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大学・研究所にある論文を検索できる 「マイクロサージャリーにおける血管拡張薬としてのリドカインの至適投与量に関するワイヤーミオグラフィを用いた持続的評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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マイクロサージャリーにおける血管拡張薬としてのリドカインの至適投与量に関するワイヤーミオグラフィを用いた持続的評価

Ogawa, Haruo 神戸大学

2021.03.25

概要

はじめに:
微小血管吻合を用いた再建外科手術において、術中の微小血管の攣縮の発生を予測することは難しい。術中に血管攣縮が生じることによって、移植する遊離皮弁の壊死を生じる可能性があり、微小血管の攣縮を予防、改善するために多くの外科医が様々な血管拡張薬を用いている。局所麻酔薬、ホスホジエステラーゼ阻害薬、カルシウム拮抗薬が血管拡張薬としてしばしば用いられるが、どの薬剤が最も効果的であるかは未だ議論されており結論はでていない。

リドカインは微小血管吻合手を用いた再建外科手術において一般的に用いられる血管拡張薬である。しかし、リドカインの血管拡張作用のメカニズムについては様々に議論されており一定のコンセンサスは得られていない。これまでの多くの生体内または試験内の実験の報告から、リドカインの血管拡張効果は濃度依存的であることが知られている。しかし、高濃度のリドカイン溶液により細胞毒性を生じる可能性も指摘されている。

過去のリドカインの血管拡張効果に関する研究は、大きく3つの方法に別れる。リドカインが作用した血管の径の変化を計測する方法、リドカインが作用した血管内の血流速度の変化を計測する方法、リドカインが作用した血管によって栄養される組織の血流の変化を測定する方法である。しかし、これらの方法にはいくつかの限界があり、リドカインの血管に対する直接的な作用を生理学的に計測したとは言い難い。

ワイヤーミオグラフは血管のような管腔組織に対して内腔側から負荷をかけることで、その生理学的な動態を持続的に計測できる装置である。われわれはこの装置を用いたワイヤーミオグラフィによりリドカインの血管拡張効果を生理学的に計測し分析した。

対象と方法:
ワイヤーミオグラフの装置とラットの腹部大動脈を用いて試験管内での実験を行った。ラットは平均体重300g の雌の成人ウィスター系ラットを用いた。ワイヤーミオグラフの装置には、試験管内に血管をかける1対のフックが設置されており、一方のフックがエネルギー変換器に接続されている。装置を作動させるとフックが血管内腔を外方に向かって牽引する。そのため、血管に負荷がかかり血管収縮力の力価が測定される。変換器を通して血管の収縮力の力価が計測され1/100秒ごとに記録されるようになっている。

まず、ラットの腹部大動脈を1mm の厚さで切り出し、リンゲル液を満たした装置の試験管内にセットした。ワイヤーミオグラフを作動させ20分かけて、血管収縮の力価を 1gf で安定させた。次に攣縮モデルとして、5µM ノルエピネフリンを試験管内に添加し血管を収縮させた。ノルエピネフリン添加から10分後に、試験管内の溶液をリドカイン溶液に置換し血管を弛緩させた。リドカイン溶液置換から10分後に、試験管内の溶液を5µM ノルエピネフリンを含むリンゲル液に置換した。

これらの過程で血管収縮、弛緩により生じる力価の変化を計測した。われわれは、上記の実験で得られたデータで血管が最大に収縮した力価とリドカイン溶液置換後の血管の弛緩により生じる力価をもとに、血管の弛緩率を持続的に計算した。また、血管の弛緩率が平衡状態に達するまでに要する時間を計測した。投与したリドカイン溶液の濃度は10%、5%、 2%、1%の4群であり、これらの群間の差についても統計学的に比較検討した。

結果:
16匹のラットから合計56個の血管サンプルを採取した(サンプル数は10%リドカイン群:10、5%リドカイン群:14、2%リドカイン群:16、1%リドカイン群:1 6)。すべてのサンプルの実験において、初回のノルエピネフリン投与で速やかに血管の収縮が得られ力価が上昇し、その後のリドカイン溶液置換により速やかに血管の弛緩が得られ力価が低下した。2回目のノルエピネフリン溶液置換後には、いずれの群においても血管の収縮は見られなかった。血管の弛緩率に関しては、5、2、1%リドカイン溶液の群では1相性に弛緩率が上昇し平衡に達したが、10%リドカイン溶液の群では弛緩率は2相性に上昇し平衡に達した。

