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大学・研究所にある論文を検索できる 「薬物性歯肉増殖症の新規治療法開発を目指した基礎研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

薬物性歯肉増殖症の新規治療法開発を目指した基礎研究

畑野 紗希 広島大学

2020.03.23

概要

学位論文の内容要約

薬物性歯肉増殖症の
新規治療法開発を目指した基礎研究

畑野

紗希

広島大学大学院医歯薬保健学研究科
博士課程 医歯薬学専攻
2019 年度

主指導教員:栗原 英見

教授

(医系科学研究科 歯周病態学)

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【目的】
現在日本は超高齢社会であり、多くの高齢者が生活習慣病に罹患している。生活習慣病の
中でも特に高血圧の患者は多く、nifedipine (NIF) などのカルシウム拮抗薬を服用してい
る患者は多い。また、生活習慣病の糖尿病の合併症である糖尿病性腎症が進行すると腎不全
に至る。現在、腎不全の治療法は透析もしくは腎移植であるが、腎移植は透析と比較すると
治療費や治療期間の負担も軽いことから、有用な方法である。腎移植後の拒絶反応の予防に
は、cyclosporine A (CsA) をはじめとした免疫抑制薬の服用は不可欠である。更に近年、て
んかん患者の交通事故が社会問題となっている。現在、高齢者のてんかん患者数は増加して
おり、phenytoin (PHT) をはじめとした抗てんかん薬の重要性は一層高まっている。
薬物性歯肉増殖症 (増殖症) は NIF、PHT、CsA によって誘導される線維性の歯肉過形
成を特徴とする歯周疾患である。これら 3 種の薬剤は幅広い年齢層で使用されており、使
用用途、作用機序も全く異なるが、口腔内では増殖症という共通した副作用を示す。
現在、増殖症の治療法は主に薬剤の変更や減量だが、免疫抑制薬や抗てんかん薬の変更は
移植臓器の拒絶やてんかん発作の再発のため困難であり、カルシウム拮抗薬も降圧作用が
良好な場合、変更は容易ではない。したがって、薬剤変更に頼らない新規の増殖症治療法の
開発が求められており、そのためには増殖症の詳細なメカニズム解明は必須である。
オーファン核内受容体 NR4A1 (nuclear receptor subfamily 4 group A member 1) は、
生体内リガンドが同定されていない核内受容体で、全身の多くの組織で発現し、様々な機能
を持つ。正常な創傷治癒過程では、transforming growth factor-β (TGF-β) の刺激で NR4A1
の発現が上昇し、TGF-β シグナルを抑制する negative feedback 機構が働く。しかし、突発
性肺線維症や全身性強皮症などの線維性疾患では、NR4A1 の機能障害に陥り、コラーゲン
の発現が亢進することで線維化が進行する。当研究室では、CsA によって誘導される増殖
症マウスモデルの確立に成功し、そのモデルの歯肉中では NR4A1 の mRNA 発現が抑制さ
れていることを見出した。しかし、CsA がどのように NR4A1 の発現を抑制するかは不明

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のままである。そして、CsA の免疫抑制作用は、T 細胞の転写因子である活性化 T 細胞核
内因子 NFAT (Nuclear factor of activated T cells) の脱リン酸化抑制によって発揮される
ことから、増殖症の NR4A1 の発現抑制にも NFAT が関与している可能性がある。また、
CsA だけでなく NIF、PHT 誘導性増殖症のメカニズム解明も必要である。
本研究では、増殖症の新規治療法開発のため NR4A1 と NFAT に着目をし、各薬剤とこ
れらの因子が増殖症に及ぼす影響について分子メカニズムを詳細に解明することを目的と
した。

【材料と方法】
1. NR4A1⁻/⁻マウスを用いたNR4A1の歯肉増殖への関与
NR4A1が歯肉過形成に及ぼす影響を検討するため、NR4A1のノックアウト (KO) マウ
スと野生型マウスの上顎両側第二臼歯に5-0絹糸を結紮し歯周炎を誘導した。絹糸結紮5週
間後にHE染色と歯冠幅径に対する頬側歯肉幅をGingival Overgrowth Degree (GOD) と
して評価した。
2. CsA、NIF、PHT 誘導性歯肉増殖症の分子メカニズム
CsA及びNFATがNR4A1の転写に及ぼす影響を評価するため、ヒト歯肉線維芽細胞
(HGF) にCsA (100, 250, 500, 1,000 ng/ml) を投与し、その1時間後からTGF-β (10 ng/ml)
を1時間作用し、NR4A1とType I collagenのmRNA発現をreal-time PCRで解析した。次
に、HGFにNFATc1とNFATc3のsiRNA (10 nM)を48時間導入後、TGF-β (10 ng/ml) を1
時間作用し、NR4A1のmRNA発現をreal-time PCRで解析した。更に、HGFにCsA (1,000
ng/ml) を1時間前投与した後、TGF-β (10 ng/ml) を30分間作用し、核内でのNFATc3のタ
ンパク発現をウエスタンブロッティング法で解析し、局在は蛍光免疫染色で観察した。ま
た、NIF、PHT誘導性増殖症のメカニズム解明のため、NIF、PHTがNR4A1の転写に及ぼ
す影響を検討した。HGFにNIF、PHT (100, 250, 500, 1,000 ng/ml) を1時間投与した後、

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TGF-β (10 ng/ml) を1時間作用し、NR4A1、Type I collagenのmRNA発現をreal-time
PCRで解析した。そして、NIF、PHTがNFATc3の局在に及ぼす影響について蛍光免疫染
色で観察した。

【結果と考察】
1. NR4A1⁻/⁻マウスを用いたNR4A1の歯肉増殖への関与
・ NR4A1⁻/⁻マウスに絹糸結紮を行い、その5週間後には絹糸周囲に顕著な歯肉肥厚を認
めた。
・組織学的所見において、絹糸周囲の歯肉結合組織中のコラーゲン線維の蓄積を伴う歯肉
の増殖を認めた。
2. CsA、NIF、PHT 誘導性歯肉増殖症の分子メカニズム
・TGF-β を 1、24 時間単独作用すると NR4A1、Ⅰ型コラーゲンの mRNA 発現が有意に
上昇したが、CsA、NIF、PHT の 1 時間前投与で、NR4A1 の mRNA 発現は有意に抑制
した。一方Ⅰ型コラーゲンの mRNA 発現は更に有意に上昇した。
・TGF-β を 1 時間単独作用し上昇した NR4A1 の mRNA 発現に対し、NFATc1 siRNA を
導入してもその発現に有意差は認めなかった。一方、NFATc3 siRNA を導入すると、
NR4A1 の mRNA 発現は有意に抑制した。
・TGF-β を 30 分間単独作用すると NFATc3 は核内に多く発現していたが、CsA、
NIF、PHT の 1 時間前投与で NFATc3 は細胞質に多く発現していた。

【結論】
歯肉線維芽細胞において、CsA、NIF、PHT が NFATc3 の核内移行を抑制し NR4A1
の発現も抑制することで、結果としてⅠ型コラーゲンの発現が亢進することが示された。
将来 NR4A1 をターゲットとすることで、全ての薬剤で発症する増殖症に対応可能な新規
治療法の開発に繋がると考える。

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