et al., 2012]、規制当局が発行する医薬品開発ガイドラインへの収載に向けた検討を進めてきた。しかしこれらの化合物には、腎排泄におけるトランスポーターの寄与が小さい(creatinine)ことや、全身クリアランスに占める腎排泄の寄与が小さく、トランスポーターの機能低下によって血漿中濃度が変動しない(NMN)といった欠点がある。そこで私は、感度および特異性に優れたOCT2/MATEsの機能マーカーを新たに見出すべく、以下の研究を行った。

【方法と結果】
1. OCT2およびMATEsの基質としてN1-methyladenosineを新たに同定した
 OCT2/MATEの内在性基質の新規探索のため、野生型およびOct1/2 double KO(dKO)マウスの血漿・尿サンプルを用いて、Non-targetingなメタボローム解析を実施した。検出された819化合物のうち、tRNAを構成する修飾核酸であるN1-methyladenosine(m1A)が、Oct1/2dKOマウスにおいて血漿中濃度が顕著に増加し、尿中排泄量が減少する唯一の化合物として見出された。トランスポーターを安定発現させたHEK293細胞を用いて輸送実験を行ったところ、m1AはマウスOct1/2およびMate1の基質であること、ヒトOCT2およびMATE2-Kの基質であるがヒトMATE1の基質でないことが明らかとなった。

2. マウスにおけるm1Aの体内動態にOct1/2およびMate1が主要な役割を果たすことを明らかにした
 m1Aのマウス静脈内投与試験を行ったところ、野生型マウスにおけるm1Aの全身クリアランスの7割程度を腎クリアランスが占めていた。Oct1/2dKOマウス、およびMate1阻害剤であるPYRを予め投与したマウスでは、m1Aの腎クリアランスが対照群の50%(糸球体濾過速度(GFR)と同程度)まで低下し、それに伴ってm1Aの血漿中濃度は2倍程度高い値を示した(図2)。他方、Mate1とともに尿細管上皮細胞の管腔側に発現するP糖タンパクやbreast cancer resistance proteinといったトランスポーターのノックアウトマウスでは、m1Aの動態が野生型と変わらなかった。以上の結果から、マウスにおいて、Oct1/2およびMate1がm1Aの尿細管分泌および全身曝露を担う主要な分子であると考えられた。

3. m1Aは既知の内在性基質よりも優位なOCT2/MATE2-K機能マーカーとなることが示唆された
 上記の結果から、m1AはヒトにおいてOCT2/MATE2-Kの機能を反映する血中マーカーとなることが期待される。そこで、健常成人男性15名(45歳以下の若年者8名、65歳以上の高齢者7名)を対象とした臨床試験を行い、m1Aおよびcreatinineの血漿中濃度および腎クリアランスを測定し、マーカーとしての適性を評価した。その結果、m1Aは健常人における日内変動や個人間差が比較的小さいことが明らかとなった。m1Aの腎クリアランスはcreatinineと緩やかな相関を示し、またその値がGFRの2倍程度であったことから、OCT2/MATE2-Kを介した尿細管分泌を受ける化合物であることが示唆された(図3)。
 OCT2/MATE2-Kの機能低下により、m1Aの血漿中濃度が上昇するか否かを確かめるため、薬効用量でOCT2/MATE2-Kの阻害能を有するDX-619を、プローブ薬metforminとともにカニクイザルに投与した。その結果、DX-619投与期において、metforminと同様にm1Aの血漿中濃度AUCが上昇した(図4)ことから、血漿中m1A濃度はOCT2/MATE2-K機能マーカーとして有用であることが示唆された。

4. m1Aの血清中濃度をOCT2発現量の指標として、OCT2の発現調節に関わる遺伝子領域を探索した
 最近行われた、メタボロームとゲノム情報との関連解析[Shin et al., 2014]で、ヒト血清中m1A濃度がOCT2のSNPsとのみ有意に相関することがわかっている。当該の22個のSNPsは、1箇所の3’UTR変異を除いて全てイントロン変異であり、これらの変異のいずれかがOCT2の発現調節に関わり、m1Aの血清中濃度のみならず、基質薬の動態を変動させる可能性が考えられる。その変異を含む遺伝子領域はOCT2のエンハンサーとして機能していると仮説を立て、当該領域の同定のために以下の実験を行った。
 まず、ChIP-seqのデータベース(ChIP-Atlas; https://chip-atlas.org/)を参照し、当該のSNPsを含み、かつDNaseⅠ感受性およびエンハンサー様ヒストン修飾が認められる遺伝子領域をピックアップした。条件に合致した7つの領域を、OCT2のプロモーター領域とともにそれぞれルシフェラーゼレポーターベクターに挿入し、細胞にトランスフェクションした際のルシフェラーゼ活性を比較した。その結果、HepG2細胞およびHeLa細胞において、5つのSNPsを含む1171bpの領域がルシフェラーゼ活性を上昇させた。さらに、この領域中のSNPsをそれぞれminor alleleに置換したところ、rs315987がminor alleleであるとき、ルシフェラーゼ活性が顕著に低下した(図5)。
 rs315987を含む領域に認識モチーフをもち、minor alleleのとき結合能が低下する転写因子を、TRAP(http://trap.molgen.mpg.de/cgi-bin/home.cgi)により検索したところ、数多くの遺伝子のプロモーターやその上流にあるGC-boxに結合し、転写を制御することの知られているSp1がヒットした。実際に、エンハンサー候補領域からSp1の認識配列を削除したレポーターベクターでは、ルシフェラーゼ活性が顕著に低下した(図6A)。さらに、OCT2を内因性に発現する786-O細胞にSp1阻害剤であるMithramycin Aを処理すると、OCT2のmRNA発現量が顕著に減少した(図6B)。以上の結果から、rs315987の周辺領域がOCT2エンハンサーとして機能すること、またその活性をSp1が担っていることが示唆された。

【総括】
 薬物間相互作用や疾患によるトランスポーター機能の変動は、トランスポーターが生体内で輸送している内在性基質の血中・尿中濃度の変動を観察することで、非侵襲的にヒトin vivoで予測できると考えられる。ただし、そのトランスポーターに対して①比較的選択的な基質となり、②生成プロセスが安定しており、③概日リズムや食事などの影響を受けづらい化合物がプローブとして理想的である。私がOCT2/MATE2-Kの内在性基質として新たに見出したm1Aは、実験動物におけるOCT2/MATEsの機能低下により血漿中濃度が上昇し、さらに健常人における日内変動が比較的小さい化合物であることが分かっており、既知の内在性基質よりも優位なプローブとなることが期待される。臨床での実用に向けて、PYRのヒトにおける用量漸増試験を実施中であるほか、OCT2阻害剤dolutegravirについても臨床試験を計画中である。
 また、m1Aの血清中濃度に関するゲノムワイド関連解析の結果に基づき、OCT2の発現調節を担う可能性のあるイントロン中の遺伝子領域および転写因子を見出すことができた。今後、ゲルシフトアッセイやクロマチン免疫沈降法により、当該領域へのSp1の結合を確認する。また、CRISPR-Cas9法により786-O細胞のrs315987をminor alleleに置換し、OCT2発現が低下するか否かを検証したい。

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