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大学・研究所にある論文を検索できる 「腎臓カチオン性トランスポーター 介在性薬物間相互作用の予測の精緻化」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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腎臓カチオン性トランスポーター 介在性薬物間相互作用の予測の精緻化

友田, 有加菜 東京大学 DOI:10.15083/0002007135

2023.03.24

概要

審査の結果の要旨
氏名 友田 有加菜
トランスポーターを介した薬物相互作用(DDI)は重篤な副作用の発現や治療効果の減
弱につながることがあり、患者の不利益となるため、医薬品開発段階から未然に防ぐため
のリスク評価が求められている。リスク評価は、日米EUの規制当局の定める決定木に従
い、in vitro試験においてカットオフ値を超えた場合は当該トランスポーターのプローブ薬
の同時投与による臨床薬物相互作用試験が行うことが推奨されている。最近では、プロー
ブ薬に代わってトランスポーターの内在性基質を用いることで、臨床開発段階の早期に
DDIの可能性を評価する試みがなされている。腎近位尿細管には、有機カチオン性薬物の
輸送に関与するorganic cation transporter2(OCT2)およびmultidrug and toxin extrusion1
(MATE1)/MATE2-Kが発現し、種々薬物の尿中への分泌が行われている。これらのトラ
ンスポーターはcreatinineやN1-methylnicotinamide(NMN)といった代謝物が、内在性バイ
オマーカーとして薬物相互作用のリスク評価における有用性について研究が進められてい
る。creatinineの体内動態モデルにOCT2およびMATEs阻害剤として知られる10化合物のin
vitro試験より得られた当該トランスポーターの阻害定数(Ki値)を組み込み、血清
creatinineおよびcreatinineクリアランスを予測した結果、複数の化合物で予測値と実測値は
一致しているが、OCT2阻害剤dolutegravirでは乖離が認められた。DolutegravirのOCT2に対
する阻害定数(Ki)の絶対値は文献報告により大きく異なっていることから、DDIを予測する
ために適切なKi値が評価されていなかったことが、乖離を生じた要因と考えた。OCT2介
在性DDI予測の精緻化を目指した最適なKi値評価法の提案に向け、dolutegravirのKi値に乖
離が生じる原因を解明するための研究が行われた。本論文は、二章で構成され、第一章
腎有機カチオントランスポーターにおける阻害定数の変動要因について、第二章では、実
験に供する宿主依存性について検討が行われた。
第一章 腎有機カチオントランスポーターにおける阻害定数の変動要因の同定
これまでの報告から、Ki値に乖離が生じる原因として、①基質依存性、②時間依存性、
③血漿中タンパク質結合による阻害効果の影響、④OCT2変異体による取り込みの変化に
よる阻害効果の影響が考えられた。そこでこれら4つの要因についてOCT2安定発現HE293
細胞を用いて検討を行った。基質依存性の検討では、OCT2基質として知られるcreatinine
やmetforminを含む8化合物に対するdolutegravirのKi値を算出した。その結果、基質間で最
大20倍の差が生じ、Ki値が0.1 µM程度と1 µM程度の二群に分かれ、基質依存性が認められ
た。その他、3つの要因についても検討された。①dolutegravir存在下でのプレインキューベ
ションがKi値に影響を与えないこと、②dolutegravirによるOCT2阻害はフリー薬物仮説に従
って生じること、④OCT2の変異体(S270A)による影響は受けないことが確認された。本
検討において、OCT2に対するKi値に影響を与えうる要因として基質依存性が最も影響が

