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大学・研究所にある論文を検索できる 「高血糖状態が歯肉上皮の細胞接着に及ぼす影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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高血糖状態が歯肉上皮の細胞接着に及ぼす影響

生川, 由貴 大阪大学

2021.03.24

概要

【研究目的】
歯周病と糖尿病を関連づける研究報告は多くなされており、歯周病は糖尿病の6番目の合併症と位置付けられている。糖尿病は歯周病のリスクを約3倍増加させ、高血糖になることで歯周病の発生率の上昇や歯槽骨の欠損が進行することが報告されている。一方、歯周ポケット内に蓄積したデンタルプラークに直接対峙する歯肉上皮は、①細菌等の外来異物に対して、サイトカイン・ケモカインを産生することで、歯周組織の免疫応答に寄与する、と共に、②歯周病菌の侵襲に対して物理的なバリアーとなる、という2つの機能を果たしている。歯肉上皮の物理的なバリア機能は、他の組織の上皮組織と同様に、上皮細胞間の接着分子により維持されている。その主な構成は、Claudin、Occludin、ZO-1などで構成されるTight junctionとE-cadherinにより構成されるAdherence junctionが知られている。近年、高血糖状態が腸管上皮等の物理的バリアに負の影響を及ぼし得るとの報告が散見されるが、歯肉上皮への影響については未だ検討がなされていない。そこで本研究では、糖尿病の病態である高血糖状態が、ヒト歯肉上皮細胞および高血糖モデルマウスの歯肉上皮組織に及ぼす影響について、細胞接着に焦点をあて解明することを目的とした。

【材料および方法】
12週齢のC57BL/6マウス(以下、controlマウスと略す)と高血糖病態を示す糖尿病マウスである+Leprdb/+Leprdbマウス(以下、db/dbマウスと略す)の体重測定と尾静脈より血糖値を測定し、生理的な表現型を確認した。さらに、それらのマウスにおける上顎歯槽骨をμCTにて撮影し、セメントエナメルジャンクションから歯槽骨頂までの距離を測定し、歯槽骨の吸収状態を比較した。また、マウスの歯肉上皮組織を採取し、real time PCR法とWestern blot法にて細胞間接着分子の発現変化について検討を行った。次に、当教室にて樹立されたヒト歯肉上皮細胞(epi4)を正常血糖培地であるHumedia-KG2®(5.5mMD-glucose)(以下、NGと略す)と高血糖条件(30mMD-glucose)(以下、HGと略す)で14日間培養し、細胞間接着のTight junction、Adherence junctionに関する遺伝子およびタンパク発現の変化について、real time PCR法、Western blot法、細胞免疫染色法にて検討した。さらに、上皮細胞間の透過性に対する高血糖の影響を検討するために、epi4をTrans well®にて14日間細胞培養後、蛍光標識した分子量4kDのFITC-dextranを上槽のインサート内に添加し、下槽への浸出量を蛍光強度にて測定した。HGにて培養した歯肉上皮細胞にCell Titer-Glo Assay kitを用いて、生細胞のATP量を発光強度にて定量測定し、細胞生存能への影響を検討した。次に7日と14日間HG刺激を行った後、それぞれNGに戻して14日と7日培養した場合のClaudin1のタンパク発現変化について、Western blot法にて検討を行った。さらに、高血糖状態で細胞を培養すると、細胞に浸透圧による影響が想定されるため、細胞間接着分子の低下に対して影響がないか浸透圧のコントロールであるMannitolで14日間刺激を行い、Claudin1のタンパク発現変化について、Western blot法にて検討を行った。次に、invitroの実験において、生体の歯周組織により近い状態でHGの影響を検討するために、Trans well®を用いたエアーリフト培養を駆使し、歯肉上皮細胞の立体培養を行った。つまり、細胞をインサート内のメンブレン上に播種し、2日後インサート内の培地を除去することで、メンブレン上の細胞の一方を気相にする培養を行った。HG刺激とNGの交換を週に2回行い、培養30日目にメンブレンごと細胞を回収し、高血糖状態で長期培養を行った細胞同士の細胞間隙の形態変化について、HE染色と透過型電子顕微鏡を用いて観察した。次に、高血糖により細胞間接着分子の低下に関与する細胞内メカニズムについて、AGEs(Advanced Glycation End Products;終末糖化産物)を特異的に認識する細胞表面レセプターの一つであるreceptor of advanced glycation end products(RAGE)のmRNA発現についてrealtimePCR法にて検討した。さらに、D-glucoseの代わりにRAGEに作用するAGEsの一種であるCarboxymethyl Lysine(CML)を添加し、Claudin1mRNA発現変化について、real time PCR法にて検討した。また、高血糖は酸化ストレスを亢進することが考えられるため、Oxi Select TM Intracellular ROS Assay Kitを用いて細胞内の活性酸素(Reactive Oxygen Species)(以下、ROSと略す)の蓄積を測定し、酸化ストレスの関与について検討を行った。さらに、抗酸化剤であるN-acetyl-cysteineを添加し、高血糖による細胞間接着分子の発現低下に対する阻害効果についてClaudin1mRNA発現を指標にreal time PCR法にて検討を行った。

