電解重合を用いるBINOL修飾ポリチオフェンの合成と応用
概要
電解反応は酸化剤や還元剤を用いずに酸化還元反応を行えるため、環境低負荷な反応の一つとして知られている。この反応では求核剤存在下、高活性な化学種であるカチオンやラジカルを反応中間体として発生させ、反応系中で発生させた中間体と求核剤を反応させられるものの、位置選択性や過剰反応などの制御が難しい。そこで私は、電極表面に機能性物質を固定した修飾電極を用いる電解反応の制御を試みた。修飾電極の研究は1970年代から行われており、様々な修飾方法が報告されている。特に、電極表面に機能性物質を化学的に結合させる手法は、調製した電極の再利用や、反応系における分子認識が可能となるため、有用な修飾法である1)。そこで、安価で実用的なフッ素ドープ酸化スズ(FTO)を電極として用い、その表面上に導電性高分子のポリチオフェン類縁体を被膜することで新規機能性電極の開発を行った。尚、FTOを有機電解合成に用いた例は、私が調べた限り1例のみである2)。
本研究では、同一の分子内にチオフェンとBINOLを併せ持つ化合物として、Figure 1に示すチエニル-BINOLを合成し、これをモノマーとして用いて電解酸化重合によるFTO電極上へのBINOL修飾ポリチオフェンの薄膜調製を試みた。また、得られた修飾電極を用いて、電解酸化への応用も試みた。
まず、Figure 1に示す4種類のチエニル-BINOLの合成を行った。次に、合成したチエニル-BINOLで電解重合による薄膜調製を行った。陽極にFTO電極、陰極に白金電極、電解質に過塩素酸リチウム(LiClO4)を用いて、ジクロロメタン・アセトニトリル混合溶媒中、定電流(1 mA)で1時間処理したところ、(S)-1および(S)-3のようにBINOLのヒドロキシ基を有する化合物では、薄膜が形成しなかったものの、ヒドロキシ基をメチル基で保護した(S)-2や(S)-4では、黒色の薄膜が電極上に形成した(Figure 2)。形成した薄膜は、有機溶媒に対する溶解性が低いため、固体NMR、MALDI/TOFMS、IR、エネルギー分散型X線分析(EDS)などを用いて解析行い、目的の薄膜形成を支持する結果を得た。例えば、Figure 3に示すように、EDSによる分析結果から薄膜中に硫黄が含まれていることが分かった。最後に、Figure 4に示すように、BINOL修飾ポリチオフェン薄膜で被膜された電極を用いてスルフィドの不斉酸化を検討した。陽極に(S)-5で被膜したFTO電極、陰極に白金電極、電解質にテトラブチルアンモニウムテトラフルオロボラート(nBu4NBF4)を用いて、アセトニトリル溶媒中、定電流(1 mA)で16時間処理したところ、56%収率でスルホキシド7が得られたものの、不斉は発現しなかった。しかしながら、反応終了後も、薄膜は電極上に固定されており、被膜されたFTO電極も、被膜されていないFTO電極と同様に電極として作用する知見が得られた。