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大学・研究所にある論文を検索できる 「経皮的炭酸ガスペースト塗布による創傷治癒促進効果」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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経皮的炭酸ガスペースト塗布による創傷治癒促進効果

伊賀, 利香 神戸大学

2022.03.25

概要

【緒言】
皮膚は様々な環境からの刺激に対して保護する物理的バリアとして機能する。口腔外科領域では皮膚は頭頸部手術後感染から保護してくれる役割がある。何らかの原因により治癒不全が生じると不快感や疼痛が生じ、患者の QOL の低下につながる。また感染症を引き起こし入院の長期化や入院費の増加、追加治療の遅延などさまざまな不利益が生じることとなる。そのため創傷治癒の促進はとても重要である。治癒遅延が生じる原因として局所の低酸素状態があるとされている。古くからヨーロッパでは炭酸泉の効能が広く知られており経皮的炭酸ガスを用いた治療方法が開発され、ヒトや動物モデルで様々な治療効果を検証してきた。われわれは以前に局所的炭酸ガス投与により骨折や筋損傷、皮弁の治癒が促進することを確認した。しかしながら過去の研究では気体の炭酸ガスを使用するため頭頸部領域には応用困難であった。そこで今回皮膚表面の水分と反応し内部に炭酸ガスを保持できるペーストを開発した。本研究ではこの炭酸ガスペーストを使用し、低酸素状態や血流の改善により創傷治癒が促進されると考え検討を行った。

【材料と方法】
7週齢雄の SD ラットを無作為にコントロール群(24 匹)とCO₂群(24 匹)に分け、各ラット背部に直径 6.2 ㎜の皮膚欠損を作成した。CO₂群は創傷後より毎日 10 分間経皮的に炭酸ガスペーストの塗布を行った。コントロール群では治療は行わなかった。創傷後 3,7,14,21 日目に肉眼的評価および実験終了後標本を採取し Real-time PCR 法で血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-β)、低酸素誘導因子 (HIF-1α)、炎症性サイトカイン(IL-6、IL-1β)を評価、H-E 染色での評価および免疫染色法を用いて VEGF、HIF- 1α、TGF-βを評価した。

【結果】
写真撮影を行い肉眼的に創傷治癒面積を評価したところ有意に CO₂群で治癒率の上昇を認めた。Real-time PCR 法では血管新生促成に関わる因子である VEGF や TGF-βは CO₂群で有意に増加していた。一方で低酸素誘導因子である HIF-1α や炎症性サイトカインである IL-6、 IL-1βは有意に減少していた。H-E 染色では CO₂群で線維芽細胞の均一かつ高密度の配列を認めた。また免疫染色法ではコントロール群と比較して、CO₂群で VEGF 陽性細胞や TGF-β陽性細胞の増加を認めるとともに、HIF-1α 陽性細胞の減少を認めた。

【討論】
今回の研究で、われわれは経皮的炭酸ガスペースト塗布による皮膚欠損部の創傷治癒促進を確認した。創傷治癒は炎症、肉芽組織の形成、再上皮化などの複数の過程が関与する複雑なプロセスである。創傷治癒には成長因子やサイトカインが重要な役割を担っており今回 VEGF、HIF- 1α、TGF-β、IL-6 および IL-1βの因子で検討した。炭酸ガス療法の治療効果は、血流や微小循環の増加、毛細血管の新規形成、さらに局所における酸素分圧の上昇(Bohr 効果)によってもたらされている。Bohr 効果は血中炭酸ガス濃度の上昇や pH の減少によりヘモグロビン酸素解離曲線の右方移動を示しており、我々はこれまでにラットやヒトの下肢へ経皮的炭酸ガス投与を行い、ラット筋組織でのミトコンドリア数の増加や、ヒトで「人工的な Bohr 効果」が生じることを報告している。しかしながら過去の研究では気体の炭酸ガスを使用しており頭頸部領域に使用する ことはできなかったため、皮膚表面の水分と反応し内部に炭酸ガスを保持できるペーストを開発 し検討した。今回の研究でも、経皮的炭酸ガスペースト塗布による Bohr 効果が生じ、血流や低 酸素環境の改善、炎症性サイトカインの減少によって、創傷治癒促進を認めた。VEGF は血管内 皮細胞増殖・管腔形成により血管新生の促進に関与している。また、瘢痕のない創傷治癒は炎症 の欠如やコラーゲンの規則正しい沈着によって特徴づけられ線維芽細胞は創傷治癒において重 要な役割を果たす。TGF-βは線維芽細胞の活性化・細胞外マトリックスの合成に関与しておりこ れらの因子の増加は創傷治癒促進の効果があることを示唆した。また、HIF-1α は血管新生を促 進する転写カスケードでの低酸素環境において重要な因子である。したがって、炭酸ガスペース ト塗布による低酸素環境の改善は血管新生促進に関与することが示唆された。炎症性サイトカイ ンの増加は炎症を遷延させ治癒遅延につながる。また低酸素状態は炎症を誘発するとされており、炭酸ガスペーストは炎症性サイトカインと低酸素状態を調節することで創傷治癒を促進する可 能性がある。

しかしながら本研究では動物モデルを対象としているためヒトとの直接的な比較は困難であり適正時間や日数を検討する必要がある。また本実験では対照群には対照ペーストを用いておらずこれらの制限は今後の研究において更なる調査が必要であると考える。

【結論】
今回の研究で炭酸ガスペースト塗布によりボーア効果が生じ血流改善及び低酸素環境の改善がおき、血管新生の促進や炎症性サイトカインの過剰産生の抑制により創傷治癒の促進がもたらされることが示唆された。この研究が今後皮膚創傷をもつ患者にとって新しい戦略となることを願う。

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