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複合培養法を用いた希少放線菌からの創薬資源探索

星野, 翔太郎 東京大学 DOI:10.15083/0002002538

2021.10.15

概要

微生物が産生する二次代謝産物は多様な構造と生物活性を有しており、その多くが医薬品シード化合物として用いられてきた。その中でも放線菌は突出した二次代謝生産能を有しており、 tetracycline、FK506、avermectin など細菌由来抗生物質の約半数は放線菌由来である。放線菌は分離頻度の高い Streptomyces 属とそれ以外の比較的分離頻度の少ない希少放線菌に大別されており、放線菌由来の二次代謝産物のうち 75%は Streptomyces 属由来である。一方で、希少放線菌が産生する二次代謝産物に関する探索研究は比較的少ないものの、抗 MRSA 薬 vancomycin を筆頭に優れた生物活性を持つものが多い。しかし、放線菌の単独培養を行いバイオアッセイに基づいて単離精製を行う古典的な方法論では、新規骨格を有する二次代謝産物を獲得することは困難になってきている。一方で、近年のゲノム解析の結果から放線菌が持つ二次代謝産物生合成遺伝子クラスターの数は、これまで単離された二次代謝産物の種類と比べると遥かに多く、放線菌が保有する生合成遺伝子クラスターの約 7,8 割は通常の単独培養条件下において発現していない「休眠遺伝子」である事が明らかになった[1]。すなわち、こうした休眠遺伝子を効率的に活性化することが出来れば、更なる新規二次代謝産物の獲得が期待できる。

休眠遺伝子の覚醒において、ミコール酸含有細菌と放線菌の間で引き起こされる物理的相互作用を利用した共培養法の一つである複合培養法は強力かつ効率的な手法の一つである(図 1)[2]。本法は従来の共培養法が持つ実験操作の簡便さや大量培養の容易さなどの利点を維持しつつ、最大の障壁であったスクリーニングにおける微生物の膨大な組み合わせの問題を、片方の微生物をミコール酸含有 Tsukamurella 属細菌に固定することで解決した。これまで複合培養法は種々の Streptomyces 属放線菌に対して適用され、多数の新規二次代謝産物が単離されてきたが[3, 4]、希少放線菌に対する適用はなされておらず複合培養を用いた希少放線菌由来新規二次代謝産物の探索研究に着手した。

1. 希少放線菌に対する複合培養スクリーニング
最初に40種類の希少放線菌について、単独培養及びミコール酸含有細菌Tsukamurella pulmonisとの共培養を行い、各々の培養抽出物をHPLCにて分析することで代謝プロファイルの変化を調べた。その結果25%に相当する10種類の希少放線菌について単独培養時には検出されない代謝物の産生誘導が確認され、複合培養法は希少放線菌における休眠遺伝子活性化についても有用な手法であることが強く示唆された。

2. 複合培養法による新規polyene macrolactam類の獲得
石川県輪島市より単離された希少放線菌Micromonospora wenchangensis HEK-797株は単独培養条件において26員環 polyene macrolactamであるmicromonolactam (6)を産生した。本株についてT. pulmonisとの複合培養を行った所、単独培養では検出されない2種類の代謝物の生産誘導が確認された(図2, 1及び2)。大量培養及び単離構造解析を行った結果、これらはいずれも新規骨格を有するpolyene macrolactam類でありそれぞれdracolactam A及びBと命名した[5]。また、化合物1及び 2は化合物6がエポキシ化及び引き続く分子内環化反応を受けて生成されるものと考えられた(図2)。

更に別のpolyene macrolactam化合物mirilactam A (7)産生菌Actinosynnema mirum NBRC 14064株についても同様にT. pulmonisとの複合培養を行った所、単独培養では確認されない3種類の代謝物の産生誘導が見られた(図2, 3-5)。単離構造決定の結果、これらはdracolactam類の場合と同様に化合物7がエポキシ化と分子内環化を経て生成する新規polyene macrolactam類であることが明らかとなり、それぞれmirilactams C-Eと命名した[6]。以上の結果より、大環状polyene macrolactamのエポキシ化及び分子内環化に関与する酸化酵素遺伝子が複合培養によって発現誘導され、結果として新規骨格polyene macrolactam類の獲得に繋がったものと考えられた。

