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大学・研究所にある論文を検索できる 「EBウイルス関連胃癌における癌幹細胞マーカーおよび癌幹細胞制御機構の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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EBウイルス関連胃癌における癌幹細胞マーカーおよび癌幹細胞制御機構の解析

安井, 万里子 東京大学 DOI:10.15083/0002002342

2021.10.13

概要

【研究の背景および目的】
 Epstein-Barr ウイルス(EBV)関連胃癌は、EBV 感染に起因する癌であり、胃癌の 10%程度を占めると言われている。細胞に感染した EBV はモノクローナルであることが報告され、EBV 感染が発癌の一助になっていることが報告されているが、詳細な発癌機序や腫瘍進展のメカニズムはいまだ解明されていない点が多い。
 癌幹細胞は、胚性幹細胞や体性幹細胞と同様、自己複製能、多分化能を有し、高い腫瘍形成能を保ちながら、一方で分化した非癌幹細胞を生み出すと言われている。近年の治療技術の進歩にもかかわらず、腫瘍の再発や転移が生じてくる背景には、こうした特徴をもつ癌幹細胞が関与していることが示唆されている。このため癌幹細胞を同定し生物学的特性を解明することは、腫瘍の再発・転移を抑え込む新たな治療法の開発につながる。胃癌では様々な癌幹細胞マーカーが報告されているものの、コンセンサスが得られておらず、EBV 関連胃癌に関しては、癌幹細胞マーカーの同定を含め、生物学的特性の解析など癌幹細胞に関する報告は現在までになされていない。
 本研究では、1) EBV 関連胃癌における癌幹細胞マーカーの同定と分離、2) EBV 関連胃癌における癌幹細胞制御機構、という二つの課題を設定した。2)では、2-1) 宿主細胞内の癌幹細胞分子制御機構、2-2) ウイルス因子が癌幹細胞制御に及ぼす影響、の 2 つの側面から詳細に検討した。1)では、 EBV 関連胃癌における既報で挙げられている主要な癌幹細胞マーカーの発現を検討し、EBV 関連胃癌に特異的な癌幹細胞マーカーの同定を試みた。また 2-1) EBV関連胃癌細胞株のスフェロイド培養を行い、マイクロアレイを用いて網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果から、スフェロイド培養で上昇するNF-κB 経路に着目して分子生物学的解析を行った。さらに 2-2) EBV 特有の潜伏感染遺伝子である Latent membrane protein 2A(LMP2A)が、NF-κB 経路を介して癌幹細胞性に寄与するかを検討した。

【結果】
1) EBV 関連胃癌における癌幹細胞マーカーの同定と分離
 EBV 関連胃癌細胞株(SNU-719、YCCEL1)において、癌幹細胞の候補マーカーとして報告がある代表的な細胞表面分子の発現をフローサイトメトリ―で解析した。その結果、 CD44s、CD44v6、CD44v9、CD133、CD24 の発現が見られた。つづいて、胃癌細胞株(NUGC-3、TMK1)とそれぞれに対応する EBV 感染細胞株(NUGC-3-EBV、TMK1-EBV)において、前述の癌幹細胞マーカーの発現解析を行ったところ、CD44s、CD44v9、 CD44v6 は EBV 非感染細胞株と比較して、EBV 感染細胞株で発現が上昇していた。
 次に、CD44v6 と CD44v9 が共発現するかを検証するため、EBV 非感染胃癌細胞株(NUGC-3、TMK1)、EBV 感染細胞株(NUGC-3-EBV、TMK1-EBV)において、CD44v6と CD44v9 の共発現をデュアルカラーFACS 解析を用いて検討した。EBV 非感染細胞株と比較して、EBV 感染細胞株(NUGC-3-EBV、TMK1-EBV)で、CD44v6 および CD44v9 ともに陽性(CD44v6(+)CD44v9(+))の細胞集団の割合が上昇していた。さらに、EBV 関連胃癌細胞株(SNU-719、YCCEL1)においても、CD44v6、CD44v9 共陽性となる細胞集団を認め た。EBV 関連胃癌において CD44v6 および CD44v9 は定常的に発現し、CD44v6 陽性細胞は CD44v9 を共発現していることが分かった。さらに、EBV 感染により CD44v6(+)CD44v9(+)の細胞が増加することが示唆された。
 つづいて、EBV 関連胃癌において、癌幹細胞様細胞が CD44v6(+)CD44v9(+)細胞群に濃縮されるかを、スフェロイド形成アッセイにて比較検討した。SNU-719、TMK1-EBV のいずれの細胞株においても、CD44v6(−)CD44v9(−)細胞群と比較して、CD44v6(+)CD4v9(+)細胞群でスフェロイド個数・スフェロイド直径ともに有意に高かった。さらに、in vivo にても CD44v6(+)CD44v9(+)細胞群で癌幹細胞性が濃縮されるかを検討するため、SCID マウスの移植実験を行った。その結果、CD44v6(+)CD44v9(+)細胞群では、CD44v6(−)CD44v9(−)細胞群と比較して有意に造腫瘍能が高かった。また、FACS 解析、免疫組織化学的検討にて CD44v6(+)CD44v9(+)移植腫瘍片では CD44v6(−)CD44v9(−)となる細胞が混在しており、癌幹細胞が濃縮されている CD44v6(+)CD44v9(+)細胞群においてヘテロ不均一性が生じることが示唆された。
 また、ヒト臨床胃癌検体においても EBV 関連胃癌で CD44v6 および CD44v9 陽性細胞の頻度が上昇するかを免疫組織化学的に検討した。EBV 非関連胃癌と比較して、CD44v6、CD44v9いずれにおいても、EBV 関連胃癌検体において陽性面積割合が有意に高かった。さらに、 CD44v6、CD44v9 両者が陽性となる症例の割合も、EBV 非関連胃癌と比較して有意に高かった。

