Uterine smooth muscle tumours with hyperintense area on T1 weighted images: differentiation between leiomyosarcomas and leiomyomas
概要
子宮平滑筋腫瘍は良性の平滑筋腫,悪性度の不明な平滑筋腫瘍 (STUMP),悪性の平滑筋肉腫に分類される。子宮平滑筋肉腫(以下,平滑筋肉腫)は稀な腫瘍であり,治療抵抗性でしばしば予後不良である。一方,子宮平滑筋腫(以下,平滑筋腫)は比較的発生頻度の高い腫瘍であり,生殖可能年齢の女性の 20-40%でみられる疾患である。しかし,平滑筋肉腫と平滑筋腫の術前鑑別診断は,臨床所見のみでは困難である。一方画像所見においては,MRI (Magnetic Resonance Imaging)が,平滑筋肉腫と平滑筋腫との鑑別に有用であったと報告されている。
平滑筋肉腫を診断する際の特徴的な MRI 所見として,T1 強調像での腫瘍内高信号域の有無が有用とされているが,この高信号域の信号強度や形態などの詳細な特徴については,明らかとはなっていない。また,平滑筋腫も種々の変性(脂肪平滑筋腫,赤色変性など)によって T1 強調像での腫瘍内高信号域を伴うことがあるが,これらは画像所見や臨床所見から平滑筋肉腫との鑑別が比較的容易である。しかし,平滑筋腫の中にも平滑筋肉腫との鑑別に苦慮する症例も少なからずいるため,画像診断を行う際の新たな指標が必要とされている。
平滑筋肉腫と平滑筋腫の鑑別診断を,T1 強調像の腫瘍内高信号域の相違を用いて行った報告は, これまで認めていない。そこで本研究では,平滑筋腫瘍の MRI 所見を後方視的に比較することで 1 強 調像における腫瘍内高信号域の相違による平滑筋肉腫と平滑筋腫の鑑別になり得るか,検討を行った。
【対象と方法】
2005 年 5 月から 2016 年 11 月に,岐阜大学医学部附属病院で MRI 検査を施行後,病理学的に平滑筋腫瘍と診断された,径 3cm 以上の腫瘍を有する 509 名(平滑筋肉腫 14 症例,14 病変,STUMP 5 症例,5 病変,平滑筋腫 490 例,1118 病変)を対象とした。
MRI は 1.5T 装置 (Intera Achieva 1.5 T Pulsar; Philips Medical Systems)および 3.0T 装置 (Achieva Quasar Dual 3 T; Philips Medical Systems)を用い,スライス厚 5mm,スライスギャップ 2mm で T1 強調像,脂肪抑制 T1 強調像,および T2 強調像を撮像した。
2 名の放射線診断医が,T1 強調像において平滑筋腫腫瘍内の高信号域の有無を確認し,次に腫瘍内高信号域を伴う病変から,子宮脂肪平滑筋腫および赤色変性の所見を有する病変を除外し,平滑筋肉腫と平滑筋腫における T1 強調像での腫瘍内高信号域の MRI 所見を比較検討した。
【結果】
腫瘍内高信号域を伴う頻度は,平滑筋肉腫で 78.6% (11/14 病変),STUMP で 0% (0/5 病変),平滑筋腫で 1.3% (15/1118 病変)であった。平滑筋腫内の T1 強調像での腫瘍内高信号域は,平滑筋肉腫に比してより均一な信号 (53% vs 0%, p < 0.01)を呈し,また境界明瞭(60% vs 9%, p < 0.05)で周囲に T2 強調像での低信号帯を伴う頻度が高かった (53% vs 9%, p < 0.05)。病変全体に対する腫瘍内高信号域が占める割合は,平滑筋肉腫と比較し平滑筋腫で有意に小さく (0.20 ± 0.24 vs 0.42 ± 0.27, p < 0.05),また腫瘍内高信号域と骨格筋との信号強度比は平滑筋腫で有意に高かった(1.83 ± 0.36 vs 1.38 ± 0.23, p < 0.01)。
【考察】
平滑筋腫瘍に認められる内部壊死は,病理組織学的に腫瘍細胞壊死(凝固壊死)と非腫瘍細胞壊死に分類される。腫瘍細胞壊死は,平滑筋肉腫の特徴的な病理組織所見とされている。一方硝子壊死などの非腫瘍細胞壊死は,平滑筋腫に多く認められる所見であり,腫瘍内の出血と関連している。過去の報告では,平滑筋肉腫に伴う T1 強調像での腫瘍内高信号域は,腫瘍細胞壊死の領域と関連していることが報告されており,本研究で明らかとなった,平滑筋肉腫と平滑筋腫における T1 強調像での腫瘍内高信号域の所見の違いは,両者の内部壊死の違いを反映したものと考えられた。
【結論】
本研究において,平滑筋腫おける T1 強調像での腫瘍内高信号域は,平滑筋肉腫と比較して内部信号がより均一で境界明瞭であり,T2 強調像では同部位に一致して低信号帯を伴うことが多かった。また,平滑筋腫内の高信号域占拠率は小さく,腫瘍高信号域と骨格筋との信号強度費が有意に低いことが明らかとなった。これらの MRI 所見は,平滑筋腫と平滑筋肉腫を術前に鑑別するうえで,有用な情報であることが示唆された。