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大学・研究所にある論文を検索できる 「ジルコニウム合金の水素吸収に及ぼす合金成分および照射損傷の影響に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ジルコニウム合金の水素吸収に及ぼす合金成分および照射損傷の影響に関する研究

高橋, 克仁 TAKAHASHI, Katsuhito タカハシ, カツヒト 九州大学

2022.09.22

概要

原子力発電は地球温暖化防止とエネルギー安定供給を両立させるために必要なエネルギー源の1つである。原子力発電を安定的に進めていくには,安全性の確保の他に使用済燃料対策として,使用済み燃料の発生量 低減のための高燃焼度化は重要である。また,近年,使用済み燃料から超ウラン元素を回収して利用する軽 水冷却高速炉の開発が進められているが,燃料被覆管の中性子照射量の増加が課題となる。沸騰水型軽水炉(Boiling Water Reactor,以下,BWR)ではジルコニウム合金製の燃料被覆管にて燃焼度が約55 GWd/t(中性子照射:約1×1026 n/m2,炉内滞在時間:約2000 日)からの水素吸収量の急激な増加が知られている。ここで,ジルコニウム合金は腐食に伴い水素を生成するが,その一部はジルコニウム合金に吸収される。水素は水素化物を形成して脆化の原因となり,燃料の寿命に影響する。水素吸収挙動には,メカニズムは不明確であるものの,合金成分が関係している。また,水素吸収量の増加には腐食だけでなく中性子照射も関与していると推測され,炉内滞在時間および中性子照射量,すなわち腐食および照射損傷が水素吸収挙動に影響を及ぼすことが示唆されているが,これらのパラメータを切り分けた評価はされておらず,水素吸収に及ぼす中性子照射の影響は明確ではない。そこで本研究では,ジルコニウム合金の水素吸収に及ぼす合金成分の影響および照射下での合金成分挙動の明確化を目的とした。本論文の概要は以下のとおりである。

第1章では,高燃焼度化ならびに重照射下でのジルコニウム合金製燃料被覆管の課題について整理し,その中で高燃焼度時の水素吸収増加について解明が重要であることを述べた。また本研究の目的を述べた。

第2 章では,ジルコニウム合金の腐食に伴う水素吸収挙動に及ぼす合金成分の影響を評価した。ジルコニウム合金では腐食反応により生成した水素が酸化膜を介して吸収されることおよび水素吸収挙動に影響を及ぼす合金成分はジルコニウム合金中で固溶せずに第2 相粒子(Secondary Phase Particles,以下,SPP)を形成していることから,酸化膜中でのSPP の性状に着目した。ジルカロイ2(Zr-1.5%Sn-0.12%Fe₋0.1%Cr-0.05%Ni),ジルカロイ4(Zr-1.5%Sn-0.2%Fe₋0.1%Cr)およびZr-1.5%Sn-0.3%X(X: Fe, Cr またはNi)三元モデル合金について,BWR の水質を模擬した288 ℃高温高圧水中にて腐食試験を実施し,水素吸収量はジルカロイの合金成分であるFe およびCr 添加により低減され,Ni 添加により増加することを確認した。さらに,酸化膜中のSPP を走査電子顕微鏡法(Scanning Electron Microscopy,以下SEM)および透過電子顕微鏡法(Transmission Electron Microscopy,以下TEM)等により調査し,Fe およびCr は酸化し,Ni は金属状態であったことから,水素吸収挙動には合金成分の酸化のし易さが関係していることを見出した。また,分子動力学シミュレーションにより,Fe または Cr が酸化膜の主成分である ZrO2 の一部に置換することにより ZrO2 での水素拡散係数の減少を示した。これらの検討結果をもとに,合金成分が関係する水素吸収メカニズムを新たに提案した。

第3 章では,前章を踏まえ,SPP の結晶性が水素吸収挙動に及ぼす影響に着目した研究について述べた。 前章の知見に基づいて酸化膜へ合金成分を固溶させるため,ジルカロイの表面を強加工してSPP を非晶質化し,288 ℃の高温高圧水浸漬による腐食試験を実施したところ,未加工のジルコニウム合金に比べて水素吸収が抑制された。前章で提案した水素吸収メカニズムを検証すると共に,表面強加工による水素吸収抑制を初めて見出した。

第4章では,水素吸収に及ぼす中性子照射の影響を推定するため,酸化膜および酸化膜中でのSPP の特性に及ぼす照射の影響についての研究を述べた。中性子照射による照射損傷がジルカロイ合金の水素吸収に及ぼす影響を推定するために,ジルカロイ2 を288 ℃高温高圧水中で腐食した後,300 ℃で最大1.3×1020 ions/m2(ターゲットを金属Zr とした場合,28.7 dpa の損傷量に相当する。ここで,dpa とは損傷量の単位であり,ターゲットの原子が格子位置からはじき出される平均回数を表す)の3 MeV のZr2+イオンを照射して,X 線回折法,SEM およびTEM 等による分析を行った。その結果,ジルカロイ2 の酸化膜の結晶性は,イオン照射により向上し,単斜晶 ZrO2 に比べて水素を透過しにくいとされる正方晶 ZrO2 の生成を確認した。また,酸化膜中の SPP については,照射損傷による固溶を検証した。酸化膜の劣化は確認されず,むしろ,Fe や Cr の酸化膜への固溶を促進して水素の拡散係数を減少させることから,酸化膜に対して照射損傷は,水素吸収を抑制する可能性があることが分かった。

第5 章では,照射損傷が酸化膜中での水素拡散に及ぼす影響の研究について述べた。水素拡散プロセスに及ぼす照射損傷の影響を推定するため,イオン照射したジルカロイ2 の酸化膜に重水素を注入し,昇温時の重水素の脱離挙動を評価した。その結果,酸化膜が水素の吸収に対して障壁となることを確認した。さらに,照射による新たな昇温脱離ピークから,照射損傷により水素のトラップサイトが形成されたことを確認し,酸化膜での水素拡散挙動に及ぼす可能性を見出した。

第6 章では,照射損傷を受けた金属から形成される酸化膜の特性についての研究について述べた。ジルカロイ2 に3.2 MeV のNi3+イオンを最大で60 dpa までの照射をした後,288 ℃の高温高圧水中にて腐食した。現行BWR を想定した15 dpa では腐食の増加は認められなかったが,これを大幅に上回る60 dpa では,腐食速度の増加を確認すると共に,酸化膜直下での結晶粒界でのFe およびNi の偏析を確認した。水素吸収におよぼす照射損傷の影響として,重照射された金属から形成される酸化膜の特性変化を示唆した。

第7 章では本研究を総括した。また,今後の課題として,照射損傷が付与される環境下で進行する腐食について,さらなる理解の必要性を述べた。

以上の通り,水素吸収に及ぼす合金成分の影響についてメカニズムをもとに説明し,照射下での水素吸収に関する知見を得た。これらの知見は BWR での高燃焼度化対応や軽水冷却高速炉での燃料被覆管の検討に役立つと考えられる。

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