2) EBV 関連胃癌における癌幹細胞制御機構
2-1) 宿主細胞内の癌幹細胞分子制御機構
 EBV 関連胃癌の癌幹細胞維持に働く遺伝子群やシグナル伝達経路が関与しているか、cDNA マイクロアレイで遺伝子発現を解析した。EBV 関連腫瘍で癌幹細胞性維持に関与するとされるシグナル伝達経路が、SNU-719 スフェロイド培養でエンリッチされるかを検索したところ、NF-κB、Notch、PI3K/AKT 経路は有意にエンリッチされていたが、Hedgehog、 WNT/β-catenin はエンリッチされなかった。中でも、NF-κB 経路が他の経路と比較して優 位にエンリッチされていた。つづいて、NF-κB 経路が、Notch や PI3K/AKT 経路と比較し て、in vitro 実験でもより癌幹細胞制御に寄与するかを確かめるため、それぞれの経路に対する阻害剤を添加してスフェロイド形成アッセイを行った。NF-κB 阻害したでは、SNU-719、 TMK1-EBV いずれにおいても、コロニー数、直径ともに、すべての濃度において有意な減少を認めたが、Notch や PI3K/AKT 阻害下ではスフェロイド形成阻害効果は限定的であった。
 つづいて、EBV 感染の有無が NF-κB を介した癌幹細胞制御に変化をもたらすかを検証した。NF-κB 阻害剤である BAY 11-7082 を添加して、TMK1 と TMK1-EBV 間のスフェロイド形成能を比較検討した。コントロールでは TMK1-EBV が TMK1 より多くのコロニーを形成した。一方、NF-κB 阻害下では、コントロールと比較して TMK1 でコロニー形成数が増加したのに対し、TMK1-EBV ではコロニー形成数が減少し、TMK1 と TMK1-EBV 間でのコロニー形成能は有意差を示した。さらに、TMK1 と比較して、TMK1-EBV では NF-κB の構成タンパクの一つである p65(relA)の核内での発現が上昇しており、EBV 関連胃癌においては NF-κB 経路が癌幹細胞維持により重要な役割を果たすことが示唆された。

2-2) ウイルス因子が癌幹細胞制御に及ぼす影響
 さらに、EBV 関連胃癌で発癌に関与するとされる LMP2A が胃癌細胞において癌幹細胞性維持および促進に働くかを検証した。TMK1 に LMP2A 遺伝子を安定的に発現させた TMK1-LMP2A と、コントロールとしてベクターのみを導入した TMK1-FLAG を用いて、スフェロイド形成アッセイを行ったところ、TMK1-LMP2A でコロニー数、直径ともに有意に増加していた。
 また、TMK1-FLAG と比較して TMK1-LMP2A で NF-κB の活性が上昇しているかを検討したところ、TMK1-FLAG と比較して、TMK1-LMP2A では p65(relA)の核内発現が上昇していた。つづいて、NF-κB 経路が LMP2A の癌幹細胞性維持・制御への作用の一助を担っているのではないかと考え、TMK1-FLAG と TMK1-LMP2A における NF-κB 阻害下でのスフェロイド形成能を検証した。その結果、NF-κB 阻害下では、コントロールと比較して TMK1-FLAG でコロニー形成数が増加したのに対し、TMK1-LMP2A ではコロニー形成数が減少し、TMK1 と TMK1-EBV 間でのコロニー形成能は有意差を示した。以上より、EBV 関連胃癌では LMP2A が NF-κB シグナル伝達経路を介して癌細胞性維持・制御に寄与していると考えられた。

【結論】
 本研究では、スフェロイド形成アッセイおよび SCID マウス移植実験を用いて、EBV 関連胃癌における癌幹細胞の分離を試み、CD44v6 / CD44v9 が EBV 胃癌に特異的な癌幹細胞マーカーになり得ることを示した。また、LMP2A-NF-κB シグナル経路が癌幹細胞維持に重要な役割を担うことが示唆され、EBV 関連胃癌に特徴的な癌幹細胞制御機構であることが見出された。