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大学・研究所にある論文を検索できる 「ナノ銀粒子の曝露実態解明を目指した評価系の構築」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ナノ銀粒子の曝露実態解明を目指した評価系の構築

石坂, 拓也 大阪大学

2021.03.24

概要

近年のナノテクノロジーの発展に伴い、少なくとも一次元の大きさが100 nm以下に制御されたナノマテリアル(NM)の開発が進んでいる。NMは、従来サイズの素材と比較し、組織浸透性や界面反応性などが格段に向上することから、現在では幅広い分野に用いられている。そのため、我々が意図的・非意図的にNMへ曝露する機会は増加しており、その安全性確保は重要課題である。

安全性の指標であるリスクは、一般的に、ハザードと曝露量により規定されている。その一方で、NMは、サイズや表面電荷といった物性の違いが、生体内動態やハザードを変化させるため、従来の化学物質とは異なり、組成が同一であっても同一のリスクを有するとは限らない。さらに、NMの物性は、生体内における凝集やイオン化などによって動的に変化し続けているため、従来の動態モデルでは予測も困難である。そのため、NMの曝露実態の理解に向けては、生体中で「何が」「どこに」「どれだけ」「どのような状態で」存在しているのかといった「動態/存在量/存在様式」の解明が不可欠である。しかし、これらの指標に立脚した曝露実態の解析は遅々として進んでいない。この要因は、NMを解析する手法の乏しさにある。例えば、NMの定量的解析手法として汎用される誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)は、NMの構成元素に基づいた定量解析には優れているものの、その定量値が粒子とイオンのいずれに由来するものであるのかを区別することは困難である。一方で、存在様式の解析に長ける動的光散乱法や電子顕微鏡観察では、定量性に乏しいことが致命的な課題となっており、NMの存在量と存在様式を同時に解析できる新規手法の構築が待望されている。この点を解決すべく、著者は単一粒子(sp-)ICP-MS法に着目した。sp-ICP-MS法は元素の定量に強みを有するICP-MS法を基盤に、一粒子単位での定量を可能とした分析法である。本法の活用により、個々の粒子サイズの評価を始め、イオンと粒子の定量的な測り分けが可能であるため、従来法の課題を解決しうる測定法として期待される。しかし、本手法は、環境水といった比較的単純な試料への適用がほとんどであり、夾雑物の多い生体試料への適用例は少ない。

そこで本研究では、生体内で存在様式を変化させることが知られている銀ナノ粒子(nAg)をモデルに、(1)生体試料中のnAgの存在様式を変化させることなく、定量に適う効率で解析可能な前処理方法を探索・最適化した。(2)また、確立した手法を活用し、血中曝露させたnAgの動態について、銀量のみならず、存在様式の観点からも解析した。(3)さらに、各組織におけるnAgの曝露実態をもとに、適切なin vitroモデル系を設定し、その有用性を評価し、以下の知見を得た。

(1) sp-ICP-MS法は、ICP-MSを基盤とした分析法であるため、測定試料は液状の必要がある。そのため、著者は、夾雑物を多く含む生体試料分析に向けて、試料前処理法の最適化を試みた。その結果、いずれの生体試料においても、 NaOHの処理により、試料中nAgの存在量と存在様式を損なうことなく、測定に適う試料の可溶化を達成した。

(2) 確立した分析法の実用性を評価するため、血中に曝露させたnAgの組織分布について、銀の存在量のみならず、存在様式の観点からも解析した。その結果、肝臓や脾臓などの貪食性細胞が多く存在する臓器では、分布した銀の大部分が粒子体であったのに対し、他の組織では、粒子から溶出したと考えられるAg+の分布が主体であった。更に、糞便と尿中に排泄される銀を解析したところ、大部分がAg+として排泄されることが示唆された。以上より、血中曝露したnAgは、肝臓や脾臓などの貪食性の細胞が多く存在する臓器に粒子体として一度取り込まれ、その後粒子から徐放されたイオンが体循環へ移行し、排泄につながることが示唆された。したがって、生体内におけるnAgの存在様式変化が、その生体内運命を制御していることが示された。

(3) 上記(2)の検討で、各組織中には、粒子と、粒子から溶出したイオンが共存していたことから、曝露実態に即したin vitro安全性研究の先駆けとして、nAg/Ag+複合曝露における細胞障害性を、nAg・Ag+単独曝露時と比較して評価した。その結果、複合曝露条件では、Ag+の単独曝露と比較して、細胞障害性が緩和されることが示唆され、イオンと粒子の複合曝露で誘発されるハザードは、それぞれ単独曝露で誘発されるハザードの単純な加算とはならない可能性が示された。

以上、本研究は、NMの生体内存在様式に即した安全性評価の重要性を示した。これは、従来研究では見落とされていた「存在様式」という評価軸を新たにNMの安全性研究に組み込むものであり、この評価軸の活用によって、NMの動態予測や未知のハザードの機序解明は大きく進展すると予測される。将来的には、「粒子とイオンの比率」や「粒子径」のみならず、「表面電荷」や「表面修飾」といったNMのリスクを規定する多種多様な物性を網羅的に評価することにより、NMの精確なリスク評価の推進と適切な法整備が可能となり、有用かつ安全なナノマテリアルの創成と活用に繋がると期待される。

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