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大学・研究所にある論文を検索できる 「膵癌細胞株におけるゲムシタビン抵抗性獲得メカニズムの探索」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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膵癌細胞株におけるゲムシタビン抵抗性獲得メカニズムの探索

日吉 貴子 東北大学

2021.09.24

概要

Pancreatic ductal adenocarcinoma(PDAC)は初期症状に乏しく、初期病変の段階で受診につながり難いため、早期発見が難しく、多くの場合、予後不良に経過する。加えて、がん細胞の持つ特性として進行が速いこともあり、PDAC の治療においては外科切除可能例、不能例いずれの場合においても化学療法は重要である。ゲムシタビン(gemcitabine:GEM)は first line の治療薬として使われるが、治療の過程で癌細胞が GEM 耐性を獲得することがあり問題となる。したがって、GEM 耐性を克服することは予後改善のために重要である。

GEM は、DNA 合成に必要な基質であるシチジンの類似体であり、ヌクレオシド輸送体を介して細胞に組み込まれるプロドラッグである。細胞内に移動した GEM は、デオキシシチジンキナーゼ(deoxycytidine kinase:DCK)によってリボースの 5’の炭素にリン酸基が付加され、αモノリン酸となり、その後、β位、 γ位とリン酸基が付加されてトリリン酸となって活性化され、DNA 合成阻害に働く。一方で、細胞内に入った GEM の多くはシチジンデアミナーゼ(cytidine deaminase:CDA)による脱アミノ化によって不活性化型に変換され、細胞外に排出される。

これまで齋木、堀井らは、4 つの PDAC 細胞株(PK-1、PK-8、PK-9、PK-59)と 4 つの他の癌細胞株(胃癌、結腸癌、胆管癌、胆嚢癌)に由来するそれぞれ GEM 耐性癌細胞株を合計 8 種類、樹立した。これらのうち、PK-8 由来の耐性株以外の耐性細胞株では、いずれも DCK の 2 ヒット不活化変異が特定され、これが GEM 耐性獲得の主要な原因とみなされた。しかしながら、今回の研究で用いた RPK-8 では DCK 変異が認められず、加えて、RPK-8 の GEM 感受性低下の程度は他の 7 つの GEM 耐性細胞株よりも弱いことがわかった。RPK-8 は、様々な機序による GEM 耐性獲得細胞の混合物の可能性も考えられたため、シングルセルクローニングをおこない、最も GEM に耐性が強い細胞株「G100C10」を得た。

G100C10 の GEM 耐性獲得機構を解明するために、CE-TOFMS を用いて GEM とその代謝産物を測定したところ、G100C10 では CDA に処理されたと考えられる不活性化型の GEM 代謝物の濃度が細胞外で増加しており、何らかの機序による CDA の活性化が生じ、ゲムシタビンの代謝と細胞外排出の活性化による耐性獲得の可能性が考えられた。GEM 代謝に関係する遺伝子を網羅的に調べるため、マイクロアレイ解析をおこなったところ、G100C10 において DCK の発現減少と、CDA の発現増加が確認された。DCK と CDA について qRT-PCR とウエスタンブロッティングをおこない、マイクロアレイに相応する結果、すなわち G100C10 において mRNA とタンパクにおけるDCK の発現減少とCDA の発現量増加が確認された。また、 G100C10 を GEM 100 ng/mL 存在下で培養すると、経時的に CDA 発現量が増加する様子がウエスタンブロッティングによって明らかになり、G100C10 における CDA 発現はエピジェネティックな機序で制御されている可能性が考えられた。

CDA の活性化が G100C10 における GEM 耐性獲得に重要な働きをしている可能性を検討するため、PK-8で CDA の強制発現、G100C10 で CDA のノックダウンによる GEM 感受性について解析をおこなった。その結果、CDA を強制発現させた PK-8 では、発現させていない PK-8 と比較して GEM に対して耐性を示すようになった。

5’近傍領域の CpG サイトが CDA の発現に重要であるとの研究があったため、当該領域をバイサルファイトシークエンスで解析したところ、発現亢進を説明できる変化は得られず、イントロン 1 など他の CpG サイトのメチル化の確認が重要であると考えられた。

他の癌種において、CDA を高発現している腫瘍は、シチジン誘導体を用いた治療に抵抗性を示したという報告があることから、CDA は薬剤の反応性を予測することができる生物学的マーカーになる可能性がある。また、転移性膵癌患者の標準化学療法として確立されており、GEM との併用で用いられるアルブミン結合パクリタキセル(nab-paclitaxel、nab-PTX)は、活性酸素種の産生により CDA タンパク質を減少させ、 N-アセチルシステインで細胞を処理すると CDA レベルが回復することを示し、nab-PTX で処理された細胞が GEM に対してより敏感になること示すとの報告がある。GEM と nab-PTX の併用療法に CDA が関わることは重要な知見であり、CDA は膵癌の診断や治療において新しい、そして有力な分子マーカーになり得ると考えられる。

本研究により、G100C10 においてはCDA の過剰発現が GEM 耐性を示すという、これまでに未報告の GEM耐性獲得機序の可能性が示唆された。