大きいことを明らかにした。阻害定数の基質依存性は、他のトランスポーターでも複数報
告されている。今後、OCT2を介したDDIリスク評価に基質依存性の検討項目を織り込むに
あたり、適切な基質を選択するためにも基質依存性のメカニズムを明らかにするべきであ
ると考える。本研究ではKi値が0.1 µMと1 µMの二群に分かれ、creatinineを基質として用い
た場合、Ki値は0.1 µMであったことから、臨床データを説明可能ではある。しかし、
metforminに対するdolutegravirのKi値は0.72 µMであり、metforminとdolutegravirを併用した
臨床試験の結果を説明できない。OCT2阻害以外の機序として、消化管における分泌阻害
の可能性を摘出ヒト小腸を用いて検討したが、dolutegravirの影響は認められなかった。ま
た、MATE1阻害に対するKi値はOCT2の数倍高い値であり、細胞内からの排出輸送の阻害
もほとんど生じないと考えられた。マウスで、dolutegravirによる薬物相互作用試験が行わ
れたが、ほとんど影響が認められなかった。マウス腎臓には、OCT2に加えて、OCT1も薬
物の分泌に関与しており、OCT1はdolutegravirによりほとんど阻害を受けないためと考察さ
れている。
第二章 腎有機カチオントランスポーターにおける宿主細胞依存性による阻害定数への影
響とその作用機序の解明
第一章の結果で得たin vitro Ki値では、metforminとdolutegravirとの薬物相互作用をOCT2
阻害で説明できなかった。そこで別のKi値の変動要因を探索するため、これまでに報告さ
れているdolutegravirのKi値およびIC50を算出した文献を精査したところ、阻害試験に使用
している基質に加えて、OCT2を強制発現する際の宿主細胞が異なっていることを見出し
た。さらに、dolutegravir以外のOCT2阻害剤についても、宿主細胞間でKi値が異なる例が複
数存在し、いずれもCHO細胞を使用した場合のKi値のほうが小さい値を示していた。
Dolutegravirでは、CHO-K1細胞を使用し、算出したKi値はmetforminとのDDIを説明できる
程度の値であったことから、OCT2介在性DDI予測のためには、宿主細胞依存性も検討する
必要性が示唆されたため、HEK293細胞およびCHO-K1細胞のOCT2安定発現細胞を用いて
宿主細胞依存性の可能性を検討することとした。
HEK293細胞およびCHO-K1細胞のOCT2安定発現細胞において、宿主細胞依存性は確認
できたが、既報とは異なりOCT2安定発現HEK293細胞を用いて算出したdolutegravirのKi値
よりOCT2安定発現CHO-K1細胞を用いて算出したKi値のほうが大きい値となったため、発
現様式の差異を考慮し、一過性発現細胞系を用いてKi値を比較した。その結果、一過性発
現細胞系では、CHO-K1細胞のほうが小さいKi値となり、OCT2安定発現CHO-K1細胞と
OCT2一過性発現CHO-K1細胞を用いたmetforminに対するdolutegravirのKi値はその絶対値に
約100倍の乖離が認められた。
以上の結果から、宿主細胞依存性およびその発現様式の差異もKi値の変動要因となりう
る可能性が示唆された。これらの原因を明らかにするため、OCT2の翻訳後修飾に着目し
た。OCT2はSrcファミリーに属するYes1キナーゼによってチロシンリン酸化されること

で、その機能発現が上昇することが知られている。そこで、OCT2安定発現細胞HEK293細
胞およびCHO-K1細胞にYes1キナーゼを一過性に発現させた細胞を用いてKi値の変動を検
証したところ、CHO-K1細胞において、dolutegravir低濃度域での阻害が減弱し、Yes1キナ
ーゼの発現がdolutegravirの阻害強度に影響を与えていることが示唆された。
実験を進める中で、OCT2安定発現HEK293細胞においては、第一章の結果ではmetformin
に対するdolutegravirのKi値は0.72 µMであったが、第二章ではKi値が0.15 µMであった。こ
の原因として、酪酸ナトリウム添加メディウムへの置換の有無が考えられ、酪酸ナトリウ
ム添加メディウムへの置換の有無でdolutegravirのKi値を比較すると、その差は約7倍であっ
た。本研究を通して、OCT2阻害剤dolutegravirのKi値に乖離が生じる原因として、基質依存
性だけでなく、宿主細胞依存性および発現様式の差異があることが示唆された。この原因
の機序解明に向けOCT2の翻訳後修飾に着目し、Yes1キナーゼを一過性に発現させたOCT2
安定発現細胞を用いた検討では、CHO-K1細胞においてdolutegravirの阻害効果にYes1キナ
ーゼが関与していることが示唆されたことから、今後、Yes1キナーゼによるOCT2の機能
変化についてさらなる検討が必要である。
一方、OCT2安定発現HEK293細胞における酪酸ナトリウム添加メディウムへの置換の有
無によるKi値の変動については、酪酸ナトリウムはOCT2の発現量増加を期待して培地に
添加していたが、dolutegravir非存在時のmetforminの取り込み量は酪酸ナトリウムの有無で
変化はないことから、酪酸ナトリウム存在下で培養することで、OCT2の輸送活性が増大
することはないと考えられる。しかし、dolutegravirのKi値は異なるため、dolutegravirによ
るOCT2阻害作用に関係する何らかの細胞応答を惹起している可能性がある。また、
metforminとdolutegravirとの薬物相互作用試験では、metforminの血中濃度時間曲線下面積
(AUC)は増大するものの、腎クリアランスが測定されていないため、OCT2阻害がDDIの
機序とは確定していない。種々の検討の結果、OCT2阻害を想定して、臨床報告を説明で
きるin vitro阻害試験の条件を見出したが、本条件の適切性を臨床試験で検証を行う必要が
あるため、臨床試験を企画した。本試験の結果をフィードバックすることで、より精緻な
in vitro試験系の構築が実現するものと期待する。
本研究は、臨床試験で観察されるdolutegravirとcreatinine、metforminとの相互作用の機序
の解明に繋がる研究であり、in vitro試験に基づいたDDIリスクの評価方法の改善に繋がる
研究である。すなわち、本研究は医薬品開発に貢献する研究成果であり、本論文は博士
(薬学)の学位請求論文として合格と認められる。

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