Coordination of bladder peripheral clock and diurnal micturition pattern by glucocorticoids
概要
論
文
論 文 題 目: Coordination
概
要
of bladder peripheral clock and
diurnal micturition pattern by glucocorticoids
(グルココルチコイドによる膀胱末梢時計
と日内排尿パターンの調整)
指導教員:西山
博之
人間総合科学研究科 疾患制御医学専攻
腎泌尿器外科教授
所
属:筑波大学大学院人間総合科学研究科
疾患制御医学専攻
氏
名:千原
尉智蕗
目的:
生物には約 24 時間のリズムを持った生理機能が数多く存在し、これを概日リズ
ムと呼ぶ。ヒトの場合、視交叉上核(SCN)に存在する中枢時計が、転写-翻訳
フィードバックループのメカニズムによりこのリズムを形成する。中枢時計は
個体全体の概日リズムを形成するとともに、各臓器・器官に存在する末梢時計
を自律神経系、ホルモン系、行動制御などによって調律している。末梢時計は
各臓器の重要な機能の日内変動に関与していることが報告されている。膀胱に
おいても末梢時計と膀胱機能の関連が明らかになりつつある一方で、膀胱の末
梢時計がどのようなシグナルで調律されるかについては未だ明らかではなく、
このメカニズムを解明することを目的とした。
対象と方法:
In vitro では、hTERT 不死化ヒト尿路上皮細胞株(TRT-HU1)を用い、
pBmal1-dLuc レンチウイルスレポーターを導入した pBmal1-dLuc TRT-HU1 細
胞株(Bmal1-Luc)を作成した。ルシフェリンは 0.1 mM になるように培養液に
添加した。血清ショックにより時計を同期させ、Bmal1-Luc の発光を 3-5 日間
連続的に測定した。血清ショック後に尿路上皮細胞の Bmal1 発現に影響を与え
る可能性のある候補物質を添加し、発光の変化からその影響を検討した。In vivo
では 8 週齢の雄の C57BL/6 マウスを使用した。すべてのマウスは 5 時に点灯、
19 時に消灯する 14 時間明期の明暗(L/D)サイクルで飼育した。両側副腎摘出
術(ADx)、非活動期のコルチコステロン投与(CORT)、その両方(ADx+
CORT)を施行したモデルマウスを作成した。両側副腎摘出術はイソフルラン
吸入麻酔下で行った。対照には、副腎を露出するのみの偽手術(sham)を行っ
た。ADx マウスと sham マウスは術後 1 週間の回復期間を設け、その間は 1%
NaCl 溶液を自由に摂取できるようにした。コルチコステロン投与はメチルセル
ロースを用いて 6 時(Zeitgeber Time 1)に 10 mg/Kg/day を経口投与した。一
回排尿量は、ろ紙自動巻取式マウス排尿連続測定装置(aVSOP)を用いて測定し
た。暗期開始時点から 8 時間毎(前後 4 時間)の数値を平均しグラフ化した。
結
果:
Bmal1-Luc を用いた発光実験において、ノルアドレナリン、カルバコール、ATP、
プロスタグランジン E2 を培地に添加しても細胞発光の位相と振幅は変化しなか
ったが、デキサメタゾン添加時のみ、細胞発光の振幅が著しく低下した。生理
的条件下における膀胱の Bmal1 発現の概日リズムを制御する分子を調べるため
に、生理的グルココルチコイド(GC)であるコルチゾールを用いてさらなる研
究を行った。その結果、発光の振幅は 25 nM で減少し、75 nM と 100 nM でさ
らに減少することが確認された。さらに Bmal1-Luc に 25 nM のコルチゾールを
生理的ピークのタイミングと生理的ピークから 12 時間遅れたタイミング(非生
理的タイミング)で投与した。生理的タイミングでのコルチゾール投与では、
発光リズムの振幅は増幅したが、位相には影響がなかった。一方、非生理的タ
イミングで投与では、発光リズムの位相が反転した。これらの結果から、尿路
上皮細胞における Bmal1 発現リズムを制御するためには、コルチゾールの上昇
タイミングが重要であること考えられた。これらの変化は、コルチゾールと同
時にグルココルチコイド受容体(GR)阻害剤であるミフェプリストン 10 nM を
投与すると抑制された。次に、in vivo で GC の作用について検討した。マウス
にはその主要な GC であるコルチコステロンを使用した。ADx では肝臓と膀胱
の時計遺伝子に有意な変化はなかったが、CORT では膀胱時計遺伝子の日内リ
ズムが変調し、Bmal1 と Rev-erbαのピークは 4 時間前方にシフトした。ADx
+CORT では Bmal1 と Rev-erbαのピークは 8-12 時間前方にシフトしていた。
どちらの群でも肝臓の時計遺伝子には有意なリズムの変化は見られなかった。
さらに、RNA-seq を用いて網羅的に解析したところ、ADx+CORT ではほとん
どの時計遺伝子で 8-12 時間の前方シフトと、日内リズムの変調を認めた。また
ADx+CORT でのみ、一回排尿量の正常な日内リズム(活動期に減少し非活動
期に増加する)が消失していた。
考
察:
尿路上皮細胞において GC は GR を介して、Bmal1 の発現を制御し、その作用
は濃度・時刻依存的であることを示した。またマウスにおいては、非活動期の
GC 投与は CORT 単独、ADx+CORT ともに膀胱時計の位相をシフトさせた。
これらの結果から、GC のピークのタイミングは膀胱時計の概日リズム形成に重
要な役割を果たしていることが示唆された。一方で ADx 単独では膀胱時計の概
日リズムが維持されていた。これは、GC は唯一の調節因子ではなく、中枢シグ
ナルや他の因子も膀胱時計に関与している可能性を示唆している。今後さらに
詳細な検討を行っていく必要がある。加えて膀胱時計の位相がほぼ反転した
ADx+CORT では一回排尿量の正常な日内リズムが消失しており、GC は排尿の
日内リズム形成にも重要な役割を果たしていると考えられる。
結
論:
本研究は GC が GR を介して膀胱時計を調節し、一回排尿量の日内リズムを制
御していることを初めて明らかとした。これらの成果は、夜尿症や夜間頻尿の
メカニズム解明や、膀胱時計を調律させるという新たな治療的アプローチとな
る可能性がある。 ...