琵琶湖水中におけるウイルスメタゲノム解析

概要

令和 ４年度

京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
琵琶湖水中におけるウイルスメタゲノム解析
Metagenomics of viruses in Lake Biwa
国立環境研究所琵琶湖分室 沈尚

研究成果概要
2018 年から 2022 年にかけて、琵琶湖（4 地点）および流入河川（12 河川）から採水した（計
46 サンプル）。細菌画分中の薬剤耐性遺伝子については、まず試料を孔径 2.7 µm または孔
径 1.2 µm のフィルターでろ過し、ろ液に含まれる細菌を孔径 0.2 µm のフィルターで捕集した。
その後 DNA 抽出し、ショットガンシーケンスを行った。ウイルス画分中の薬剤耐性遺伝子につ
いては、まず孔径 0.2 µm のフィルターでろ過し、ろ液に含まれるウイルスを鉄共沈および塩化
セシウム密度勾配超遠心法を用いて濃縮・精製した。さらに DNase 処理し、溶存態 DNA を分
解した。その後、DNA 抽出し、ショットガンシーケンスを行った。
細菌中に含まれる薬剤耐性遺伝子の検出およびその定量は、得られたリードを薬剤耐性遺
伝子データベース（CARD）にマッピングすることで行った（RPKM）。ウイルス中に含まれる薬
剤耐性遺伝子の検出およびその定量は、まずウイルスゲノムを構築し、CARD および
ResFams を対象にアノテーションを行った。次にウイルスの存在量を FPKM として定量し、薬
剤耐性遺伝子を保有するウイルスの存在量を薬剤耐性遺伝子の存在量として定量した。
細菌画分では RND 型薬剤排出ポンプや薬剤を修飾する酵素群（リン酸転移酵素、アセチル
基転移酵素、ヌクレオチド転移酵素）が多数検出された。一方、ウイルスゲノムにはキノロン系
耐性遺伝子、β-ラクタマーゼ、グリコペプチド耐性遺伝子が比較的多く検出された。また検出
されたバンコマイシン耐性関連遺伝子の中で耐性発現を誘導する遺伝子 VanR・VanS は、ウイ
ルスゲノムから多く検出され（FPKM ベースでバンコマイシン耐性関連遺伝子全体の 20%）、
細菌画分からはほとんど検出されなかった（5%）。
細菌画分とウイルス画分では含まれる薬剤耐性遺伝子の組成が異なることが明らかとなった。
これは、水平伝播の経路によって細菌が獲得しうる薬剤耐性遺伝子が異なる可能性を示して
いる。またバンコマイシン耐性の発現調整遺伝子がウイルスに多く存在していたことは、ウイル
ス感染が耐性発現に関与していることを示唆している。
発表論文（謝辞あり）
1.

Shen S, Anazawa T, Matsuda T, Shimizu Y. Draft Genome Sequences of
Sphingomonadaceae Strains Isolated from a Freshwater Lake. Microbiol Resour Announc.
2022 May 19;11(5):e0007022. doi: 10.1128/mra.00070-22.

2.

Shen S, Anazawa T, Matsuda T, Shimizu Y. Complete Genome Sequence of a Phage
Infecting Sphingomonadaceae. Microbiol Resour Announc. 2022 Jul 21;11(7):e0036622.
doi: 10.1128/mra.00366-22. ...