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木造軸組工法をベースとした中大規模木造建築物の生産システムの研究

手塚, 慎一 東京大学 DOI:10.15083/0002004943

2022.06.22

概要

第1章 緒言
近年、国産木材資源の成熟化や新築住宅市場の縮小を背景に、非住宅の中大規模木造建築による木材需要の拡大が期待されている。その普及には、大空間を構成するための「構造システム」に加え、他構造(S 造・ RC 造)に比べてコスト面で優れ、多くの地域ビルダーが参入しやすい「生産システム」を確立する必要がある。そのためには、戸建住宅で最も多く用いられている木造軸組工法をベースとした生産システムの構築が合理的と考えた。

他構造と比較した木造軸組工法の大きな特徴は、①プレカットによる現場加工の省力化、②軽量部材の人力設置、③単職種による多能工生産、が挙げられる。戸建住宅では、これらのメリットを生かした一連の生産体制が恒常的で、中大規模木造においてもこの現場の声を評価し、活用する仕組が有用であろう。しかし、中大規模となると、労務や工期の増幅や品質リスクの上昇など、戸建住宅の生産システムをそのまま適用しては、他構造と比較して優位性を見出せない。

そこで本論では、まず戸建住宅や中規模な非住宅物件の実態調査から、木造軸組工法の生産特性を把握し、主要工事の「歩掛り」を基礎データとした。さらに、前述の 3 つの特徴に、総合建設業(ゼネコン)の「生産管理技術」として、④揚重稼働率による工程制御、⑤繰り返し型のタクト工程(多工区同期化工法:図 2)、を融合させた「新生産システム」を提案し、その効果をシミュレーションで検証した。

対象建築物は、一般的な木造軸組工法で、地上 3 階建、延べ面積 3000 ㎡以下の非住宅物件(店舗・事務所等)である。当該市場の約 8 割が鉄骨造:S 造であるが、費用対効果を考慮して、大断面部材のラーメン構造や耐火構造を不要とする建築物を対象とした。

第2章 生産調査
2 章では、木造軸組工法の戸建住宅 7 棟と非住宅物件 16 棟の計 23 棟の生産調査結果を物件ごとにまとめた。その主たる調査は、揚重機と作業員のタイムスケジュール(以下MAC:マルチ・アクティビティ・チャート)の記録とし、揚重機や各作業員の動向や、揚重部材の取付時間等の「歩掛り」について把握した。

第3章 木造軸組工法の主要作業の生産特性
3 章では、2 章の調査結果(MAC)を比較検討し、木造軸組工法の生産特性について把握した。
表1より、木造軸組工法のメリットが「単職種(大工)によるムダの無い施工」や「プレカットや部材の軽さを生かした生産」にあることを再確認できた。

表 1 の調査結果より、各部材の歩掛りを①揚重取付部材:揚重時間÷部材数、②人力取付部材:作業時間÷部材数 or 施工面積、③接合作業:作業時間÷接合箇所数に分けて算出し、部材別に比較した(図 3)。揚重梁は、一般流通材の梁(一般梁)と長尺で大断面の重い梁(重量梁)で異なる傾向が見られた(写 1)。各部材の歩掛りの平均値+標準偏差の値を基準として、主要工事の歩掛りを定量的に定義した(表 2)。

第4章 木造トラスの生産特性
4 章では、中大規模木造特有の生産データ蓄積のため、一般流通材で大スパンを構築する「木造トラス」の物件調査より、その「取付」と「地組み」の生産特性を把握した。調査は、JIS 規格のキングポストトラス TG2(K・U トラス)、同規格の TG3(T トラス)、PWA 規格の平行弦トラス(H トラス)、そして設計者が木質構造の各種規準を用いて独自に設計したラフタートラス(R トラス)を対象とした(写 2)。

初めてのトラス取付けには、現場での試行錯誤により時間を要するが、その後の習熟効果により取付時間が 50%程度に短縮できることを確認した。また、トラス取付時間(歩掛り)は、トラスを揚重機で吊りながら母屋等を人力で設置する「倒れ止め」が必要なK トラス(15 分/P)と、「倒れ止め」が不要な U・H・ R トラス(7 分/P)で 2 倍程度異なった(図 4)。

トラスの地組み時間は、部材を 70kg 程度として人力で間配り・設置できるもの(K・H トラス)と、揚重機を用いるもの(T トラス)で大きく異なり、人力を活用した場合の生産性が高い(表 3)。

第5章 生産システムの提案
5 章では、中大規模木造の生産システムとして以下の生産計画手法を提案した。
(1) 揚重稼働率による工区の設定:揚重部材の数量と歩掛りより揚重稼働率が 80%と高くなるような工区面積と工区分割数を算定する手法を提案(式 1、式 2)。
(2) 繰返し型のタクト工程の導入:木造軸組工法の生産工程を、①揚重作業(柱梁取付等)、②床作業、③外壁作業の3つのタクトに分割する。この①②③の作業を日々各工区に割り当て、並列的に各工区で進捗させる(図 5、表 4)。
(3) MAC を用いた作業計画と多能工によるラインバランシング:各工区における必要人員や作業内容を把握するため、MAC を用いて揚重機や作業員の作業を割り振る(図 6)。この時、多能工である大工の特性を生かし、工区間移動を可能にし、自由作業として内壁工事を設ける。

第6章 生産工程シミュレーション
6 章では、S 造で実際に建設された 2 階建て店舗の一部を木造軸組工法に置換した場合(図 6)の生産工程のシミュレーションにより、5 章で提案した生産システムを検証した。

3 章の調査結果で定めた歩掛りを用いて、5 章の工区算定式にて店舗区画ごとに 3 工区に分割する計画とした(表 5)。タクト工程を表 6・図 7 のように定め、MAC を用いた作業スケジュールを多能工である大工のラインバランシングにより作業員の稼働率が高くよう計画した(表 7)。

S 造や木造の標準工程と比べて、木造のタクト工程では、3 工区で並列的な作業を実施することによって工期を約半分に短縮でき、木造の生産性向上策として有効であることを確認した(表 8)。

また、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)のツールを用いて、生産工程の可視化を行った(図 8)。木造は、プレカットにおいて CAD・CAM 化が一般化しており、既に各部材の 3 次元情報を有している。今後、BIM を介して生産情報を連動させ、実施工の前段階で視覚的に生産工程を確認することは、様々な関係者で情報共有を図る上で効果的と言えよう。

7章 結語
中大規模木造の普及・拡大に向けて、本研究より得た2つの成果を示す。
① 木造軸組工法の主要工事や、中大規模木造に向けて欠かせない木造トラスの生産特性を明らかにし、その生産計画に用いる歩掛りを定量的に示した。
② 中大規模木造の新生産システムとして、木造軸組工法の潜在的なメリットと、総合建設業(ゼネコン)の生産管理技術を融合させた「木造独自の生産計画手法」を提案し、その効果をシミュレーションによって確認した。

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参考文献

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2) 新設住宅着工戸数の実績と予測 2030 年の住宅市場と課題,株式会社 野村総合研究所,2019.6

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4) 稲山正弘:中大規模木造建築物の構造設計の手引き,2017.2

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56) 作業能率測定指針,日本建築学会,1990.2

57) 飛躍的な生産性の向上を実現する構工法の構築, 産業競争力懇談会 COCN2014 年度研究会最終報告

58) 中川貴文・藤澤好一:三次元 CAD を利用した木造住宅の耐震性能評価手法の開発,第 19 回木質構造研究会技術報告集,pp.41~44, 2015.12

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