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大学・研究所にある論文を検索できる 「プロスタグランジン(PGE₁)製剤の長期投与が動脈管に及ぼす形態的変化の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

プロスタグランジン(PGE₁)製剤の長期投与が動脈管に及ぼす形態的変化の検討

Iwaki, Ryuma 神戸大学

2020.09.25

概要

背景
近年,本邦において,左心低形成症候群における新生児ハイリスク症例に対し,両側肺動脈絞扼術にプロスタグランジンE1(PGE1)製剤投与を組み合わせることで動脈管の開存を保ちつつ,新生児期の人工心肺を用いた手術介入を回避し,患児の状態が安定化するまで待機した後,Norwood 手術又はNorwood-Glenn 手術を目指す治療戦略が一般的となっている。本治療戦略に伴い,本邦での左心低形成症候群の治療成績は著しく向上している。一方で,本治療戦略に関連し,PGE1 製剤の投与期間が長期化しており,一部の症例においてはPGE1 製剤の副作用等で,予定された手術時期までの待機が困難となり,準緊急的に手術を要する症例が散見される。過去の報告においては,短期間のPGE1 製剤の投与が動脈管中膜の弾性線維を破壊し,内膜肥厚を促進する事で,動脈管の閉鎖に寄与することが示唆されていた。しかしながら,PGE1製剤の長期投与が動脈管組織に与える影響はこれまで明らかにされておらず,その安全性は証明されていなかった。兵庫県佐用市に位置する大型放射光施設である SPring-8 にて撮像可能な位相差X 線CT は 12.5μm の空間分解能を有し,生体軟部組織の微細な密度差を描出可能な装置である。本研究の目的は,位相差X 線CT による微細構造解析を用いた形態的評価及び,動脈管組織に特異的な免疫染色を含む病理組織学的評価により,PGE1 長期投与が動脈管組織に与える影響を解明し,その安全性を証明するとともに,より適正なPGE1 投与法を検討する事である。

方法
左心低形成症候群症例に対するNorwood 手術施行時に摘出した動脈管 17 検体を対象とした。動脈管は摘出後,直ちに 10%ホルマリンで固定し位相差X 線CT 装置で撮 像。動脈管の内膜肥厚,内膜占有面積,中膜の密度を計測し形態変化を評価した。その後,長軸方向で動脈管の組織切片を作成。Elastica van gieson (EVG)染色を行い,動脈管中膜における弾性線維及び平滑筋の分布を観察,color extraction 法にて定量化した。又,免疫染色では動脈管に特異的なプロスタグランジンレセプターであるEP4 の発現を評価し,PGE1 の投与期間,平均投与量,総投与量が動脈管の形態的,組織学的変化に与える影響を検討した。

結果
Lipo-PGE1 の投与期間,平均投与量,総投与量はそれぞれ 48(3-123)日,5(1.15- 10)ng/kg/min,213(16-1771)㎍/kg あった。位相差X 線CT 画像を用い,動脈管断面における内膜肥厚の占有率,内膜の最大肥厚長,中膜密度(平均値)を計測したところ,それぞれ 14.4(0.2-29.6)%,734 (242-5625)μm,1.026(1.018-1.038)g/cm3 であった。Lipo-PGE1 の投与期間及び総投与量と,動脈管中膜の平均密度の間には有意な正の相関を認めた(R=0.723,P=0.001 及び 0.649,P=0.0048)。さらに, Lipo-PGE1 の投与期間が 60 日以上の検体群における動脈管中膜の密度は 60 日未満の検体群と比較し,優位に高値であった。

組織学的所見(EVG 染色)においては,Lipo-PGE1 の投与期間及び総投与量と動脈管中膜に占める弾性線維量の間に正の相関(R=0.799,P<0.001 及びR=0.72, P=0.0025)を,平滑筋量との間には負の相関(R=-0.83,P<0.001 及びR=-0.638, P=0.11)を認めた。さらに,Lipo-PGE1 の投与期間が 60 日以上の検体群では,60 日未満の検体群と比較し,動脈管中膜に占める弾性線維の割合が優位に高く,平滑筋の割合が優位に低かった。又,EVG 染色像と位相差X 線CT 画像の比較においては,動脈管中膜の密度は中膜に占める弾性線維の割合と正の相関(R=0.695,P=0.0028)を,平滑筋の割合と負の相関(R=-0.678,P=0.0039)を示した。さらに,免疫染色所見においては,PGE1 が投与された検体において,投与期間に関わらず(最低投与期間:3 日)EP4 の発現を認めなかった。

考察
Lipo-PGE1 の投与期間により,動脈管中膜に占める弾性線維及び平滑筋の割合に変化が生じた。特にLipo-PGE1 の投与が長期化した検体群において,動脈管中膜における弾性線維の割合が高く,平滑筋の割合が低い所見が認められた。さらに,動脈管中膜における弾性線維及び平滑筋の割合は,動脈管中膜の密度と強い正の相関を認めた。これらの所見により,Lipo-PGE1 の長期投与が動脈管中膜の弾性線維の割合を増加し,中膜組織密度(硬度)の上昇に関与することが示唆された。又,本所見は特 に,60 日以上のPGE1 製剤が投与された検体群で有意であった。加えて,免疫染色においては,Lipo-PGE1 の継続投与がEP4 の発現を減少(消失)させる事が明らかとなった。これらの所見は,これまでに報告されていた,PGE1 製剤の投与が動脈管中膜及び内膜の組織変化を引き起こし,動脈管閉鎖への変化を引き起こす。という所見とは異なる所見であった。又,PGE1 の長期投与が動脈管の性質変化,さらにいうなれ ば,弾性動脈に類似した組織への変化を引き起こし,加えて,EP4 のdown regulation に伴いLipo-PGE1製剤への反応性の低下を引き起こす可能性が示唆された。

結論
本研究結果より,動脈管の開存がPGE1 の長期投与に伴う動脈管の弾性動脈化により保たれている事が示された。又,本所見はPGE1 の投与が 2 か月以上の長期にわたる症例において顕著である事から,PGE1 の投与期間が 2 か月以上の症例に対しては,エコーによる観察下にLipo-PGE1 の投与量を漸減可能であり,Norwood 手術待機中の PGE1 製剤の副作用を減少できる可能性がある事が示唆された。

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