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大学・研究所にある論文を検索できる 「Morphological and Biomarker Evaluation in Patients Who Underwent Transcatheter Aortic Valve Replacement」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Morphological and Biomarker Evaluation in Patients Who Underwent Transcatheter Aortic Valve Replacement

桐山, 皓行 東京大学 DOI:10.15083/0002005052

2022.06.22

概要

【背景】
循環器疾患は虚血性心疾患や致死的不整脈を代表として、短期的死亡率が高い疾患だが、その一方で治療の進歩にともなって、その予後が劇的に改善してきた領域でもある。循環器治療の発展に大きく寄与しているのが、医療機器をもちいたデバイス治療である。虚血性心疾患に対する心臓カテーテル治療がその代表例だが、今回研究対象とした大動脈弁狭窄症(Aortic stenosis; AS)に対する経カテーテル的大動脈弁置換術(Transcatheter aortic valve replacement; TAVR)は21世紀にもっとも進歩が著しい治療である。

ASは循環器疾患の中でも最も内科治療が困難な予後不良疾患であり、大動脈弁の物理的狭窄による左室への慢性的な圧負荷が主病態である。圧負荷に対しては左室の求心性肥大によって血行動態は代償され、初期には無症候で経過するが、その進行とともに非代償期になると心不全症状・狭心症状や失神などの自覚症状が出現する。自覚症状が出現する高度ASの予後は不良とされており、症状が出現した段階でASに対する積極的な介入が必要である。これまで外科的大動脈弁置換術(Surgical aortic valve replacement; SAVR)がASの唯一の根治術とされてきた。しかし、世界的な高齢化や様々な併存疾患を持つ手術が高リスクの症例が増えてきたことにより、SAVRを施行出来ない症例も多数存在した。その中で2002年に低侵襲治療であるTAVRが初めて施行され、この20年弱で驚くべき進化と爆発的な症例数の増加を見せている。TAVRの大きな特徴として、経大腿動脈経由でカテーテル手技によって新たな生体弁を留置することが可能であり、人工心肺や開胸を要さず、SAVRと比較して低侵襲であることが第一に挙げられる。TAVRの登場によって、SAVRを施行することができない高リスクのAS症例によっても低侵襲に根治的な治療が可能になった。TAVRが初めて施行されてから20年弱が経ち、デバイスの進歩により治療技術が著しく進歩したこと、また術前のコンピューター断層撮影(Computed tomography; CT)による治療戦略の確立がされたことにより、安全性・有効性はSAVRを凌駕するものになりつつある。特に術前CTの計測により各症例に合った種類・サイズのTAVR弁を選択することが出来るようになりTAVRの成績は劇的に向上した。TAVRの短期成績が著しく改善した中、今後はTAVRを施行された症例の長期経過に目を向ける必要がある。筆者はTAVR患者の長期成績に影響を与えうるTAVR後の弁周囲逆流(Paraval vular leakage; PVL)・伝導障害に着目した。

PVLはSAVRと比較してTAVRが劣る点の一つである。狭窄した自己弁を切除した後に新規の弁を留置するSAVRと比較して、自己弁の内側から直接弁を留置するTAVRでは新規に留置したTAVR弁と外側に移動した生来の弁腹との間に間隙が生じやすい。最新デバイスであるSAPIEN3では留置弁の弁底にアウタースカートが追加されたことによって間隙からのPVLは減少したが、依然留意すべき重要な問題点である。PVL残存は各症例の大動脈弁周囲の構造が大きく関与しており、今回SAPIEN3を留置した症例を対象として、術前のCTデータからPVL残存の形態学的リスクを検討した(研究Ⅰ:TAVR術後に軽度以上の大動脈弁周囲逆流(PVL)が残存する形態学的危険因子の評価)。

伝導障害もPVLと並んでしばしばみられる合併症であり、ペースメーカーを要した場合は患者のQOLに大きく影響を与える。TAVR後に伝導障害が起きる機序としては、留置弁による刺激伝導路に対する物理的圧迫や周囲の血種が原因とされている。刺激伝導路は膜性中隔(Membranous septum; MS)直下に房室結節から分岐したHis束が走行しており、主にTAVR弁がこの膜性中隔に物理的圧迫を加えることで伝導路周囲に出血や浮腫を起こし、伝導障害を来すとされている。膜性中隔の構造は症例個々によって違いがあることが知られており、膜性中隔の構造の多様性がTAVR術後の伝導障害に関与していると考え、今回CTによる膜性中隔の構造と術後の伝導障害の関連性を検討した(研究Ⅰ:心室膜性中隔の構造がTAVR後の房室伝導に与える影響)。

後半では筆者はTAVR後の心不全残存に着目した。TAVR術後の心不全症状残存もしばしば見受けられ、長期成績が改善しつつある今、TAVRの重要な懸念点である。脳性ナトリウム利尿ペプチド(Brain natriuretic peptide; BNP)は心不全診断・治療効果において確固たるバイオマーカーとして位置づけられている。TAVR後退院時のBNPが術前のBNPと比較して改善を得られない症例(BNP Non-responder群)は予後不良であると報告されており、今回BNP Non-responder群の予測因子の検討を行った(研究Ⅰ: TAVR前後のBNPの変化)。

