三角格子ハイゼンベルク反強磁性体NaCrO2の単結晶の合成と磁化の異方性測定
概要
三角格子ハイゼンベルク反強磁性体において格子上のスピンは、その幾何学的配置によりフラストレーションを持つ。このスピン系の基底状態は隣接するスピンが 120◦ 異なる向きを向く 120◦ 構造であるが、図 1 に示すようなカイラリティという自由度が残る。
XY 模型における 120◦ 構造では三角形のサイトを時計回りに見たときにスピンも時計回りに 120◦ ずつ回転する場合と、反時計回りに 120◦ ずつ回転する場合に分類できる。この状態をそれぞれ + カイラリティ、-カイラリティと名付ける。ハイゼンベルク模型ではカイラリティはベクトル量となる。三角格子ハイゼンベルク反強磁性体ではそのベクトルカイラリティの渦である Z2 渦が有限温度で存在することが理論的に予想されており、渦の解離によるトポロジカルな相転移を起こす可能性も示されている [1][2]。しかしこの転移の存在は実験的にはっきりとは観測されていない。
NaCrO2 は図 2 のように稜共有の CrO6 八面体が層を形成し、それらが Na+ による層と交互に積層する結晶構造を持つ。この構造から Cr のみをとり出して図示すると図 3 のようになり、面内の Cr 間距離と比べて面間の距離がはるかに大きい。さらに NaCrO2では、Cr の三角形の中心の真上に隣接する層の Cr 原子が存在する。そのため隣接面にまたがる近接 Cr 原子は等距離に 3 つ存在するので、c 軸方向の相互作用が打ち消される。このように、積層の仕方から見ても、この物質は理想的な 2 次元三角格子ハイゼンベルク反強磁性体と考えられる。