Novel hydrogen-producing Si-based agent reduces oxidative stress, and improves sperm motility and in vitro fertilization rate in varicocoele

概要

〔目的(Purpose)〕
男性不妊症の約8割を占める造精機能障害の原因で、原因不明に次いで多いのが精索静脈瘤である。精索静脈瘤による男性不妊では手術により精液所見だけでなく自然妊娠率も改善することが分かっており、男性不妊患者に対して積極的に手術が行われている。しかし、手術以外の有効な治療法は今のところ存在しない。精索静脈瘤による造精機能障害の原因の一つが酸化ストレスと考えられていることから、酸化ストレスを改善させる抗酸化物質として近年有効性が報告されている水素に着目した。水素の摂取法には水素ガスの吸入や水素水の経口摂取などがあるが、取り扱いが難しい点や含有量が少ない点が問題であった。大阪大学産業科学研究所で開発されたシリコン成分剤は簡便かつ持続的に水素を摂取できる新たな水素摂取法である。本製剤はアルカリ性環境下で水と反応し水素を発生するためヒトの場合ではアルカリ性の腸内で水素が発生すると考えられる。飽和水素水1Lには18mLの水素しか含まない一方でシリコン成分剤100mgからは腸内で400mLの水素が発生すると見込まれる。このことから経口摂取することで簡便に水素を棋取できるシリコン成分剤を用いて、精索静脈瘤による男性不妊に対するシリコン成分剤内服の治療効果について検討した。

〔方法ならびに成績(Methods/Results)〕
精索静脈瘤ラットモデルは、左腎静脈の部分結紮、左外精静脈結紮、左内精静脈への細い流入枝の結紮を行い作成した。シリコン含有餌は普通餌にシリコン成分剤1%を含む餌を使用した。8週齢のSDラットにそれぞれsham手術、精索靜脈瘤作成術を行いsham群,精索静脈瘤群とし、手術直後から普通餌及び1%シリコン含有餌を摂取させ12週齢で評価を行った。評価項目は、精巣・精巣上体精子、精子酸化ストレス、精子受精能とした。精巣は精巣重量、精巣病理組織 Johnsen’s scoreで評価し、精巣上体精子は精子濃度及び精子運動率で評価した。精子酸化ストレスは酸化ストレスマ ーカーである8-OHdG (8~hydroxy-2~deoxyguanosine)を免疫組織化学染色で評価し8-OHdG陽性率を算出、精子DNA断片化はsperm chromatin dispersion test (SCD test)で評価しDNA断片化率を露出した。精子受精能は精巣上体精子と3週齢雌性ラットの卵子を用いて体外受精を行い20時間後に2細胞期に達したものを受精と判断、受精率を算出した。精巣および精巣上体精子の評価では、Sham群においてシリコン成分剤の摂取による変化は認めなかった。精索静脈瘤普通餌群では、精巣重量、精巣病理組織、精巣上体精子濃度は変化を認めなかった。精巣上体精子運動率は精索静脈瘤普通餌群で有意に低下していたが、シリコン含有餌の摂取により普通餌群と比べ有意に改善した。精巣上体精子の8-OHdG陽性率およびDNA断片化率は、精索静脈瘤普通餌群で有意に上昇しており、シリコン含有餌の摂取により普通餌群と比べ有意に低下した。体外受精の受精率は、精索静脈瘤普通餌群で有意に低下していたが、シリコン含有時の摂取により普通餌群より有意に上昇した。

〔総括(Conclusion)〕
シリコン成分剤の経口摂取は精索静脈瘤により悪化した精子運動率を改善させた。さらに、精子酸化ストレス、精子DNA断片化を減少させ、体外受精の受精率を改善させた。シリコン成分剤は精索静脈瘤による男性不妊の新規内服治療法になりうると考える。