【方法・結果】
研究Ⅰ: TAVR術後に軽度以上の大動脈弁周囲逆流(PVL)が残存する形態学的危険因子の評価
2018年6月から2019年5月の間にSAPIEN3弁を使用してTAVRを施行された95症例を対象として、術前の患者背景およびCTパラメーターから、術後の軽度以上のPVL残存について検討した。結果は、軽度以上のPVLは31症例(32.6%)に認められた。軽度以上のPVL残存症例の特徴は有意にOversizing rateが低く(3.7±11.8%vs.10.4±10.2%;p=0.005)、大動脈弁輪の石灰化量が多く(339.7±215.6mm2vs.235.5±201.9mm2;p=0.02)、左室流出路(Left ventricular outflow tract; LVOT)の石灰化を有しており(48.4%vs.26.6%;p=0.04)、Annulus/LVOT比が高い傾向にあった(17.1±20.6%vs.9.7±15.7%;p=0.057)。PVL残存の独立危険因子は、Oversizing rate(オッズ比;0.572,p=0.026)、Annulus/LVOT比(オッズ比;1.330,p=0.05)だった。

研究Ⅰ:心室膜性中隔の構造がTAVR後の房室伝導に与える影響
2018年6月から2019年5月の間にTAVRを施行された患者のうち、術前の左脚ブロック・ペースメーカー留置症例を除外した99症例を対象として、術前の患者背景・内服薬および術前の検査所見・CTパラメーターから、術後の伝導障害について検討した。術後の伝導障害の定義は「TAVR術後に新規左脚ブロックが出現したか、あるいか新規ペースメーカー留置を行った症例」とした。結果は、術後の伝導障害は23症例(23.2%)に認められた。術後に伝導障害を認めた症例は有意に女性が多く(91.3%vs.64.5%;p=0.013)、MS lengthが短く(9.7±2.2mmvs.11.7±2.9mm;p=0.003)、QRS幅が広い傾向にあった(111.2±27.3mmvs.100.9±21.0mm;p=0.059)。術後の伝導障害残存の独立危険因子は、糖尿病(オッズ比;3.493,p=0.048)・QRS幅(オッズ比;1.022,p=0.034)・MS length(オッズ比;0.794,p=0.023)だった。また伝導障害を予測する指標として、MS lengthについてのROC曲線(Receiver operating characteristic curve)を描くとカットオフ値は11.75mmとなり、曲線化面積(Area under the curve: AUC)は0.739であった。

研究Ⅰ: TAVR前後のBNPの変化
2018年6月から2019年8月の間にTAVRを施行された患者のうち、BNPデータが登録されている症例100症例を対象として、術前の患者背景・BNP・心エコー所見から、術後のBNP Non-responseについて検討した。BNP Non-responderの定義は「TAVR術後退院時に測定したBNPが入院時のBNPと比較して低下しなかった症例」とした。BNP Non-responderは35症例(35%)に認められた。TAVR術前のBNPは有意にBNP Non-responder群で低値だったのに対し(213.3±270.7pg/mLvs.442.7±448.5pg/mL;p=0.007)、TAVR後はBNP Non-responder群で高い結果だった(337.3±349.7pg/mLvs.199.4±159.2pg/mL; p=0.008)。BNP Non responder群は、有意に術前のBNPが低く、左室内腔が小さく、左室肥大が軽度で、有意に僧帽弁逆流が多かった。多変量解析では統計学的有意差は無いが、術前のBNP低値(オッズ比;0.238,p=0.077)・術前のLVESV(オッズ比;0.914,p=0.056)が予測する因子になり得た。

【結論】
ASに対する新規治療として21世紀に登場したTAVRは飛躍的な治療技術の進歩とデバイスの進化によって、SAVRと並んで既に確立された治療となった。今後、TAVRの適応がさらに拡大することが予想される中で、急性期の致死的合併症ではないもののPVLや新規伝導障害などはTAVR治療後の長期的な課題となり得る。今回の検討で、術前CTによる解剖学的評価によってPVL・新規伝導障害のリスク評価が可能であることが示された。またTAVR後の心不全改善について、術前後のBNP変化で検討したところ、心肥大や左室拡大などの心筋リモデリングが進んでいない症例で逆にBNPが術後に上昇する症例が多いことが示唆された。急性期の合併症が克服されつつある中でTAVR後の心不全は今後の大きな課題であり、TAVRの適応判定も含めて更なる研究を行い、TAVRの至適患者選択とマネジメントにつなげていく必要があると考えた。循環器領域にとって医療機器デバイスは切っても切り離せない関係性がある。今回対象としたASに対するTAVRは革新的かつ完成されつつあるデバイス治療であるが、それでも体格や背景が違うアジア人を対象とした最適なデバイスになり得ているかは議論の余地が残る。その他の弁膜症や、すでに到来しつつある心不全パンデミック、また高齢化の進む循環器疾患を解決すべく新たなデバイスが次々と開発が進んでいるが、今後各患者に最適なデバイスを探求していきたい。