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大学・研究所にある論文を検索できる 「Mast cell presence in tendon sheaths of trigger fingers: implications on pathogenesis and clinical presentation」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Mast cell presence in tendon sheaths of trigger fingers: implications on pathogenesis and clinical presentation

仲野, 隆彦 名古屋大学

2022.10.24

概要

【緒言】
ばね指は代表的な狭窄性腱鞘炎の 1 つで、屈筋腱と腱鞘の機械的インピンジメントによって引き起こされる手の障害である。主な症状は弾発現象と疼痛で、ときに指の屈曲、伸展制限を生じる。しかし、その症状は、疼痛が主体であるものや、痛みは軽度ながら弾発症状や関節可動域制限が主体であるものなど程度や経過は様々である。手指の腱鞘は 3 層から構成され、外層は血管が豊富で滑膜と連続し、中層は軟骨細胞様細胞や線維芽細胞を含んだ厚い層で、内層は屈筋腱と接する単細胞または二細胞からなる層である。この 3 層の中で特に中層は細胞外マトリックスにコラーゲンを豊富に含んでいるが、正常腱鞘ではほとんどが 1 型コラーゲンと少量の 3 型コラーゲンで構成されているのに対し、ばね指腱鞘では 3 型コラーゲンの割合が増加することがわかっている。また、ばね指は「腱鞘炎」と呼ばれているが、腱鞘への炎症細胞浸潤が乏しいと報告されており、発症機序や病態は未だ不明な点が多い。近年、肥満細胞は、炎症などの組織変化に寄与することが示唆されており、関節リウマチの滑膜で存在が確認され、線維性疾患との関与も報告されている。滑膜の増殖や腱鞘の線維化は、ばね指の原因とされていることから、我々は肥満細胞がばね指腱鞘にも存在し、ばね指の病態に関与している可能性があると考えた。本研究の目的は、ばね指腱鞘における肥満細胞の存在を確認し、組織学的評価と臨床データとの比較によりその役割を明らかにすることである。

【対象および方法】
2012 年 8 月から 2020 年 1 月までに、腱鞘切開術を受けたばね指成人患者 77 名(79検体)を前向きに調査した。対象患者(男性 30 名、女性 49 名)の年齢は 37 歳から 88歳(平均、60.8±10.5 歳)であった。発症から手術までの平均期間は 18.1(±18.4)カ月で、術前の pain numerical rating scale(PNRS)は平均 4.7(±2.8)、上肢機能評価 Hand20 は平均 35.1(±22.7)であった。罹患指は母指 31 指、示指 7 指、中指 23 指、環指 16 指、小指 2 指で、ばね指の重症度評価である Froimson grade は grade1 が 20 指、grade2 が 38指、grade3 が 12 指、grade4 が 9 指であった。これらの腱鞘検体をヘマトキシリン・エオジン(HE)、トルイジンブルー、ピクロシリウスレッドで染色し、肥満細胞は肥満細胞中に含まれるトリプターゼに対する抗トリプターゼ抗体で免疫染色した。腱鞘内のコラーゲンはピクロシリウスレッド染色で評価し、ピクロシリウスレッド染色されたコラーゲンを偏光顕微鏡で観察すると、1 型コラーゲンは赤色を呈するのに対し、3 型コラーゲンは緑色を呈するという特性から、腱鞘内のコラーゲン割合を評価した。

【結果】
79 検体中 66 検体 83.5%にトリプターゼ陽性肥満細胞を認めた(Figure.1)。肥満細胞存在群(P 群)と肥満細胞非存在群(N 群)の 2 群に分け、組織学的評価と臨床データを比較した(Table.1)。腱鞘内 3 型コラーゲン割合の中央値は P 群 15.6%、N 群 12.7%であり、P 群は N 群と比較して有意に高い結果であzた(p=0.03)(Figure.2)。年齢、発症から手術までの期間、Froimson grade には、両群間に有意差はなかった。しかし、PNRS、 Hand20 ともに P 群は N 群に比べ有意に高く、肥満細胞存在群ではより強い疼痛と上肢機能障害があることが示された(PNRS;P 群 5、N 群 3(p=0.04)、Hand20;P 群 35.5、 N 群 13.0(p=0.01))。

【考察】
本研究で、ばね指腱鞘にトリプターゼ陽性肥満細胞が存在することを確認した。これまでの報告と同様に、ばね指腱鞘には 3 型コラーゲンが存在し、腱鞘に肥満細胞が存在する症例群では 3 型コラーゲンの割合が有意に高く、疼痛、上肢機能障害がより強いことを示した。コラーゲンは線維芽細胞のような間葉系細胞によって合成されるが、肥満細胞は線維芽細胞の強力な分裂促進因子であることが示されており、肥満細胞の分泌するトリプターゼは線維芽細胞を誘導、刺激しコラーゲンを合成させる。また、肥満細胞は、肥厚性瘢痕、肺線維症、糸球体硬化症、肝硬変などの線維性疾患に関与することがよく知られており、これらの疾患では 3 型コラーゲンが過剰に発現していることが報告されている。ばね指腱鞘においても 3 型コラーゲンの割合が増えるとされており、腱鞘の線維化がばね指の原因に挙げられているが、本研究の結果からも、ばね指腱鞘のコラーゲン組成の変化からくる線維性変化に肥満細胞が関与している可能性が示唆された。また、肥満細胞存在群は肥満細胞非存在群に比べ、PNRS および Hand20 が有意に高かった。 近年、疼痛における免疫系と神経系の相互作用の重要性が認識されるようになっており、肥満細胞は、一次侵害受容ニューロンの近くに存在して、侵害受容器の感作に関与していると考えられている。これまで、様々な齧歯類の疼痛モデルにおいて、肥満細胞の脱顆粒亢進と肥満細胞数増加が痛覚過敏に寄与していることが示されている。ヒトにおいても過敏性腸症候群患者の結腸における肥満細胞数増加やトリプターゼレベルの上昇が観察されており、結腸神経線維近傍に位置する脱顆粒した肥満細胞は過敏性腸症候群患者の疼痛スコアと相関していた。これらの知見は肥満細胞が末梢侵害受容器を感作することを示しており、本研究でも、肥満細胞存在群で痛みがより強くなったが、この結果は、腱鞘に存在する肥満細胞が末梢侵害受容器を感作させた可能性を示唆している。

【結語】
本研究は、ばね指腱鞘にトリプターゼ陽性肥満細胞が存在することを初めて証明し、ばね指の病態や臨床症状への関与を示唆した。正確な機序を解明するために更なる研究が必要であるが、本研究はばね指の病態を明らかにするために有用であると考える。

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