共通主成分分析に基づく構造変化点探索とその応用
概要
共通主成分分析 (Common Principal Component Analysis; CPCA) は,複数年のデータ集合 (グループ) の分散共分散行列を同時に対角化することで共通の主成分軸を導出して,視覚的に情報・パターン抽出を行う手法として Flury (1984, 1988) によって提唱された.この解析手法の利点は,個々に行う主成分分析に比べ推定するモデルのパラメータ数が少なく,より小さい標準偏差をもつ係数が求められるという意味で安定的であり,また共通の主成分軸で相違や類似度を測れる点などが挙げられる.経済データ,社会構造データなどでは経年データの情報やパターン抽出を考察するための有用な手法として用いられている (勝浦, 1988).
このように複数年のグループを分析する際,データ構造が大規模災害や経済危機によって変化する点が存在すると考えられる.この変化点を客観的に特定することは実社会において過去に発生した類似する出来事による影響について観察することによって,将来どんなことが起こるかを予測し,それに対処することが可能となる面で重要となる.
本研究では客観的に年度データにおける変化点を特定するために,共分散構造に着目した共通主成分モデルの下での逸脱度(CPCA deviance)に基づく変化点探索法を提案する.変化点前後では共分散構造が異なり,2つの分散共分散行列に分類されると考える.この 2 つの分散共分散行列に分けることで,境目となるところを変化点として検出することができる.この考えに基づき,共通主成分分析にモデル評価の指標の 1 つである逸脱度を導入することで共通主成分モデル下の逸脱度とフルモデル下での逸脱度の差から構造変化点探索を議論する.