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大学・研究所にある論文を検索できる 「核酸医薬品の品質管理を志向したイオンモビリティーマススペクトロメトリーの有用性の評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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核酸医薬品の品質管理を志向したイオンモビリティーマススペクトロメトリーの有用性の評価

大室, 詳悟 大阪大学

2022.09.22

概要

近年、創薬モダリティの多様化は急速に進んでおり、核酸医薬品やペプチド医薬品といった合成中分子医薬品の開発の進展が注目されている。特に核酸医薬品については、2022年7月時点で16種類が医薬品として承認されているが、2016年のヌシネルセンの医薬品承認を皮切りとして以降13種類の薬剤が日本・米国・欧州いずれかで承認されており、急速に研究開発が進んでいる。天然型のDNAは生体内のヌクレアーゼにより分解されるため、核酸医薬品の多くは様々な修飾構造を有する。代表的なものは、リン酸ジエステル構造の酸素原子を硫黄原子に置換したホスホロチオエート(PS)修飾があり、その導入による利点としては、ヌクレアーゼ耐性の獲得及び生体内分布の改善が挙げられる。また、これ以外にも糖部の2'位と4'位を架橋したlocked nucleic acid(LNA)が知られており、標的のmRNAに対する大幅な結合親和性の向上を達成している。

核酸医薬品として用いられている配列においてはこれらのように様々な修飾構造が含まれているが、その品質についても考えられなければならない。一般的な低分子医薬品の分子量は構造が複雑なものでもおおよそ1,000程度であるのに対し、ASOの分子量は6,000、siRNAについては10,000を超えることから、物性評価・品質管理の技術的な難易度は非常に高いと言える。近年はHPLCとUV検出に質量分析法(MS)を組み合わせたHPLC/UV/MS法により、核酸医薬品の目的配列と保持時間が異なりクロマトグラム上で分離している不純物をUVで定量し、目的配列と共溶出するヌクレオチドが欠損したn-1体や核酸塩基の脱離した脱塩基体、PS修飾構造が天然型のリン酸ジエステル構造に置換されたPS→PO体といった不純物をMSの質量情報から特定の質量の「不純物群」として定量する手法が注目されている。しかしながら、この手法においても不純物群として分析される配列のいずれの箇所がいずれの比率で変化が生じているか定量分析が困難であるという技術的な課題が存在する。また、PS修飾構造が導入された箇所のリン原子は不斉点となり、PS修飾をn箇所含む配列の核酸では2nのジアステレオマーを含むことから、目的配列自体が構造多様性を有している。そのため、様々な分析技術を用いた特性解析により物理化学的性質を評価することも望まれる。

そこで本研究では、近年着目されている分析技術であるイオンモビリティーマススペクトロメトリー(IM-MS)を用いて、核酸医薬品の品質管理を志向した有用性の評価を実施した。IM-MSは、MSによる質量情報の取得と合わせて、ArやN2といった不活性化ガスをモビリティセル内充填した静電場中に分析対象のイオンを通過させ、分析対象と不活性化ガスとの衝突頻度の違いにより生じる移動度の違いから、それぞれのイオンを分離可能な手法である。

まず、核酸の修飾構造の違いに起因した特性解析及び分離分析を目的とし、トラベリングウェーブイオンモビリティーマススペクトロメトリー(TWIMS)を用いてLNAやPSといった修飾構造を有する核酸配列を含む様々な検体について測定を行い、核酸構造の物理化学的性質の評価を実施した。まず、Poly-T配列の鎖長違いの検体を評価した結果、価数とCCSの関係について底打ちするようなプロット結果であり、価数によって核酸イオンの構造変化が生じていることが示唆された。また、PolyT配列の評価結果においては、低い価数では鎖長に比例したCCSの増加が確認された一方で、高い価数においては鎖長の延長とCCS値の増加の相関性は低い結果であった。さらに、CCSの幅に着目して修飾核酸と天然型のDNAと比較したところ、LNA構造はCCSの幅が同程度であるのに対し、PS構造を有する核酸ではその存在比率に比例して衝突断面積(CCS)の幅が増加する傾向を見出した。このようなCCSの幅の違いはいずれの価数においても確認されるのではなく、今回の測定では6価及び7価といった特定の価数で顕著な傾向を認めた。これらの様に、修飾構造の導入された核酸配列についてTWIMSにより物理化学的性質の評価が実施可能であることが示された。

引き続き、高分解能IM-MS測定が可能であるCyclic IMSを用いて、既承認の核酸医薬品であるパティシランのn-1体及び脱塩基体の不純物異性体の分離・定量分析及びギボシランのPS→PO体の分析評価を実施した。具体的には、パティシランのセンス鎖、アンチセンス鎖のn-1体及び脱塩基体の組み合わせの計4グループを対象とし、最大3つの異性体組み合わせについて、複数の価数のモビリグラムを評価し、最適な価数を選択することで分離・定量が可能であることを見出した。さらに、実際の核酸医薬品中に含まれる少量の不純物評価を想定し、大過剰の目的配列が存在する条件下でも異性体不純物のモビリグラムを確認し、同等のモビリグラムの形状を示すことを確認した。また、PS修飾が天然型のリン酸ジエステル構造に置換されたPS→PO体は核酸医薬品の不純物としてその存在が一般的に知られていることから、PS構造を4箇所含むギボシランのアンチセンス鎖をモデルとして、PS→POに変更した度合いの異なる複数の検体について測定を実施した。その結果、4箇所のPS修飾のうち1箇所をPOに変えた不純物標品の分析結果は、それぞれ識別可能な特異的なモビリグラムを示した。さらに、PS修飾を1箇所残した不純物標品の分析結果では、S体とR体の2種のジアステレオマーのピークが確認されたことから、複数のPS修飾構造を有する核酸においてはその組み合わせによりブロードなピーク形状を形成することが明らかとなった。

以上の様に、本研究では汎用的なIM-MSシステムであるTWIMSを用いることにより核酸医薬品の物理化学的性質の更なる評価が可能であることを見出した。また、高分解能のIM-MSシステムであるCyclic IMSを用いることにより、通常のLC/MSでは困難である核酸不純物の異性体群の定量・分離が可能であることを確認した。

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