AIを適用した果樹栽培支援システムの開発
概要
ニホンナシ(Pyrus pyrifolia Nakai)は果樹の中で最も高度な栽培技術を必要とするとされている。つまり栽培技術は暗黙知により構成されるため習得するのに数十年がかかり,大部分の作業は労働者の感覚的経験に依存する。ナシ園管理基準は10a当たり12,000個のナシを生産することを目標とする。しかし問題点は園内を労働者が歩きながら芽や実の状態を簡単に確認することは時間が沢山かかる作業である。先行研究では作業方式にともなう品質などの相関関係を立証したが,農家の作業データを記録して活用までする研究はまだ活性化されていない。
本論文では,3次元レーザースキャナでナシ園の点群データを取得しすることで,篤農家の栽培技術を見える化を目的にした。そのため点群データの処理方法を検討した。
以下に,本論文において実験により明らかになった項目は以下のようである。
[3次元レーザースキャナを適用した樹木抽出手法]
ナシ園において3次元レーザースキャナを複数の器械点に設置するための測定治具の試作と点群データ収集ならびに樹木抽出手法を開発して樹の点群データの自動抽出を試みた。樹木抽出手法では,グリッド化,地表の点群除去,反射強度をしきい値としたワイヤ除去,RORを適用した微小ノイズ除去の4つのアルゴリズムを開発した。実験においてナシ14本を計測した結果,13,843,644点の点群合成に成功した。さらに樹木抽出手法を適用した結果,地表,ワイヤ,微小ノイズの除去率はそれぞれ100,99.6,87.6%であり,樹木抽出精度は94.5%であった。
[点群データによる徒長枝量推定手法]
3次元点群データに基づく徒長枝抽出と徒長枝量推定手法を開発した。アルゴリズムは点群のボクセル化,徒長枝抽出,DBSCANとRANSACを適用した葉の点群除去と徒長枝量推定の4つのサブルーチンで構成した。教師データとして0.56aの点群を適用し,評価データには3.14aの点群を適用して精度評価を行った。その結果,徒長枝の抽出精度は97.3%,抽出された徒長枝の推定量と実測値との決定係数はR2=0.99であった。
今後の課題は,3次元点群データから算出した樹冠面積と剪定枝重量関係で樹木樹勢の強弱判定評価手法を適用。多年間の蓄積したデータを解析して,個々の樹木の樹勢変動を可視化することが考えられる。そのデータを元ついて実際に熟練者が樹木の樹勢別に分類して作業したのかを検討する。