リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「浮性卵情報を用いたクロダイの産卵生態に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

浮性卵情報を用いたクロダイの産卵生態に関する研究

河合 賢太郎 広島大学

2021.03.23

概要

博士論文

浮性卵情報を用いたクロダイの産卵生態に関する研究
(要約)

令和 3 年 3 月
広島大学大学院生物圏科学研究科
生物資源科学専攻
河合 賢太郎

世界的に海産魚の漁獲量が減少している中、人類が海洋生物資源を持続的に利用
するためには、資源変動に関わる再生産・加入機構の理解と、それらに関わる近年
の気候変動や環境変化の影響を理解することが課題になっている。海産魚の生活史
の中でも、産卵は資源の再生産・加入において最も重要なイベントであり、資源を
適切に管理するためにも対象種の産卵生態を把握することは必要不可欠である。海
産魚の産卵生態を把握する上で、魚卵は質的にも定量的にも優れた情報の宝庫であ
り、産卵に関して四次元的な情報から親魚の移動や集団サイズに関する情報まで引
き出すことができる可能性を秘めている。ただし、形態形質の乏しい海産魚の魚卵
の場合、種同定と各種データを満足することができる量的確保が障壁となって、ほ
とんどの魚種で魚卵情報は利用されていないのが現状である。
本研究の対象種であるクロダイ Acanthopagrus schlegelii は我が国において縄文時
代から食料資源として利用される重要な水産資源で、現在は全国で年間約 3000 t が
漁獲され、その半数以上は瀬戸内海に由来する。中でも広島湾は本種の好漁場とし
て知られるが、1960₋70 年代には乱獲や環境悪化の影響で漁獲量が激減し、その後の
放流事業によって漁獲量が劇的に回復した。ところが、同湾におけるクロダイの放
流事業が 2009 年に中断されて以来、漁獲量や着底稚魚数が減少していることから、
本種の資源の減少が懸念されている。しかし、今日まで、クロダイを対象とした資
源量の推定および資源評価は一切行われていない。また、資源管理に有益な産卵生
態情報は皆無に等しい。
本研究は、クロダイの研究で優位性に富む広島湾で大量の浮性卵を採集し、モノ
クローナル抗体法による浮性卵の種判別を実用化することで、クロダイ浮性卵が有
する産卵生態情報の顕在化を試みた。研究の目的は、広島湾のクロダイの持続可能
な資源管理のための基盤として、天然海域における本種の産卵生態を明らかにする
とともに、得た魚卵情報から同湾のクロダイの資源量を推定し、その年変動を把握
することである。
第 1 章では、広島湾、安芸灘、燧灘を含む瀬戸内海北西部海域で浮性卵を採集し、
卵密度や採集卵に対するクロダイ卵の割合(陽性率)を各海域で比較した。その結
果、広島湾では安芸灘や燧灘の数倍の卵密度が確認され、陽性率も圧倒的に高かっ
た。クロダイが広島湾で大規模産卵を行っていると考えられ、同湾が本種の重要な
産卵場としての役割を担っていることが明らかになった。
第 2 章では、クロダイの好漁場、かつ重要な産卵場である広島湾において、本種
の産卵生態情報として、主に産卵期、産卵場、産卵時間帯の解明を試みた。産卵期
調査では、成魚の生殖腺重量指数と卵密度の変動を調べ、産卵期を推定した。その
結果、クロダイの産卵期は 4 月中旬から 7 月上旬、産卵ピークは 5 月上旬と推定さ
れ、過去の報告よりも 20 日ほど早いことがわかった。近年の海水温上昇が広島湾の
クロダイの産卵期に影響を及ぼしているだろう。近年は集中豪雨も多発しているが、

集中豪雨による塩分の急低下とともに卵密度の急落も確認されたことから、クロダ
イは低塩分環境下で産卵しないと考えられた。産卵場調査では広島湾内に 14 定点を
設定し、卵密度と陽性率を調べた。その結果、高い卵密度が確認されたのは似島南
部、江田島湾口部、能美島西岸、大黒神島北部で、大黒神島北部では陽性率も非常
に高かった。突出して卵密度が高かった 3 定点は、いずれも大規模なカキ養殖場内
の定点であり、クロダイがカキ養殖場を主要な産卵場として利用していることが明
らかになった。能美島西岸はクロダイ産卵群を狙う伝統漁業“吾智網”の漁場であり、
広島湾のクロダイの主な産卵場と考えられるが、卵密度が低い定点も認められたこ
とから産卵規模が部分的に縮小している可能性がある。淡水流入が多い湾奥の定点
は、概して卵密度および陽性率が著しく低かった。近縁種と同様、クロダイの産卵
のタイミングや場所は、淡水流入による低塩分に強く影響されると考えられた。産
卵時刻調査では、天然海域で採集した卵の発育段階から産卵時刻を推定するため、
親魚水槽で自然産卵によって得られたクロダイ受精卵を用い、水温 19 °C で、受精後
経過時間と発生段階の関係を明らかにした。その結果、天然海域でのクロダイの産
卵時間帯は、午後から深夜 0 時頃まで、特に、日没前後に産卵が活発であることが
判明した。ただし、産卵時刻の逆算に用いた卵の観察水温 19 °C は、産卵後期(6 月)
に近い水温であるため、特に産卵初期から中期(盛期)の推定産卵時刻は実際より
遅い時間帯に見積もられている。産卵直後と思われる発生初期の卵に着目すれば、
その卵密度は水深 5 m よりも 10 m で高い値を示したことから、本種の産卵は水深 10
m 付近、もしくはより深い場所で行われていると示唆された。
第 3 章では、クロダイ卵期の減耗実態を解明するため、同湾の主要産卵場でクロ
ダイ卵を採集し、その発生段階毎の卵密度を用いて、非線形最小二乗法により卵期
の減耗曲線を作成した。その結果、広島湾のクロダイ卵期の減耗率は受精からふ化
までの約 2 日で 98 %以上となり、他魚種と比較しても非常に高いことが明らかにな
った。
第 4 章では、広島湾のクロダイの資源量変動を明らかにするため、主要産卵場に
おける卵密度と卵数法により産卵親魚量(SSB: spawning stock biomass)を推定し、
資源の年変動と漁獲利用率を算出した。その結果、近年の主要産卵場の卵密度およ
び SSB はいずれも減少傾向にあり、本種の資源量が減少していることが支持された。
ただし、広島湾における本種の漁獲利用率は各年とも 1 %前後と非常に低く、年変動
も認められなかったことから、近年の資源の減少は漁業者による乱獲に起因しない
と考えられた。
総合考察では、クロダイの産卵場としての好適条件とカキ養殖場の環境、および
これまでに得られた産卵生態や回遊行動を総合的に考察し、広島湾のクロダイには、
本来の産卵場に集まる産卵群とは別に、カキ養殖場を産卵場として利用する産卵群
が存在するとの結論に至った。また、広島湾におけるクロダイ資源の減少要因につ

いては、遊漁による産卵親魚の集中漁獲、産卵の早期化による仔魚の餌環境の悪化、
魚卵食者であるクラゲ類の増加、カキ養殖場への産卵場シフトによる卵の被食圧の
増加、産卵場の変化による仔魚の無効分散などの可能性を論議した。今後、広島湾
のクロダイ資源は加速的に減少する可能性があるため、資源変動に影響するこれら
の諸要因を検証し、本種の持続可能な資源利用の基盤を早急に構築する必要がある
だろう。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る