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大学・研究所にある論文を検索できる 「結腸癌術後腹膜播種再発の臨床病理学的特徴とリスク予測に関する検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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結腸癌術後腹膜播種再発の臨床病理学的特徴とリスク予測に関する検討

永田, 洋士 東京大学 DOI:10.15083/0002002479

2021.10.15

概要

悪性腫瘍の治療において遠隔転移の制御は大きな課題の一つである。大腸癌における遠隔転移・再発に関する研究は、これまで主として肝転移および肺転移を対象として進められてきた。しかし腹膜播種はこれらの転移に比べて治療が難しいことが知られており、全身化学療法による予後は肝転移や肺転移に比べて明らかに不良である。したがって腹膜播種症例の予後を改善するためには、その病態を理解した治療戦略が必要であると考えられる。
 しかしながら、大腸癌腹膜播種に関する研究は数が少なく、詳細な検討が行われてこなかった。そこで本研究では、腹膜播種の中でも結腸癌治癒切除後の腹膜播種再発症例に焦点をあて、その予後改善のための方策を見出すことを目的として3つの検討を企画した。まず対象群の特徴を明らかにするため、第1章では結腸癌術後腹膜播種再発症例を臨床病理学的に解析し、その予後および予後因子を明らかにした。続いて第2章では、術後腹膜播種再発をきたすリスクを推定するために、統計学的な予測モデルを構築し、その有用性を検証した。さらに第3章では、pT4結腸癌での腹膜播種再発リスクを層別化するために、原発巣における癌幹細胞マーカーの発現を免疫染色により評価し、その有用性を検証した。

第1章 結腸癌術後腹膜播種再発に関する臨床病理学的検討
【背景】大腸癌腹膜播種に関する研究は数が少なく、詳細な検討が行われてこなかった。そこで本研究の第一歩として、結腸癌術後腹膜播種再発症例を臨床病理学的に検討し、その特徴・予後および予後因子を明らかにすることを目的とした。

【方法】1997年から2015年の間に結腸癌pStage I–IIIに対して治癒切除を受けた後に腹膜播種再発を生じた症例を後方視的に同定し、その臨床病理学的特徴・予後および予後因子を解析した。

【結果】結腸癌術後腹膜播種再発として52例が同定され、5年累積再発率は3.3%であった。腹膜播種再発後の5年生存率は27.0%であり、腹膜播種以外での再発群に比べて有意に予後不良であった(p<0.001)。Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析において、右側結腸原発、Peritoneal cancer index 10以上、併存他臓器転移が独立した予後不良因子として認められる一方、腹膜播種結節の切除は予後良好因子として同定された。

第2章 統計学的手法を用いた結腸癌術後腹膜播種再発リスクの予測
【背景】第1章の結果から、術後腹膜播種再発をきたした結腸癌症例の転帰は不良だが、腹膜播種病変が軽度で切除可能であった場合には、比較的予後が期待できることが示唆された。そのためには腹膜播種再発をきたすリスクを適切に評価し、予防的介入の対象となりうる高危険群を同定することが不可欠である。そこで第2章では、個々の症例における術後腹膜播種再発リスクを推定するための統計学的予測モデルを構築し、その有用性を検証することを目的とした。

【対象】1997年から2015年の間にpStage I–III結腸癌に対して治癒切除を受けた症例のうち、2009年までに手術を受けた973例をderivation群とし、2010年以降に手術を受けた747例をvalidation群とした。まずderivation群のデータからelastic net法を用いて予測因子を選定し、多変量Cox比例ハザードモデルを構築した。そしてbootstrap法を用いて、このモデルのinternal validationを行った。さらにこのモデルをvalidation群のデータに適用することにより、external validationも実施した。

【結果】モデルに含める予測因子としては、深達度・リンパ節転移・郭清リンパ節数・術前CEA値・悪性大腸狭窄・術後縫合不全の6つが同定された。これらの因子からなる予測モデルはc-index0.85と高い内的妥当性を示し、calibrationも良好であった。さらにvalidation群のデータでこのモデルの外的妥当性を検討したところ、c-indexは0.83と高く、calibrationも良好であった。

第3章 免疫染色を用いたpT4結腸癌術後腹膜播種再発リスクの層別化
【背景】第2章で構築した予測モデルは結腸癌術後の腹膜播種再発リスクを推定するうえで有用である可能性が示された。しかし腹膜播種再発の頻度が高いpT4症例におけるリスクをより層別化するためには、これまでの臨床病理学的因子に加えて新たなバイオマーカーが必要であると考え、その候補として癌幹細胞マーカーに着目した。第3章では、癌幹細胞マーカーの発現を免疫組織学的に評価することにより、術後腹膜播種再発リスクの予測能が向上するかどうかを明らかにすることを目的とした。

【方法】1997年から2015年の間に治癒切除を受けたpT4結腸癌292例の原発巣において、大腸癌の癌幹細胞マーカーとして知られるCD133、CD44 variant 6(CD44v6)、aldehyde dehydrogenase-1(ALDH1)、leucine-rich repeating G-protein coupled receptor-5(LGR5)の発現を免疫染色で判定し、腹膜播種再発との関連を解析した。

【結果】4つのマーカーのうち、LGR5では発現陰性群が陽性群より有意に術後腹膜播種再発が高率であった(27.5% vs 14.4%, p=0.037)。そして多変量Cox解析において、LGR5発現陰性が腹膜播種再発の独立したリスク因子であることが確認された(ハザード比2.90, p=0.004)。また、単変量解析で有意差が認められた分化度・リンパ管侵襲・リンパ節転移・術前CEA値および術後縫合不全にLGR5の評価を加えることで、術後腹膜播種再発リスクの予測能が向上することを示した。

 以上より、結腸癌術後腹膜播種再発例の予後は不良だが、播種病変が軽度で切除可能であれば、相応の予後を期待しうることが示された。再発リスクの推定には、深達度・リンパ節転移・郭清リンパ節数・術前CEA値・悪性大腸狭窄の有無・術後縫合不全の有無の6因子からなる統計学的予測モデルとLGR5の免疫染色を活用することが有用である可能性が示された。