【結果】
7週齢と12週齢のcontrolマウスに比較し、同週齢のdb/dbマウスにおいて血糖値と体重の有意な上昇を確認し、12週齢の同上マウスの上顎歯槽骨を比較したところ、controlマウスと比較し、db/dbマウスにおいて、有意な歯槽骨の吸収が認められた。つまり、糖尿病マウスにおいて歯槽骨の吸収が進行することが示唆された。さらに、controlマウスと比較してdb/dbマウスの歯肉上皮組織では、Claudin1、ZO-1mRNA発現の有意な低下が認められ、Cludin1の有意なタンパク発現の低下が認められた。さらに、epi4をHGで長期間培養すると、Claudin1、E-cadherinなどの細胞間接着分子のmRNAおよびタンパク発現が有意に低下することが認められた。さらに、細胞免疫染色法において、NG下では細胞間隙に沿ってClaudin1、E-cadherinの発現が確認され、HG下ではそれらの発現の低下が認められた。デキストラン透過実験の結果、NG下と比較しHG下において細胞間の透過性の有意な亢進が認められた。また、HG・NG間において生細胞のATP量に有意な差は認められず、高血糖による細胞生存能への影響はないと考えられる。Mannitolで14日間刺激した場合では、Claudin1の発現は変化せず、浸透圧の影響は認められなかった。さらに、HG下にて7日培養後、NG下にて14日培養することで、Claudin1のタンパク発現の有意な回復が認められた。以上のことから、細胞間接着分子の発現低下が高血糖の影響によるものであることが明らかとなった。エアーリフト培養にてepi4の立体培養を行った組織をHE染色にて観察したところ、NGおよびHG下での培養30日後に細胞が重層していることが確認され、NG下と比較してHG下では積層構造の緊密さが失われ、重層した厚みに異常が認められた。また、立体培養で得られた組織を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、細胞隣接部位の間隙が不均一な形態を示す像が観察された。14日間HG下で培養したepi4においてRAGEmRNAの有意な発現の増加が認められ、AGEsに対する反応性が亢進する可能性が示唆された。さらに、RAGEに作用するAGEsの一種であるCarboxymethyl Lysine(CML)をD-glucoseの代わりに用い、14日間刺激を行ったところ、CML群では、Claudin1mRNA発現の有意な低下が認められた。また、高血糖がROSに及ぼす影響について検討したところ、HG下においてROSの増加が認められ、抗酸化剤であるN-acetyl-cysteineを同上培養条件に添加した結果、HG下でのClaudin1mRNA発現の低下に対する有意な回復効果が認められた。このことより、高血糖状態のヒト歯肉上皮細胞における細胞間接着分子の発現低下にAGEsと酸化ストレスが関与していることが示唆された。

【結論および考察】
高血糖状態の歯肉上皮細胞において細胞間接着分子の発現が低下することが明らかとなり、マウス歯肉組織においても同様の変化が認められた。さらに、高血糖状態は歯肉上皮細胞における細胞間の透過性を亢進することが明らかとなった。さらに、この細胞間接着分子の発現低下の機序として、AGEsおよびROSの産生の亢進が関与している可能性が示唆された。これらのことより、高血糖状態においては歯肉上皮細胞間の結合が減弱し、その物理的バリア機能が低下することより、歯周ポケット内で宿主と歯周病菌の応答の結果産生される起炎物質等が生体内に侵入し、歯周病の増悪を来すものと考えられる。