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大学・研究所にある論文を検索できる 「歯根膜における長期標識保持細胞の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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歯根膜における長期標識保持細胞の解析

冨田, 貴和子 大阪大学

2021.03.24

概要

【研究目的】
歯根膜には、未分化間葉系幹細胞や様々な前駆細胞が存在し、これらの細胞が必要に応じて骨芽細胞•セメント芽細胞などの歯周組織を構成する細胞群へと分化することで、歯周組織の恒常性維持や組織修復に重要な役割を担っている。実際に、成人の歯根膜から単離した細胞集団にはMesenchymal Stem Cells (以下、MSCと略す)と呼ばれる多分化能をもつ細胞が含まれ、これらの細胞集団を単離し、in vitro培養系や細胞移植実験にてその性質や分化制御機構を解明する取り組みがなされている。一方で、これまでに生体内の間葉系組織の幹細胞を同定するために、様々な分子マーカーが提唱され、免疫組織化学やマウス遺伝学を用いたin vivo析がなされてきた。骨髄中のNestin陽性細胞は微小血管周囲に存在する間葉系幹細胞であり、LepR陽性細胞と重複する細胞群であることが示唆されている。さらに、歯周組織においても組織幹細胞をin vitroにて同定する試みがなされ、Glil陽性細胞やa SMA陽性細胞などが恒常的に細胞を供給するActiveな組織幹細胞であることが示唆されている。しかしながら、歯根膜から単離・培養した細胞と、生体内で歯周組織の恒常性維持や組織修復を担っている組織幹細胞との違いは明確でなく、加えて、歯周組織におけるQuiescentな組織幹細胞の生体内での局在やその分化制御機構については不明な点が多く残されている。

本研究では、幹細胞がほとんど細胞分裂しないという性質を利用した組織幹細胞の同定方法であるヒストン2B融合GFP (H2BGFP)標識法を用いて、Quiescentな組織幹細胞を同定し、その局在や性状、組織損傷時の反応について検討した。さらに幹細胞が歯周組織の形成や維持、損傷時の修復を担っているかについて、その挙動を多色細胞系譜解析法にて解析を行った。以上の解析を通じて、組織幹細胞が歯周組織の恒常性維持および創傷治癒に果たす役割を明らかにすることを目的とした。

【材料および方法】
はじめに歯周組織の間葉系細胞のすべての核にGFPが発現するTwist2-Cre; R26-LSL-tTA; tetO-H2BGFPマウス (Tet-offTwist2-GFPマウス)を作製した。同マウスはドキシサイクリン(Dox)存在下ではH2BGFP発現が停止するため、-定期間観察後もH2BGFP発現を維持する長期間増殖しない細胞が長期標識保持細胞(LT-LRC)と定 義される。6〜8週齢にてDox含有飼料に交換後1、3、6ヶ月にて上顎骨の組織切片を作製し、歯周組織の組織学的検討を行うとともに、経時的変化を定量解析した。LT-LRCの性状解析には蛍光免疫組織染色および蛍光in situ hybridizationを用いた。続いて、同定したLT-LRCが組織損傷に応答して増殖するのか検討するため、6ヶ月間 Dox含有飼料にて飼育したTet-offTwist2-GFPマウスの上顎左側第二臼歯に1週間5_0絹糸を結紮し、結紮除去後1日目に組織学的解析を行った。増殖細胞を同定するため、解析2時間前にマウスにEdUを投与した。さらに異なるCre系譜のマウスとして、タモキシフェン誘導性に全細胞核にGFPが発現するUbc_CreERT2; R26_LSL-tTA; tetO-H2BGFPマウス(Tet-offUbc-GFPマウス)を作製した。8週齢Tet-offUbc-GFPマウスにタモキシフェンを1回腹腔内投与し、1週間後に組織学的解析を行った。さらに、8週齢Tet-offUbc-GFPマウスに1日毎に1回ずつ、計3回 タモキシフェンを腹腔内投与し、5ヶ月後に組織学的解析を行った。さらに歯周組織の恒常性維持や損傷時の修復に寄与する細胞群を解析するために、Twist2-Cre; R26-Rainbowマウスを作製し、多色細胞系譜解析を行った。同マウスではすべての間葉系細胞がmCerulean、mOrange、m Cherryのいずれかでランダムに標識することで、1細胞由来の細胞クローンの増殖程度を組織学的に解析することが可能である。Twist2-Cre; R26-Rainbowマウス6週齢および6ヶ月齢において、上顎骨の組織切片を作製し、歯周組織の組織学的検討を行った。さらに同マウス6週齢で上顎左側第二臼歯に1週間5-0絹糸を結紮し、結紮除去後3、7、14日目に組織学的解析を行った。