各群の平均を比較すると最終的には濃度依存的な血管拡張効果が見られた。これらを統計学的に検討したところ、リドカイン溶液置換後300秒以降では10%リドカインの群は他の群と比べ有意に弛緩率が高かった。5%リドカインの群は1%リドカインの群と比べ、リドカイン溶液置換後400秒以降で有意に弛緩率が高かった。2%と1%リドカインの群を比較すると、リドカイン置換後500秒以降で有意に2%リドカインの群の弛緩率が高かった。5%と2%リドカインの群を比較すると、リドカイン置換後400から600秒の間で有意差が見られた。

われわれはリドカインによる血管拡張効果が平衡に達するまでの時間を評価するために、血管の弛緩率のグラフから平均変化率を求めた。この平均変化率が一定の値より低値を示したところで(5、2、1%リドカイン群では0.005未満)、弛緩率およびリドカインによる血管拡張効果が平衡状態に達したと判断した。10%リドカイン群では弛緩率が2相性に上昇したため平均変化率も2相性に低下した。そこで、10%リドカイン群においては、われわれは平均変化率が2相目に0.004未満になった時点を弛緩率が平衡に達したと判断した。その結果、弛緩率が平衡に達するまでの時間は、10%リドカインの群では210.00±15.474秒、5%リドカインの群では50.79±6.941、2%リドカインの群では4 8.56±5.609秒、1%リドカインの群では60.38±11.087秒であった。これらの値は、統計学的に10%リドカインの群と他の3群の間には有意差が見られた。また、2%と1%リドカインの群間には有意差が見られたが、他の群間には有意差は見られなかった。

考察:
最適な血管拡張薬とは、早期に強力な血管拡張効果が得られ、その効果が長く持続するものである。そして、血管に組織障害を起こさないことが望ましい。リドカインの血管拡張効果は濃度依存的であるとされてきたが、われわれの研究でも同様であった。

われわれの研究では10%リドカイン溶液の群は他の群と異なる2相性の血管拡張効果のグラフを示した。このことは10%リドカイン溶液が他の濃度のリドカインとは異なる作用を血管にもたらしたことを示唆している。リドカインは2%や1%のような比較的低濃度の溶液であっても、ヒト、ウサギの角膜細胞、ウシの腱細胞に対して細胞毒性を生じることが報告されている。それに対し血管に対するリドカインの細胞毒性の報告は少ない。過去の報告で10%リドカイン溶液により血管に組織障害を生じなかったことが述べられているが、生理学的にリドカインの細胞毒性について検討をした報告はない。われわれは10%リドカイン溶液が血管に対してなんらかの生理学的な不可逆変化をもたらしたと考えた。

他の3群を比較した場合、5%と2%リドカイン溶液が1%リドカイン溶液に比べ強力な血管拡張効果を持つ。5%と2%リドカイン溶液の血管拡張効果を比較した場合、置換後4 00から600秒においては5%リドカイン溶液の血管拡張効果が強かったが、血管拡張効果が平衡に達するまでの時間に関しては、これらの2群間では有意差はなかった。われわれは、強い血管拡張効果が早くに得られ長く続くという点において、5%リドカイン溶液が最適であると考えた。

われわれの研究は試験管内の研究であり生体内の研究ではない。そのため動脈に対する交感神経支配が切断されているが、この交感神経の刺激の近似するものとしてわれわれはノルエピネフリンを使用した。しかし、ノルエピネフリンは、その他の外的刺激、寒冷刺激などを代償するものではない。また、われわれはこの研究でラットの腹部大動脈を用いた。ノルエピネフリンやセロトニンに対する感受性は大血管と末梢血管では異なることが知られている。また、ヒトとラットという異なる個体に対するリドカインの感受性が異なる可能性もある。これらのことは、われわれの研究の限界として挙げられる。

結論:
われわれはラットの腹部大動脈を用いたワイヤーミオグラィにより、リドカインの血管拡張効果について生理学的に研究した。リドカインはこれまでの報告と同様、濃度依存的な血管拡張効果を持つ。しかし、10%リドカイン溶液は動脈に対して生理学的に不可逆な変化をもたらす可能性が示唆された。

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