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大学・研究所にある論文を検索できる 「Interleukin-6 secretion by fibroblasts in carpal tunnel syndrome patients is associated with trigger finger and inhibited by tranilast」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Interleukin-6 secretion by fibroblasts in carpal tunnel syndrome patients is associated with trigger finger and inhibited by tranilast

Kawamoto, Hiroya 川本, 祐也 名古屋大学

2020.11.10

概要

【緒言】
 手根管症候群は最も一般的な絞扼性神経障害であり、腱滑膜組織の異常な肥厚がその病態に関与している。生化学的および免疫染色分析を含む遺伝子発現変化に関する研究によると、サイトカインから成長因子に至るまで、様々な炎症誘発性物質が腱滑膜病変の発生および進行に顕著に関与していると報告している。IL-6 は手根管症候群患者の腱滑膜組織で上昇すると報告されており、手根管症候群の病態生理において重要な因子である。腱滑膜由来の線維芽細胞における IL-6 分泌を抑制することで手根管症候群の症状を抑えることができるかもしれない。そこで我々はトラニラストに着目した。トラニラストは抗アレルギー薬であるが、線維芽細胞の TGFβ1 とコラーゲン産生を阻害することによりケロイドの形成と肥厚性瘢痕を抑制したり、IL-6 分泌の阻害などさまざまな抗炎症作用があることが報告されている。
 この研究の目的は、手根管症候群患者由来線維芽細胞における IL-6 分泌と、ばね指の合併を含む患者パラメーターとの関連を調べること、また、トラニラストが手根管症候群患者由来線維芽細胞における IL-6 分泌を抑制するかどうかを明らかにすることである。

【対象および方法】
2015 年 4 月から 2016 年 8 月の間に名古屋大学大学院医学研究科およびその附属病院の手の外科で手根管症候群と診断され手根管開放術と腱滑膜切除術を受けた患者から腱滑膜組織を採取した。

線維芽細胞の準備と培養
手根管症候群患者から採取した腱滑膜組織を初代培養し得られた線維芽細胞を使用し、その培養上清中の IL-6 濃度と患者の臨床パラメーターとの間に相関がないかを調べた。臨床パラメーターは、BMI、年齢、症状持続期間、握力、ピンチ力、神経学的グ レード、VAS スコア、ばね指の合併の有無について調べた。

ELISA による IL-6 濃度の定量
同数の細胞を播種した 24 時間後に培養上清を採取しこの中の IL-6 濃度を ELISA 法にて計測した。

In vitro 分析
細胞増殖検査
手根管由来線維芽細胞に対するトラニラストの細胞増殖に対する効果を MTS アッセイにて行った。同数の細胞を播種したのち、様々な濃度のトラニラストを投与し、24、48 時間後に MTS を投与し、その 2 時間後にマイクロプレートリーダーで吸光度を測定した。細胞刺激をしないもの、TNF- α や IL-1β にて細胞刺激を行ったものについて検査した。

細胞毒性検査
細胞毒性試験は、LDH アッセイにて行った。同数の細胞を播種したのち、様々な濃度のトラニラストを投与し、24 時間後 LDH 量を計測した。

トラニラスト投与による IL-6 分泌の抑制効果
同数の細胞を播種し、様々な濃度のトラニラストを 1 時間前もって投与したのち、トラニラストと TNFα または IL-1β を同時に投与した。その 24 時間後に培養上清を採取し、IL-6 濃度を ELISA 法を用いて計測した。

RT-PCR 分析
同数の細胞を播種し、様々な濃度のトラニラストと TNFα または IL-1β を投与しその 24 時間後に細胞から RNA を抽出し cDNA を用いて、Real time RT-PCR にて IL-6 mRNAの発現量を計測した。

統計分析
分析前に、IL-6 の相対濃度を正規化するために log2 変換した。IL-6 濃度と患者の臨床パラメーターとの間の相関を調べるためにピアソンの相関分析を行った。神経学的グレード間の IL-6 濃度の比較は、一元配置分散分析(ANOVA)を介して割り当てられた。独立したサンプルの t 検定を使用し、ばね指合併有無の IL-6 濃度の比較を行った。異なる用量のトラニラスト間の複数の比較は、一元配置分散分析を行った。これらの統計分析は、SPSS を使用して行った。<0.05 の p 値は統計的に有意であると見なした。

