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大学・研究所にある論文を検索できる 「歯周組織の治癒過程におけるCGRPの機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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歯周組織の治癒過程におけるCGRPの機能解析

竹下, 登 大阪大学

2022.03.24

概要

【研究目的】
 歯根膜は、セメント質と歯槽骨の間に介在するコラーゲン線維に富む非石灰化の結合組織であり、歯を支持・固定する役目を担っている。また、歯根膜は、多様な細胞成分を含み、歯槽骨、セメント質および結合組織のリモデリングを行い、歯周組織の恒常性維持を担っている。さらに、歯根膜中には多分化能を示す間葉系幹細胞の性質を保持した細胞が存在し、これらの細胞が歯周組織における創傷治癒や再生において重要だとされている。
 一方で、歯根膜は、豊富な感覚神経支配をうけ、咬合時の感覚受容器としても機能している。神経細胞は、感覚受容器で受け取った刺激を中枢神経に、中枢の指令を末梢に電気的な信号として伝える機能を持つが、それのみならず、神経細胞自身も神経ペプチドを産生・分泌し、その生理活性により、周囲の組織の活動を制御する機能も有している。Calcitonin Gene-Related Peptide(CGRP)は、カルシトニン遺伝子を選択的スプライシングして作られる37個のアミノ酸からなる神経ペプチドで、強力な血管拡張作用を示し、炎症時には同ペプチドの合成が促進されると考えられている。歯周組織におけるCGRPは三叉神経節で生成され末梢神経終末より分泌されることが知られているが、歯根膜にはCGRPを含む神経が多く存在することや、実験的な歯の移動がCGRPを含む神経線維に影響を与えること、CGRPアイソフォーム特異的欠損マウスでは骨折治癒が障害されること、ラット骨髄間葉系幹細胞にCGRPを強制発現させることで石灰化が促進されることなどの興味深い報告がなされている。しかしながら、歯周組織におけるCGRP依存性の骨代謝に関する報告は少ない。そこで本研究では、歯周組織におけるCGRPの機能を解明することを目的として、歯周組織再生の中心を担う歯根膜細胞に対するCGRPの機能を検討し、さらにマウス絹糸結紮歯周炎モデルを用いて歯周組織の創傷治癒過程におけるCGRPの機能を検討した。

【材料と方法】
本研究では、当研究室で樹立した硬組織形成細胞への分化能を有するマウス歯根膜細胞株MPDL22を用いた。
• 歯根膜におけるCGRP受容体の発現は以下の方法で検討した。CGRP受容体の構成要素であるRamp1、Clr、RcpのMPDL22における発現について、同細胞のRNAから作製したcDNAおよび全細胞画分を用いて、それぞれPCRおよびWestern Blottingを行った。また、Ramp1のマウス歯根膜中での発現について、マウス上顎臼歯の脱灰・凍結切片を作製して、抗Ramp1抗体による免疫染色を行った。
• CGRPが歯根膜細胞の増殖に及ぼす影響は以下の方法で検討した。すなわち、MPDL22を6穴細胞培養プレートに1.0×105個/wellとなるよう播種し24時間の通常培養をした後、48時間のスタベーションを行い、CGRP(0〜10⁻8Μ)存在下で、さらに10%FBS、1%FBS、0.1ng/ml FGF-2の有無という条件を追加した培地へ交換し、さらに48時間後に、トリパンブルー染色を用いて細胞数の計測を行った(n=3)。
• MPDL22の硬組織形成細胞への分化誘導時におけるCGRPの影響は以下の方法で検討した。すなわち、MPDL22を播種しコンフルエントまで培養した後、灰化誘導培地(10%FBS、10mM β-glycerophosphate、50pg/ml ascorbic acid含有α-MEM)において同細胞をCGRP(0〜10⁻10Μ)存在下で培養し、0、3、6、9、12日目にRNAを回収し、Real-time PCRによりCGRP受容体の遺伝子および石灰化関連遺伝子の発現の解析を、石灰化誘導18日目にアリザリンレッド染色にて石灰化ノジュール形成の評価を行った。(n=3)
• 歯周組織の破壊・治癒過程におけるCGRPの発現動態は、マウス絹糸結紮歯周炎モデルを用いて検討した。すなわち、8週齢BALB/c野生型(WT)マウスの上顎第二臼歯に5-0絹糸を結紮し、7日間飼育した後に絹糸の除去を行い、除去後さらに7日間飼育し、0、3、7、10、14日目に上顎骨のμCΤ撮影および組織の採取を行った(n=5)ο得られた組織から脱灰・凍結切片を作製し、HE染色と、抗CGRP抗体による免疫染色を行い組織学的に解析した。
・Ramp1遺伝子欠損マウスとWTマウスの歯槽骨の破壊と治癒の比較は以下の方法で行った。すなわち、Ramp1遺伝子欠損マウスを用いて上記と同様の実験を行い、得られたμCT画像を用いてWTマウスとの比較を行った。

【結果】
• MPDL22およびマウス歯根膜において恒常的なCGRP受容体の遺伝子およびタンパクの発現を認めた。
• MPDL22の細胞増殖に対するCGRPの有意な影響は認めなかった。
• CGRP非存在下で硬組織形成細胞へ分化誘導したMPDL22において、3日目にCGRP受容体の発現が有意に上昇した。また、CGRP刺激によりMPDL22において石灰化関連遺伝子(オステリックス、アルカリフォスファターゼ、オステオカルシン)の有意な発現上昇を認めるとともに、有意な石灰化ノジュールの形成促進を認めた。
•マウス絹糸結紮歯周炎モデルにおいて、結紮3日目に急速な歯周組織破壊が誘導され、結紮部直下の歯根膜に顕著な炎症細胞浸潤および、CGRP陽性神経線維の消失を認めた。その後、結紮7日目には炎症部におけるCGRP陽性神経線維の顕著な増加を認め、結紮10,14日目にかけて、歯周組織の治癒・再生が進むとともに、増加していたCGRP陽性神経線維は減少し、結紮前と同様の分布へ戻った。
• マウス臼歯絹糸結紮歯周炎モデルにおいて、Ramp1遺伝子欠損マウスはWTマウスと比較し、絹糸除去後の歯槽骨の回復に遅延を認めた。

【結論および考察】
 本研究により、CGRP刺激が歯根膜細胞の硬組織形成細胞への分化を促進することが明らかとなった。また、マウス絹糸結紮歯周炎モデルを用いた実験結果より、歯周組織の創傷治癒過程でCGRP陽性神経の発現が変動し、そのCGRPシグナルが歯槽骨の回復に重要であることが示唆された。従って、CGRPは歯根膜細胞の硬組織形成細胞への分化を促し、歯槽骨とセメント質のリモデリングに関与し、歯周組織における恒常性維持を担うとともに、炎症時には歯根膜においてその発現が上昇し、組織の修復に寄与している可能性が示唆される。
 本研究結果は、歯根膜における神経が従来知られてきた末梢における感覚受容のみならず、歯周組織の恒常性維持や組織修復に重要な機能を果たしていることを示唆するものである。
 本研究成果は、CGRPによる硬組織代謝の制御に基づく新規の歯周組織再生療法の開発につながるものとして期待される。

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