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金ナノ粒子による単一生細胞内の局所加熱

本多, 孝明 東京大学 DOI:10.15083/0002007133

2023.03.24

概要





















本多

孝明

温度は基本的な物理量の 1 つであり、細胞内のすべての生化学反応は温度による影響を受ける
ため、生物の活動に大きな影響を及ぼしている。温度感受性イオンチャネルや熱ショック応答な
ど、細胞が環境の温度変化に応答する生命現象が報告されている。また、癌や感染症などの特定
の疾患では細胞での熱発生が亢進することも知られている。最近の研究では、ミトコンドリアを
化学的に刺激することにより、細胞内温度が平均 1℃上昇することが報告されている。さらに、
核とミトコンドリアの温度は、周囲の温度よりも約 1℃高くなっていて、細胞内に不均一な温度
分布が存在することも示されている。これらの事実から、細胞内の局所的な温度または熱発生は
細胞機能と密接に関連していると考えられる。細胞内局所領域や細胞小器官の温度と、細胞機能
との関係を解明するためには、細胞内局所領域を加熱して細胞の応答を調べる手法が有効である。
細胞内の温度が不均一に分布していることを考慮すると、ナノメートルスケールでの加熱が求め
られる。赤外線(IR)レーザーを用いて細胞を加熱する従来の方法は、熱源の分布は約 10μm
であり、細胞小器官などの細胞の局所領域を加熱する方法としては大きすぎる。本論文は、金ナ
ノ粒子を利用してナノメートルスケールで生細胞を局所的に加熱する手法を開発したものであ
る。また、この手法を用いて細胞内の局所的な部分を加熱することにより、加熱した部位から離
れた場所にストレス顆粒が形成されることを示し、ストレス顆粒の生成と温度の関係を明らかに
した。
第1章では、本研究の背景となる細胞と温度の関係、細胞の加熱法の現状と課題について述べ
られている。
第2章では、本研究に用いた実験資材や実験手法について詳細に述べられている。
第3章では、金ナノ粒子の細胞内への導入法と、生細胞
を1細胞レベルで加熱する手法の開発が述べられている。
まず本多は、COS7 細胞を培養している培地に、60×25 nm
のロッド状の金ナノ粒子を混ぜ、2 時間培養することで細
胞内に取り込ませた(図1)。次に、金ナノ粒子を取り込
ませた細胞に赤色レーザーを照射して加熱した。そして、
蛍光性ナノゲル温度センサー(fluorescent nanogel 図 1:金ナノ粒子の細胞内への取り込み
thermometer, FNT)を用いて、その時の細胞内の温度変 細胞の概形をわかりやすくするために蛍光標
識したデキストランを細胞内に導入してい
化を測定した。その結果、加熱をしているときに一過的 る。白い点が金ナノ粒子である。右図は左図
の一部を拡大した図。スケールバー:10 μm
に細胞内の FNT の蛍光強度が上昇している様子が観察さ
れた(図2)。これにより、金ナノ粒子を利用して細胞内の温度
を上昇させることが示された。また、温度上昇の制御の定量性に
ついて調べられている。照射するレーザーの強度に応じて細胞内
の温度上昇が大きくなった。また、細胞内に取り込ませる金ナノ
粒子の量にも応じて細胞内の温度上昇が大きくなった。このこと
から、定量的に制御が可能であることが確認された。
第4章では、第3章で開発した加熱方法により細胞内の微小な
局所領域を加熱することができるか検討されている。まず、蛍光
性ポリマー温度センサー(fluorescent polymeric thermometer,
FPT)を用いて金ナノ粒子の細胞内での熱源としての広がりが観
察されている。加熱時の金ナノ粒子周辺の蛍光寿命を蛍光寿命顕 図 2:加熱時の細胞内温度変化
30 秒間、FNT の蛍光強度を観測
微鏡法(fluorescence lifetime imaging microscopy, FLIM)に した。10 秒間加熱している。
より測定した。細胞質内に存在する金ナノ粒子の周辺の微小な領

域において、FPT の加熱時の蛍光寿命イメージングを行った。その結果、金ナノ粒子のある領域
の蛍光寿命が上昇していることが観測できた。また、その温度が上昇している領域の大きさをガ
ウシアン分布でフィッティングすることで決定した。その結果、細胞内で熱源の大きさは、約
0.47 μm であることが分かった。このことから、金ナノ粒子が細胞内においてナノメートル単
位の熱源として機能することが示された。次に、本加熱法により、ストレス顆粒の生成を誘導で
きるか調べられている。ストレス顆粒は高温などのス
トレス時に細胞質に形成される顆粒であり、mRNA やタ
ンパク質から構成されている。ストレス顆粒は、スト
レス時に特定の遺伝子の翻訳を抑制する機能を有して
いる。ストレス顆粒を可視化するために、poly(A)鎖を
標的とした Cy3 で蛍光標識したアンチセンスプローブ
を用いて細胞内の mRNA を可視化した。ストレス顆粒が
形成されると蛍光標識された mRNA が取り込まれるので
ストレス顆粒を観察できる。細胞を金ナノ粒子で加熱
図 3:金ナノ粒子の加熱によるストレス顆粒の形成
した前後で細胞内の mRNA を観察することにより、金 加熱前後の細胞内の mRNA の像。スケールバー:
ナノ粒子による加熱でストレス顆粒の形成が誘導さ 10 μm
れることを確認した(図3)。以上の結果から、金ナ
ノ粒子を細胞内温度変化に駆動される細胞機能の解明
に応用できる可能性が示された。さらに、加熱する領
域を細胞の一部に限定した時のストレス顆粒の形成に
ついても検討されている。その結果、ストレス顆粒は
加熱した領域とは異なる領域、すなわち細胞内の温度
がより低い領域で形成された(図4)。この結果は、ス
トレス顆粒の形成には発熱だけでなく液液相分離が関
与しており、低温のほうが顆粒の成長に有利であると 図 4:細胞内を部分的に加熱した時のストレス顆
いう報告とも一致する。この結果は、細胞内の温度の 粒の形成
加熱前後の細胞内の mRNA の像。左図の細胞の右
勾配が細胞機能において役割を持つことを示唆して 上の点線の円内を加熱した。右図は加熱後の図。
スケールバー:10 μm
いる。
第5章では、本研究の総括と、本研究の今後の展望について述べられている。
このように、本研究は生細胞内の局所的なナノメートル空間を定量的に加熱する方法を開発する
ことに成功した。さらに、この手法を用いて細胞内の局所的な部分を加熱することにより、加熱
した部位から離れた場所にストレス顆粒が形成されることを示し、ストレス顆粒の生成と温度の
関係を明らかにし、本手法の有用性を示した。将来は、金ナノ粒子の表面を修飾して細胞内での
局在を制御することにより、細胞内の局所的な発熱の機能解明に貢献するだろう。
よって本論文は博士( 薬学 )の学位請求論文として合格と認められる。

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