【結果】
Patient characteristics
男性 6 人女性 36 人の合計 42 人で、平均年齢 63 歳。平均 BMI は 25.4、平均症状持続期間は 16.7 か月だった。術前にばね指を合併している症例は 42 例中 20 例だった。神経学的グレードは Moderate 22 very severe 10 extremely severe 10 だった。BMI(r =0.06, FDR = 0.864)、年齢(r = −0.06, FDR = 0.864)、症状持続期間(r = −0.06, FDR = 0.864)、握力(r = 0.15, FDR = 0.864)、ピンチ力(r = −0.12, FDR = 0.864)、VAS スコア(r = 0.00, FDR = 0.995)については IL6 濃度との有意な相関関係は認めなかった。神経学的グレード別 IL6 濃度を比較したが、グレード別に有意差は認めなかった。(moderate 8.6 ± 0.2 pg/mL, very severe,8.7 ± 0.1 pg/mL, extremely severe 8.4 ± 0.3 pg/mL)。ばね指の合併の有無で IL6 濃度を比較すると、ばね指合併症例のほうが有意に IL6 濃度は高かった(ばね指合併あり 9.0 ± 0.2 pg/mL, なし 8.1 ± 0.2 pg/mL; p = 0.001)。

細胞増殖検査
細胞刺激を行わなかったもの、TNF-α や IL-1βにて細胞刺激を行ったものいずれにおいても 24,48 時間のいずれの時間においてもトラニラスト投与により濃度依存性に細胞数が有意に減少していた(図 1、図 2)。

細胞毒性検査
いずれの濃度においても LDH 量に有意差はなく、細胞毒性がないことが示された(0 µM; 11.2% ± 0.7%, 20 µM; 10.2% ± 1.1%, 50 µM; 10.9% ± 0.9%, 250 µM; 7.1% ± 1.3%; p = 0.053)。

トラニラスト投与による IL-6 分泌の抑制効果
TNFα または IL-1β 投与にて IL-6 タンパク量は有意に増加し、トラニラスト投与により TNFα 群では 20μM 以上、IL-1β 群では 50μM 以上で IL6 タンパク量は有意に抑制された(図 3)。

RT-PCR 分析
TNF-α、IL-1β いずれの群でも濃度依存性に、IL-6 遺伝子発現量は有意に抑制された(図 4)。

【考察】
 手根管症候群は病期によって病態は異なり、初期にはいわゆる腱滑膜が浮腫状に腫れた炎症が主体の病変であるのに対し、進行期では腱周囲滑膜の線維化が見られるとされている。この手根管症候群の原因として、繰り返される機械的刺激のほかに、虚血再灌流傷害が重要な原因として考えられている。また、手根管症候群の 40-60%と高頻度に屈筋腱腱鞘炎いわゆるばね指を合併しているとされている。手根管症候群もばね指も腱滑膜に病変をもつことが分かっており、ばね指合併手根管症候群においては有意に IL-6 分泌量が高くなったと考えられる。トラニラストは臨床で使用されている抗アレルギー剤・抗ケロイド薬であるが、さまざまな抗炎症効果を示すことが過去に報告されている。本研究でトラニラストは手根管症候群患者の腱滑膜由来線維芽細胞における IL-6 分泌を抑制したことから、手根管症候群の治療に有用な薬剤である可能性がある。
 今回の研究にはいくつかの制限がある。トラニラストは、手根管症候群患者の滑膜組織に由来する線維芽細胞の細胞増殖と IL-6 分泌を阻害したが、これは in vitro の実験である。さらに、本研究でのトラニラストの効果は IL-6 のみに対するものである。過去の報告ではトラニラストは多くの種類の細胞でさまざまなサイトカインを抑制することが報告されており、トラニラストの正確な効果を理解するためにはさらなる in vitro での研究や in vivo での研究も必要である。

【結語】
 本研究では手根管症候群患者の腱滑膜由来線維芽細胞における IL-6 分泌がばね指合併と有意に関連していた。また、治療組織レベルより低い 50μM 以上のトラニラストが、手根管症候群患者の腱滑膜由来線維芽細胞において、TNF-α または IL-1β 刺激により誘導される IL-6 産生および細胞増殖を阻害することを示した。手根管症候群患者に対するトラニラストの有効性を判断するには、さらに in vivo 試験が必要である。

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