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大学・研究所にある論文を検索できる 「小児悪性腫瘍及びリンパ管腫に対する疾患特性に基づいた光温熱療法の開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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小児悪性腫瘍及びリンパ管腫に対する疾患特性に基づいた光温熱療法の開発

髙橋, 正貴 東京大学 DOI:10.15083/0002005101

2022.06.22

概要

インドシアニングリーン(ICG)は近赤外光(NIR)照射によって分子振動エネルギーが増大し産熱することで抗腫瘍効果をもたらし、43℃以上にコントロールすることで癌細胞は治療できると考えられている。また、ICGを病変に選択的に集積させることができれば、蛍光に基づく診断と光温熱作用を利用した治療が同時に可能になる。本原理を応用した光温熱療法が2つのカテゴリーの難治性小児疾患に対する新規治療法となりうるか同所性モデルを用いて実証した。研究1では、浸潤性腫瘍を想定して、局在診断と光温熱による根治治療技術の確立を目指した。著者らの研究グループが開発してきた、腫瘍選択的に集積するドラッグデリバリーシステム(DDS)型ICG製剤を用いて、光温熱治療により浸潤性小児がんを安全に除去できるか否かを検証した。研究2では、リンパ管腫の治療技術の確立を目指した。リンパ管腫は特異なリンパ動態を示すことで知られており、腫瘍内リンパ液は病変内に長期間停留することから、ICGを腫瘍内に局所投与することで光温熱による治療が可能になると着想した。そこで、リンパ管腫モデルマウスを確立して、ICGを用いた光温熱治療によるリンパ管腫の除去が可能か否かを検証した。

研究1
【背景】小児がんの治療成績は向上したが、進行病期群の予後は未だに悪く、特に浸潤性及び遠隔転移腫瘍の病変選択的な新規治療法はないのが現状である。病変選択的な光温熱療法は、近年研究が進んでいる悪性腫瘍に対する治療法の一つである。光温熱療法は”温熱効果による物理的な治療”であるため、全てのがん種に有効であり、がん細胞に対する耐性の誘導もなく、治療が繰り返し可能となる。病変選択的な光温熱療法であれば副作用も少なく理想的である。標的指向型のDDSである高分子ミセルにICGを搭載したICGラクトソーム(ICG lac)を用いた、ICG蛍光による診断技術ならびにNIR照射による光温熱治療技術の有効性は報告されている。本研究では実臨床を想定して神経芽腫の同所性モデルを作製して、ICG lacとNIRの組み合わせで、腫瘍の局在診断と選択的な光温熱による根治治療の確立を目指した。

【対象と方法】6–10週齢、雌性のA/Jマウスに発光遺伝子Nano lanternを導入したマウス由来神経芽腫細胞株(C1300-NL)を左副腎へ移植し、同所性病態モデルを作製した。移植後に超音波イメージング装置で腫瘍サイズを確認したのち、ICG lacを経静脈的に投与した。ICG lacを用いた蛍光イメージングにおいて腫瘍検知するための至適条件を追求した。同時に、ICG lacの腫瘍内集積が最大化される条件も併せて検討し、光温熱による抗腫瘍効果の最大化を狙った。
 次に著者らの研究グループが開発した光照射制御システム(照射対象を一定の温度で加温し続けることができる制御式のNIR照射システム)とICG lacを組み合わせて、光温熱治療の有効性と生存期間を確認した。併せて、根治可能な腫瘍サイズの調査ならびに本治療システムの生体への安全性についても評価した。波長808nmのNIRを使用した。NIR照射中の腫瘍温度をサーモグラフィーで測定しながら、各設定温度に達した時点から300秒間照射した。同時に照射中に針状型熱電対で腫瘍内部の温度を測定した。治療効果の評価は生存曲線、病理組織学的に検討した。周囲の正常臓器への影響を腎障害の有無で病理組織学的に判断した。

