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大学・研究所にある論文を検索できる 「クロマツ海岸林の成立に関わる外生菌根共生系の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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クロマツ海岸林の成立に関わる外生菌根共生系の解明

中島, 寛文 名古屋大学

2021.07.13

概要

日本の海岸林はおもにクロマツによって造成され,防災機能等の様々な公益的機能を持ち,海岸地域において重要な役割を果たしている。海岸地域は,潮風や乾燥等,樹木の生育にとって不利な環境であるが,クロマツは外生菌根菌と共生関係を築いているため,このような環境下でも生育できると考えられている。すなわち,クロマツ海岸林の成立において,菌根菌は不可欠な要素である。しかしながら,クロマツ海岸林は,マツ材線虫病の脅威によりクロマツの枯死が続いている。薬剤の空中散布等,様々な防除対策が講じられているものの,マツ材線虫病によるクロマツの枯死は沈静化せず,クロマツ海岸林の衰退が懸念されている。今では,マツ材線虫病による撹乱や土壌の肥沃化に伴い,クロマツ海岸林の広葉樹林化も進み,多様な林相が形成されている。海岸林の多様化により,菌根菌相も多様化していると考えられるが,どのような林相や環境でどのような菌根菌が発達するかを明らかにできれば,反対に,環境の整備や菌根菌の活用により,求める海岸林へと誘導することも可能かもしれない。本研究では,クロマツ海岸林の成立において,菌根菌がどのように寄与しているかを明らかにすることを目的とした。そのために,まず(1)クロマツ海岸林における菌根菌相を子実体の調査により明らかにし,植生や環境との関係性を調査した。次に,(2)クロマツ実生の菌根菌への感染過程の違いが,実生の更新にどのように影響しているかを明らかにした。また,(3)海岸地域における菌根菌の代表種Cenococcum geophilumの優占性に,マツ材線虫病対策として実施されている空中散布が影響しているかどうかを検証した。最後に,(4)近年,マツ材線虫病に強いクロマツ海岸林を再生するために海岸地域に植栽されている抵抗性クロマツの生育特性に,菌根菌が与える効果を明らかにした。これらの結果から,これからのクロマツ海岸林の維持・管理手法について,菌根共生と関連付けて考察した。

(1) クロマツ海岸林における菌根性子実体群集
 海岸クロマツ林の環境は,マツ材線虫病による撹乱や,松葉の堆積等による土壌の肥沃化によって変化してきた。このような環境の変化により,クロマツ海岸林における菌根菌相も変化する可能性がある。そこで,子実体観察によりクロマツ海岸林の菌根菌相を明らかにし,菌根菌相に植生構造や環境状況が与える影響を調査した。その結果,2016年1月から12月までの1年間の子実体観察により,8科10属19種の菌根性子実体を,計597個体確認した。菌根菌相は植生構造によって異なっており,クロマツの更新が活発に行われている場所では,冬から早春にかけて高頻度で発生したショウロの子実体が優占していることが分かった。ウバメガシがクロマツ海岸林に侵入し,発達していた場所では,1年間を通して高頻度で確認されたツチグリの子実体が優占していることも分かった。また,菌根菌相は土壌の状態によっても異なっており,キチチタケとアミタケの子実体は,とくに,土壌が発達した場所(土壌含水率が高く,土壌窒素含有量が大きく,リターが厚い)において,発生する子実体であることが分かった。以上のことから,植生や環境の変化に対応した子実体群集の時空間的な発生パターンは,クロマツ海岸林の遷移に応じて菌根菌相が変化する可能性があることを示唆した。

(2) クロマツ実生の更新に関わる菌根菌
 菌根共生は宿主植物の成長や生残に不可欠であるとともに,宿主植物同士が地下部で菌根菌の菌糸によって繋がること(菌根菌ネットワーク)で,菌糸を通して栄養等のやり取りが植物間で可能であることが知られている。近年,実生更新においても,菌根菌ネットワークの存在は有効に作用することが明らかとなってきている。そこで,クロマツ海岸林において,菌根菌ネットワークがどのように実生更新に貢献しているかを明らかにするため,既に菌根菌ネットワークを構築していると考えられる成木からの距離を変えてクロマツ種子を播き,実生の菌根菌の感染状況と生育特性が成木からの距離に応じて異なるかを調査した。その結果,成木近くで育ったクロマツ実生は,成木が感染している菌根菌と一致していた。一方で成木から離れると,成木とは異なる菌根菌が実生に感染することが分かった。成木から離れた場所において,実生に多く感染していたショウロ,コツブタケ,T. ellisiiの菌根菌3種は,おそらく胞子由来で実生に感染したと考えられる。また,とくにこの3種については,実生の成長や生残に対し,正の効果をもたらすことが分かった。以上のことから,菌根菌ネットワークに繋がることが,必ずしもクロマツ実生の更新を促進するわけではない可能性があることが示唆された。

