Comparison of hemodynamic stress in healthy vessels after parent artery occlusion and flow diverter stent treatment for internal carotid artery aneurysm
概要
【緒言】
大型、巨大内頚動脈(ICA)瘤はくも膜下出血や脳神経圧迫による眼球運動障害の原因となる。治療方法として、従来母血管閉塞術(PAO)が実施されていたが、近年は母血管の温存が可能であるflow diverterステント留置術(FD)による治療が多く行われている。PAOは術後に健側血管で動脈瘤が新生しやすいといった問題がある。側副血行路の需要増加により健側血管での血流負荷の上昇が原因として推測されている。一方でFDでは母血管が温存されるため、健側血管の血流負荷が増加せず、動脈瘤新生が起こりにくいことが考えられる。それぞれの治療の術前後で健側血管の血流負荷変化を定量化した報告はない。今回我々はthree-dimensional(3D) cine phase-contrast(PC) magnetic resonance imaging(MRI)で患者固有の血流情報を取得し、PAO群とFD群とでの術前後での健側血管での血流負荷の変化を計測した。
【対象及び方法】
2015年5月から2019年3月までに大型ICA瘤に対して術前、術後約1か月後、術後約1年後に3D cine PC MRIとtime-of-flight magnetic resonance angiography(TOF MRA)を含めたMRIを撮影した17例を対象とした。内訳はPAO群が5例、FD群が12例であった。血流解析ソフト(Flova; Renaissance Technology Corporation, Hamamatsu, Japan)で血管形状をTOF MRAから作成し、3D cine PC MRIで取得した血流情報を境界条件に用いて血流動態解析を行った。PAO群とFD群とでそれぞれの術前と術後とで健側ICAと脳底動脈(BA)の体積流量と血流速度、健側ICAのC1部分での壁せん断応力(WSS)を計測比較した。体積流量、血流速度は血管が直線である箇所で5回計測しその平均を算出し、WSSは健側ICAのC1部分の収縮期における面積平均を算出した(Figure1)。それぞれの術前、術後での計測箇所は可能な限り一致させた。体積流量、血流速度、WSSの評価はROIの設定に解析者間変動が潜在すると考えられるため、治療経過を盲検化した他の解析者で再度解析を行い、two-way mixed-effect intraclass correlation coefficient(ICC)で解析者間変動を評価した。また側副血行路であるWillis動脈輪の発達の程度をMRAで評価した。Maximum intensity projection(MIP)とsource imageで視認できないものは低形成と定義した。また、術前後で血管径が1.5倍以上に拡張がした場合は術後拡張ありと定義した。
【結果】
対象患者の平均年齢はPAO群で68歳、FD群で65歳であり、FD群の1例を除き全例女性であった。動脈瘤の部位は後交通動脈分岐部がPAO群で1例、その他の16例は海綿静脈洞部から錐体骨部にあった。動脈瘤最大径の平均はPAO群で30.5mm、FD群で20.6mmとPAO群でサイズの大きい動脈瘤を対象としていた。手術から1回目の撮影までの平均日数はPAO群で41日、FD群で34日であり、手術から2回目の撮影までの平均日数はPAO群で238日、FD群で296日であった(Table1)。治療時の神経症状を伴う合併症は両群で認めなかった。
術前、術後1回目、2回目の健側ICAの体積流量の中央値はPAO群で5.36, 6.28, 6.25ml/s(術前値より術後1回目、2回目の値はそれぞれ117%,116%)、FD群で4.65 ,4.93, 4.73ml/s(106%,102%)であり(Figure2)、健側ICAの血流速度の中央値はPAO群で249, 332, 368mm/sec (134%, 148%)、FD群で213, 231, 240mm/sec(108%, 113%)であった(Figure3)。健側ICAのC1部分のWSSの中央値はPAO群で3.91, 5.61, 6.44Pa(143%, 164%)、FD群で4.29, 4.57, 4.50Pa(107%, 105%)となり、PAO群で健側ICAでの血流負荷が著名に増加した(Figure4, 5)。BAではPAO群、FD群ともに平均流速、体積流量の有意な上昇は認めなかった(Figure2, 3)。ICC解析では全ての解析において、盲検化した他の解析者との解析者間変動は認めなかった(Table2)。
前大脳動脈A1部分の術後の拡張はPAO群で5例中4例に認めた。FD群では全例に認めなかった。拡張を認めた症例では4例とも術後1回目の撮影の時点ですでに拡張を認めていた(Figure6)。
【考察】
この研究では3D cine PC MRIの手法を利用することで、PAO群とFD群とでの術前後の健側血管の血流変化を測定した。その結果、PAO後の健側ICAにおいて体積流量、血流速度、WSSの有意な上昇を認め、FD後の健側ICAにおいて術後1回目のみに体積流量のわずかな上昇を認めた。
PAO後では動脈瘤側の脳血流量を保つために、側副血行路の特に健側ICAでの血流速度が上がることが確認された。また血流速度が上がることで体積流量の増加、健側ICAのC1部分でのWSSの上昇も見られた。PAO群での健側ICAのC1部分においてのWSSは、治療前と比較し治療後1回目の計測値は平均143%、2回目(半年~1年後)の計測値は平均164%へと増加する変化が見られた。血管内皮細胞の機能を正常に保つには適切なWSSが必要であり、高いWSSは動脈瘤の新生に関与するとされている。また側副血行路であるA1部分の術後の拡張はPAO群では1回目の撮影ですでに生じていた。これらの結果からPAO後の健側血管は動脈瘤新生が起こりやすい環境になり、その変化は時間が経過しても継続していくことが考えられた。また、PAO群の5例中4例に前大脳動脈A1部分の拡張が見られたことは健側血管における血流環境の変化が起きているといった推論を裏付けていると考えられた。
FD群で術後1回目の測定でわずかに体積流量の増加を認めた。FD3か月後に平均30%のステント内狭窄を認め、1年後にはその狭窄が改善したといった過去の報告がある。FD群で術後健側の体積流量が上昇し、その後元の体積流量に近づいた時期と、一過性のステント内狭窄が発生し改善する時期とが似ていることから一過性のステント内狭窄を反映している可能性が示唆された。
【結論】
PAOはFDと比較し術後に健側血管の体積流量が増加しWSSのような血流負荷が著明に増加することから、PAO後の動脈瘤新生の一因となっていることが考えられる。