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大学・研究所にある論文を検索できる 「Tyr 含有ジペプチド類の脳代謝および認知機能に対する機能性の統合的研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Tyr 含有ジペプチド類の脳代謝および認知機能に対する機能性の統合的研究

市瀬, 嵩志 ICHINOSE, Takashi イチノセ, タカシ 九州大学

2020.09.25

概要

我が国をはじめとする先進諸国では平均寿命の延長による急速な高齢化が進み、加齢に伴う様々な疾患発症リスクの上昇が報告されている。近年、認知症は急速にその患者数を増やしており、2030年までに世界の認知症患者が4680万人に達すると予測されている。認知症には、脳血管型認知症やレビー小体型認知症など様々な種類があるが、特に罹患率が高いものとしてアルツハイマー型認知症(AD)が挙げられる。症状が進行すると著しく認知機能が傷害されるため、患者のQOLだけでなくその介助者のQOLをも低下させる。ADの発症機序は様々な仮説が提唱されているが、現在までその分子機序の詳細は未解明のままであり、効果的な予防法や根本的な治療薬も未だ確立されていない。そのため、認知症を治療することだけでなく、その初期症状と推定されている経度認知障害の段階から食を通じて予防することにも注目が集まっている。認知症予防に効果を示す食材の候補に大豆および大豆製品が含まれることが国内コホート研究から示唆されている。また大豆ペプチドの摂取が認知機能の維持増進に影響するとのヒト試験研究結果も報告されている。しかしながら大豆等の食品タンパク質由来ペプチド類の摂取による脳内代謝と工事機能への作用の詳細は不明であった。そこで本研究では大豆を取り上げ、その短鎖ペプチド摂取によって脳内で増加する代謝物としてアミノ酸であるチロシンとそれを前駆体とするカテコールアミン類神経伝達物質に着目し、チロシン含有ペプチド類の脳内代謝作用の分子機序解明と加齢性脳変性疾患モデルの認知機能改善効果の検証を目的とし、分子機序から行動までの統合的な解析を行った。

 まず、大豆ペプチドの摂取により変動する脳内代謝物について、カゼインペプチドおよびコラーゲンペプチド摂取群と比較メタボローム解析を行った。質量分析器による約100種類の代謝物分析と主成分分析から、3群の脳内代謝物は分離され、それにはドーパ、ドーパミンおよびアドレナリンの寄与が認められた。さらにそれらの代謝物は大豆ペプチド摂取群脳内で増加していた。すなわち、3種のペプチド摂取は脳内代謝物組成にそれぞれ異なる影響を及ぼし、大豆ペプチドの摂取によって脳内ドーパ、ドーパミンおよびアドレナリンなどのカテコールアミン神経伝達物質の合成と代謝亢進が促進されていることを見出した。続いて、カテコールアミン神経伝達物質合成と代謝亢進に寄与する大豆ペプチド中の責任分子の特定を行った。大豆ペプチドの主要タンパク質源であるグリシニンおよびβ-コングリシニン分子内のチロシン含有配列出現頻度とCaco-2細胞を用いたペプチドのin vitro腸管透過性試験から、体内にチロシンを効率よく導入可能なジペプチド候補としてSY、YPおよびIYを選抜し、それらの投与によるカテコールアミンへの影響を検証した。その結果、YP、IYまたは等モル量のチロシン単体に比べてSY投与が最も効率よく脳内チロシンを増加させ、ノルアドレナリンの合成と代謝を更新することを明らかとし、SYが大豆ペプチドの脳内作用発現に関わる機能責任分子の1つであると結論した。これらの結果を踏まえて、前述の3種ジペプチドだけでなく理論上合成可能な39種類のチロシン含有ジペプチド全種について、その経口投与による脳内ノルアドレナリンの合成と代謝促進作用の検証を行った。その結果、チロシン含有の中でYWがノルアドレナリンの合成と代謝を最も亢進することを明らかとした。また他のジペプチドとは異なり、YW摂取によって脳内でトリプトファンに由来するキヌレニン経路の代謝産物増加がカテコラミン代謝の律速酵素であるチロシン水酸化酵素の補酵素共有に寄与することを推察した。さらにその中枢神経系に対する機能性について加齢性脳変性モデル動物を用いて検証を行い、アルツハイマー病モデルマウスが呈する短期記憶障害を改善する作用を持つことをY迷路試験によって行動学的解析から明らかにした。さらに網羅的な遺伝子発現解析およびパスウエ解析により、YW投与が同モデル脳のドーパミン神経伝達に係る遗伝子ネットワークを活性化させ、一方で脳損傷領域での免疫細胞の病的活性化に関与するケモカイン類シグナル遺伝子ネットワークを抑制していることを明らか(こした。これらの複合的な作用が、アルツハイマー病モデルマウスの短期記憶障害を改善へ導く機序であると推定した。

 以上の結果より、タンパク質から生体内で産生される多様なチロシン含有ジペプチドにおいて、SYやYW等の分子種が脳内への効率的なチロシン供給やカテコールアミン類合成・代謝亢進をもたらすことで、カテコールアミン類神経伝達機能を賦活し、脳変性疾患における髙次機能の減弱を防止する保護的な作用を持つことを明らかにした。これらの成果は、食品タンパク質に由来するペプチドやアミノ酸成分の脳機能維持・改善や脳神経変性疾患予防作用における分子機序の一端を成すものと考える。

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