(3) 海岸地域で優占する菌根菌
 クロマツと共生する菌根菌の一種であるC. geophilumは,様々な環境ストレス等に対し耐性を持っており,海岸地域において優占していることが知られている。また,とくに日本のクロマツ海岸林では,マツ材線虫病予防のため,スミパインと呼ばれる殺虫剤(有効成分:フェニトロチオン)を毎年大量に散布しているため,C. geophilumの優占性に対して何らかの影響を及ぼしている可能性がある。そこで,スミパインを散布している場所と散布していない場所において,野外のマツ実生におけるC. geophilumの感染状況を調査した。その結果,スミパインを散布している場所で育ったクロマツ実生のC. geophilumの感染割合は,散布していない場所の実生よりも有意に高いことが分かった。また,スミパインを添加した寒天培地上におけるC. geophilumの菌糸伸長量を調査した。この際,クロマツ海岸林でよく確認される菌根菌種であるショウロ,コツブタケを比較対象として用いた。その結果,スミパインの添加量を増やすほど,全3菌根菌種の菌糸伸長量は減少した。しかしながら,菌糸伸長量の低下割合は,C. geophilumにおいて最も小さかった。以上のことから,C. geophilumのスミパインに対する高い耐性は,継続的にスミパインが散布される日本のクロマツ海岸林において,C. geophilumが優占する要因の一つとなっている可能性が示唆された。

(4) 菌根菌が抵抗性クロマツの生育特性に与える効果
 日本のクロマツ海岸林では,マツ材線虫病に強い海岸林を造成するため,様々な地域でマツノザイセンチュウに耐性を示す抵抗性クロマツが開発されている。全ての抵抗性クロマツは,同種であるにも関わらず,異なる生理特性を示す。そこで,4品種のクロマツ(抵抗性品種:3品種,非抵抗性品種:1品種)の成長量と生残率,及び共生する菌根菌を調査した。その結果,同所的に植栽して,約2年経過したにも関わらず,各品種の菌根の構成は,有意に異なっていた。とくに,白色の菌根を多く持つ抵抗性クロマツは,品種に関わらず,高い成長量と生残率を示した。白色菌根のDNAを調べた結果,白色菌根には,ツチグリ属,アテリア科,イグチ科,イボタケ科の菌根菌が含まれていることが分かった。以上のことから,種内の生理的適応は,菌根の構成や特定の菌根菌によって影響を受ける可能性があることが示唆された。

 本研究を通して,①菌根菌相は植生や土壌環境によって変化する可能性があること,②クロマツ実生の更新には,ショウロ,コツブタケ,T. ellisiiの3菌根菌種が有効である可能性があること,③マツ材線虫病対策である薬剤の空中散布が,C. geophilumを海岸地域で優占させている一因である可能性があること,④抵抗性クロマツの生理特性は菌根の構成や特定の菌根菌種により高められることが明らかとなった。
 クロマツ海岸林の手入れや管理をしなければ,海岸林は,徐々にクロマツ以外の広葉樹に置き換わっていくであろう。しかし,クロマツに備わる高い公益的機能を発揮させるためにクロマツ海岸林を維持していくには,広葉樹林化への遷移を止める必要があり,それにはクロマツの生育に有利な菌根菌の活用が有効かもしれない。
 現在のところ,クロマツ海岸林の再生において,菌根菌を活用した研究例は少ないが,本研究により,クロマツ海岸林再生に寄与する菌根菌,今後も海岸地域で優占すると考えられる菌根菌が明らかとなった。今後,クロマツ海岸林の再生の場面で,これらの菌根菌が実際に活用され,その効果の検証が行われることが望まれる。

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