【結果および考察】
Dox含有飼料に交換後1ヶ月において、Tet-offTwist2-GFPマウス歯根膜中の半数程度の細胞がGFP標識を失ったことから、歯根膜が代謝回転の速い組織であることが確認された。Dox含有飼料に交換後6ヶ月において、歯根膜中のほとんどの細胞がGFP標識を失っていた。歯根膜中のLT-LRCとして、①セメント質および骨表面に存在する扁平な細胞、②歯根膜中の少数の細胞、が同定された。前者は休止期の骨芽細胞であるライニング細胞として報告されており、後者が歯根膜中の組織幹細胞である可能性が示唆された。ライニング細胞と歯根膜中央のLT-LRCを区別するため、歯根膜特異的マーカーである77発現を蛍光in situ hybridizationにて検討したところ、Plap-Ιは骨芽細胞やセメント芽細胞には発現せず、歯根膜中央のいわゆる歯根膜細胞において発現を認めた。さらに、歯根膜中央のLT-LRCはPlap-1陽性であり、このPlap-Ι陽性LT-LRCが組織幹細胞ではないかと推定された。続いて、歯根膜中のLT-LRCの組織学的解析を行ったところ、GS-IB4陽性の血管に隣接して局在しており、組織幹細胞マーカーの mRNA発現を検討したところ、LT-LRCはLepR陽性細胞およびNestin陽性細胞と一部重複していた。一方、骨髄などの間葉系組織にて幹細胞はペリサイトであるとの報告があることから、血管内皮細胞の基底膜のマーカーである Lamininの免疫組織染色を行ったところ、LT-LRCのうちLaminin陽性の基底膜に覆われているようなペリサイトは認められなかった。次いで、6ヶ月Tet-off Twist2-GFPマウスにおいて絹糸結紮により歯周組織破壊を誘導し、歯根膜中のLT-LRCの創傷治癒過程における挙動を検討した。結紮除去後1日目の組織切片では、肉芽組織の形成と血管新生を認め、血管から離れた部位にH2BGFPとEdUの共陽性の細胞が観察された。平常時は増殖しないLT-LRCが組織損傷に応答して血管から離れて増殖することが示唆された。さらに、組織損傷時に増殖したLT-LRCが、歯根膜中央に存在したPlap-Ι陽性のLT-LRCかを検討するために、Plap-Ιの蛍光in situ hybridizationを行ったところ、 EdU陽性の増殖細胞の中にPlap-Ι陽性のものを多く認めた上、EdU陽性のPlap-Ι陽性LT-LRCが認められた。つまり、歯根膜のPlap-Ι陽性のQuiescent幹細胞が組織損傷に応答して増殖したことが示唆された。また、Tet-off Ubc- GFPマウスにおいても長期追跡の結果、Tet-off Twist2-GFPマウスと同様に歯根膜中央にLT-LRCが観察された。さらに長期間Dox投与による上顎骨および歯牙の形態については、マイクロ CTおよびHE染色像にて大きな差異は認めなかった。

多色細胞系譜解析により、6週齢Twist2-Rbwマウスの歯根膜には、細胞数個単位のクローンがモザイク状に認められ、1細胞に由来する大きなクローンは認めなかった。高齢の6ヶ月齢では、歯根膜は依然として4色の細胞が混ざって観察され、クローンのサイズが少し小さくなる傾向が見られた。つまり、歯根膜中に前駆細胞が点在しており、それぞれが増殖することで組織の維持を担っていることが示唆された。創傷治癒初期である結紮除去3日目には、クローンは細胞1-3個程度の小さいもので構成されていたが、除去7日目では、修復された結合組織および歯根膜には3日目より比較的大きなクローンがモザイク状に認められた。さらに創傷治癒の後期である結紮除去14日目では、修復された結合組織および歯根膜には平常時のようなクローンがモザイク状に認められた。つまり、歯根膜では平常時および創傷治癒時においても、1つの組織幹細胞から組織が形成、修復されるのではなく、多くの細胞が動員されて組織修復が行われていることが示唆された。

【結論】
歯根膜中のLT-LRCを追跡した結果、長期間増殖しない組織幹細胞が血管周囲に存在し、同細胞は平常時には増殖しないものの、歯周組織の創傷治癒時には血管を離れて増殖することが明らかとなった。また、歯周組織の恒常性維持および創傷治癒は少数の組織幹細胞だけでなく、歯根膜中に点在する前駆細胞が担っていることが示唆された。今後LT-LRCのさらなる解析を通じて、歯根膜中の組織幹細胞および様々な前駆細胞の分化過程の理解が深まり、歯周組織再生療法の開発につながる基盤情報が得られるものと期待できる。

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