三角格子反強磁性体Mn(OH)2における逐次磁気相転移
概要
三角格子反強磁性体は相互作用が拮抗するフラストレーション系である。そのため、温度や磁場の変化により多様な磁気相が出現する。例として、Ba3CoSb2O9[1] では量子ゆらぎによる磁気プラトー、Rb4Mn(MoO4)3[2] では容易軸異方性による磁気プラトー、ABX3 系 [3][4] ではスピンフロップ転移が現れることなどが挙げられる。
本研究の対象物質である Mn(OH)2 は、容易軸異方性を持つ三角格子反強磁性体として知られる。粉末試料に対する中性子回折 [5] では、低温で全体の 1/3 のスピンが面に垂直な方向を向き、残りのスピンがそれに対して 120◦ よりやや大きな角度の方向を向く磁気構造を形成していることが明らかになっている (図1)。しかし、この物質では単結晶を用いた研究は報告されていない。本研究では Mn(OH)2 の良質な単結晶を合成し、様々な温度や磁場における物性測定から新奇磁気秩序相を探索することを目的とした。