3. 未開拓希少放線菌属に対する複合培養法の適用
Umezawaea 属は 2002 年に提唱された比較的新しい希少放線菌属でありこれまで二次代謝産物の産生報告は無かったが、その一種である Umezawaea sp. RD 066910 株についてミコール酸含有細菌 T. pulmonis と複合培養を行った所、単独培養条件で産生されない 2 種類の二次代謝産物の産生誘導が確認された(図 3, 8 及び 9)。単離構造決定の結果いずれも新規のテトラミン酸誘導体であることが明らかとなり、それぞれ umezawamide A 及び B と命名した[7]。また、得られた新規化合物についてその生物活性を評価した所、いずれについてもマウス白血病細胞株に対する毒性を示し、化合物 8 については Candida albicans に対する抗真菌活性も確認された。

Catenuloplanes 属放線菌も Umezawaea 属と同様これまで二次代謝産物の産生報告が無い希少放線菌属であったが、今回その 1 種である Catenuloplanes sp. RD067331 株に対して複合培養法を適用した所、2 種類の化合物の産生誘導が確認された(図 3, 10 及び 11)。単離構造決定の結果いずれも新規ヘテロ環含有ペプチド分子であり、それぞれ catenulobactin A 及び B と命名した[8]。更に catenulobactin B に関してはマウス白血病細胞株に対する細胞毒性が確認されたと共に、Fe(III)イオンに対する結合能が見られた。このことから catenulobactin B は環境中の鉄イオンの取り込みを補助する siderophore としての機能を有していることが示唆され、共培養条件下における鉄獲得競争という観点からも興味深い結果となった。

Thermobifida 属放線菌はその多くが好熱菌として知られておりポリマー分解能を有することなどからその生態や高熱性のポリマー分解酵素については研究が数多く行われている一方、二次代謝産物に関する研究は殆ど行われていなかった。今回そのうちの 1 種である Thermobifida sp. RD007847株に対して同様に複合培養を行った所 2 種類の二次代謝産物について生産誘導が見られ、構造解析の結果新規アルカロイド化合物であった為thermobifidamide A 及びB と命名した (図 3, 12 及び 13)。本化合物の化学構造はこれまで報告されていた二次代謝産物と相同性が低く、その生合成経路は独自なものであることが強く示唆された。

以上のように複合培養法は、これまで物質探索研究が殆ど行われていなかったような希少放線菌 (= 未探索希少放線菌)に対しても極めて有効であり、得られる二次代謝産物の生物活性や化学構造は多岐に渡っていた。

4. 総括及び展望
本研究を通じて、複合培養法がStreptomyces属以外の幅広い希少放線菌属についても有用であることを明らかとした[4]。特にこれまで二次代謝産物の探索が殆どなされていない未開拓希少放線菌属に対して複合培養法を適用することで、効率的な新規二次代謝産物の獲得が期待される。また本研究で活性化された生合成遺伝子を同定しその発現機構を解明することで、ミコール酸含有細菌が幅広い放線菌の二次代謝活性化を引き起こすメカニズムに関する更なる知見が得られることも期待される。

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参考文献

[1] Doroghazi, J. R. et. al., Nat. Chem. Biol., 2014, 10, 963.

[2] Onaka, H. et al., Appl. Environ. Microbiol., 2011, 77, 400.

[3] Onaka, H. J. Antibiot., 2017, 70, 865.

[4] Hoshino, S., Onaka, H., Abe, I., J. Ind. Microbiol. Biotechnol., in press.

[5] Hoshino, S. et. al., Org Lett., 2017, 19, 4992.

[6] Hoshino, S. et. al., Chem. Pharm. Bull., 2018, 66, 660.

[7] Hoshino, S. et. al., J. Antibiot., 2018, 71, 653.

[8] Hoshino, S. et. al., J. Nat. Prod., 2018, 81, 2106.

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