Sclerostin inhibits interleukin-1β-induced late stage chondrogenic differentiation through downregulation of Wnt/β-catenin signaling pathway
概要
背景
Wnt /β-カテニンシグナル伝達は軟骨内骨化を誘導し,変形性関節症(以下OA)の病態における役割重要な役割を果たすことが知られている(Chan BY et al., 2011).一方で,スクレロスチンはWnt /β-カテニンシグナル伝達経路の強力な阻害剤である(Wu J et al., 2018, ).これまでの当教室での研究で, スクレロスチンは,軟骨分化を誘導し,軟骨内骨形成を調節するために必須であることを示してきた.(Yamaguchi et al,.2018)そのため,この研究では, 炎症性サイトカインによって誘発される関節炎条件下での軟骨細胞の維持にスクレロスチンが重要な役割を果たすという仮説を立て調査した.
実験材料と方法
ATDC5細胞の培養は,宿南の方法に準じて行なった(Shukunami et al 1996).6穴,12穴,のマルチウェルプレート(Corning,New York,NY,USA)に,ATDC5細胞をそれぞれ1x104個/cm2播種した.培地は,細胞凝集段階を経て軟骨分化が誘導され,軟骨細胞の増殖が停止する培養3週目までは,5%ウシ胎仔血清 (FBS: GIBCO,New York,NY,USA),10μg/mlのInsulin (I; ウシ膵臓製,和光純薬,大阪),10μg/mlの Transferrin (T; Boehringer Mannheim GmbH,Germany),3x10-8MのSelenite (S; Sigma,St.Louis,MO,USA)を加えたDF培地( Dulbecco’s Modification of Eagle’s Medium : Ham’s F- 12 Medium = 1:1,Dainippon Pharmaceutical Co., Ltd.,Australia) (以下,培地Aと略す)にて5%CO2気相下,37℃で培養した.培養3週目以降は培地Aと同様の添加物を加えた,α-MEM培地(Alpha Modification of Minimum Eagle’s Medium : Dainippon Pharmaceutical Co., Ltd.)(以下,培地B)にて,3%CO2気相下,37℃で培養を続け,後期分化を誘導した.培地交換は培地A,Bともに2日毎に行なった.早期軟骨分化過程の実験では,IL-1β10ng/ml(PeproTech,Rocky Hill, NJ, USA)および/またはスクレロスチン200ng/ml(R&Dシステム)を培養3日目から3週間目まで各ウェルに培地Aと共に投与した.後期軟骨分化過程の実験では,IL-1βおよび/またはスクレロスチンを3週間から7週間まで培地Bと共に各ウェルに投与した.
結果
IL-1βは,間葉系幹細胞から増殖性軟骨細胞への初期軟骨分化を阻害した.しかしながら,スクレロスチンによってこの阻害された分化を救済できなかった.一方で,IL-1βは後期軟骨分化の進行を促進させ,最終的な石灰化までを促進した.この後期軟骨分化過程の促進をスクレロスチンは阻害した.具体的には, Sox9,Col2a1などの軟骨細胞に特異的に発現する遺伝子(軟骨細胞の同化の遺伝子)がIL-1β投与により低下し,スクレロスチン投与により,その発現は回復した(P<0.05).また,軟骨細胞の異化作用を示す,MMP13,ADMTS5,軟骨には不必要な血流を増加させる成長因子であるVEGF,さ らにBMP2までもL-1β投与により亢進し,スクレロスチン投与により,その発現は抑制された(P<0.05).
アリザリンレッド染色もIL-1βを投与するとその染色性は亢進し,スクレロスチン投与により染色性は低下した(P<0.05).つまり,IL-1β投与により亢進された石灰化がスクレロスチン投与により抑制がみられた.
また, LRP6,Axin1,Axin2,Wnt3a,Wnt5a,Ctnb-1の遺伝子発現はIL-1β投与によって亢進し,その発現はスクレロスチン投与によって抑制された免疫染色では,リン酸化されたLRP6,Axin1,Axin2,Ctnb-1の染色性が亢進し,スクレロスチン投与によりその発現は抑制された.
考察
I L-1β投与により抑制された内因性のスクレロスチンを外から投与することで, Wnt /β-カテニンシグナル伝達を抑制したと考える. スクレロスチンがWnt/βカテニンシグナル伝達を介して,軟骨分化促進を抑制する働きを示している.この研究は, IL-1βによって誘発されるOAのような環境下でも軟骨細胞の維持にスクレロスチンが重要な役割を示すことを明らかにした.スクレロスチンによるWntシグナル伝達の抑制は,関節の恒常性の維持に重要な役割を果たし,OAの進行を予防する可能性がある.そして,スクレロスチンは変形性関節症の治療選択肢の候補であると考える.