【結果】腫瘍にはICG lacが選択的に集積していた。3日目に腫瘍へのICG集積は量的なピークを迎えた。ICGの質的な腫瘍内分布をみると3日目までは内部に均等に分布するが4日目以降は腫瘍被膜に偏在分布していた。このことから抗腫瘍効果はICG lac投与後3日目が最適と判断した。以降のNIR照射実験は全てICG lac投与後3日目に実施した。Kaplan-Meierの生存曲線では、①コントロール群(ICG lacなし, NIRなし(n=5)(中央値26日)、②ICG lac投与のみの群(n=4)(中央値29日)、③NIR照射のみの群(n=3)(中央値27日)、④ICG lac投与後にNIR照射を行った群(n=4)(中央値54.5日)で比較した結果、④ICG lac投与後にNIR照射を行った群は他と比較して有意に生存期間を延長した(p=0.036)(log-rank test)。次に光温熱療法中の表面温度を45℃に一定にした時の、腫瘍の深さに対する腫瘍内部温度の関係に対して一般化回帰分析を行った。ICG lac(+)45℃群では(内部温度(℃)=49.8−1.00×深さ(mm))(p<0.05)であった。一方でICG lac(-)45℃群では(内部温度(℃)=52.1−1.42×深さ(mm))(p<0.05)であった。また、ICG lac(+)50℃群では(内部温度(℃)=52.5−1.42×深さ(mm))(p<0.05)であった。これらの式から腫瘍内部温度が細胞死の目安となる43℃に達する深さはそれぞれ6.8mm, 2.9mm, 6.7mmであった。腫瘍の最大壊死範囲で比較するとICG lac(+)45℃は9.03±2.73mmでICG lac(-)45℃では3.87±0.33mmで有意差を認めた(p<0.001)。有害事象として腎障害を組織学的に評価した結果、ICG lac(+)45℃とICG lac(-)45℃の比較では有意差は認められなかった(p=0.26)が、ICG lac(-)45℃でのみに腎障害を認めた。ICG lac(+)45℃とICG lac(+)50℃で腎障害を比較した結果、有意差は認められなかった(p=0.20)が、ICG lac(+)50℃でのみ腎損傷を認めた。

【考察】ICG lacとNIRの組み合わせにより、腫瘍の正確な局在診断と同時に光温熱を動作原理とする治療が可能となり、神経芽細胞腫の同所性モデル動物の生存期間をコントロールと比べて28.5日延長させた。壊死範囲の深達長は平均で9mmに達し、周囲臓器への障害もみられなかった。治療効果と安全性を考慮すると、温度制御システムを用いたICG lacの光温熱療法は有用と考えられた。

研究2
【背景】難治性リンパ管腫は細胞生物学的には良性疾患ではあるが、原因不明で有効な治療法が存在しない指定難病の難治性疾患である。しかし、リンパ管腫の基礎的な研究報告はきわめて少なく、生物学的・病態発生学的に基づいた良い治療法がない。リンパ管腫は複雑に分布する大小様々な連続性の嚢胞性病変からなる限局性の病変である。周囲の組織液を取り込んで内包するが、ドレナージ路が乏しいため、病変内に長く滞留するという特殊なリンパ動態を示す。ICGは既に臨床でリンパ管腫のナビゲーション手術に用いられていて、病変全体に広がることが示されている。病変に特異的に拡散したICGにNIRを照射することで、光温熱作用による治療効果が発揮できる可能性が高いと考えた。そこで本実験ではICGを用いた光温熱療法の有効性をin vitroの細胞実験およびモデルマウスを用いたin vivo実験で検討した。

【対象と方法】in vitroの実験の細胞株はリンパ管腫患者由来リンパ管内皮細胞(HL-LEC)を用いた。ICGを16.1μMの終濃度となるように培地に添加し、ICGの取り込みを蛍光顕微鏡で観察した。その後、808nmの近赤外光を1000mW、5分間照射して再度観察した。In vivoの実験ではHL-LECの不死化細胞株(TE)をマウスの皮下へ移植した、リンパ管腫皮下モデルマウスを用いた。まずは25μg/mLのICGを100μL嚢胞内へ投与し、ICGの経時的な集積を確認した。その次に、ICG局所投与の24時間後に808nmのNIR照射した。表面温度が45度に到達してから5分間照射した。照射2日後に病理組織学的に評価した。最後に、ICG群とコントロール群でNIR後の病変の大きさの変化を2週間追跡した。

【結果】in vitroでHL-LECはICGを細胞内へ取り込み、NIRを照射した結果、細胞形態の変化を認め、細胞死を誘導した。モデルマウスの病変へICGを投与した結果、長期間嚢胞内にとどまることが確認できた。ICGを取り込んだ病変にNIRを照射した2日後の病変の組織像では一部が凝固壊死を示し、免疫組織学的に嚢胞を裏打ちするリンパ管内皮細胞は認めないことから、病変部には効果的であったものと思われた。照射直前の腫瘍体積を1とした時に、照射2週間後の腫瘍体積の比を記録した結果、ICG群(0.24±0.47)はコントロール群(0.97±0.44)と比較して優位にサイズが縮小していた(p=0.047)。コントロール群では肉眼的な病変消失例はなかったが、ICG群では3例に消失を認めた。

【考察】ICGを用いた光温熱療法は、in vitroでは有効性を確認できた。また、モデルマウスを用いた検討ではコントロールと比べてリンパ管腫のサイズを有意に縮小(元の容量の24±47%)させることを明らかにした。ICGを用いた温度制御システムによる光温熱療法は、リンパ管腫に対して新規治療法として有効となりうるが、方法論と安全性を確立させるためにさらなる検討を行っている最中である。

【結語】
温度制御システムを用いた病変選択的な光温熱療法は浸潤性の小児悪性腫瘍の新規治療法として有用である。また、難治性リンパ管腫に対する新規治療法として有効となりうる。

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