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大学・研究所にある論文を検索できる 「インフルエンザ易罹患性に関わる遺伝子の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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インフルエンザ易罹患性に関わる遺伝子の解析

松澤, 幸正 東京大学 DOI:10.15083/0002005130

2022.06.22

概要

インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症であり、日本では毎年冬季を中心に、多数の感染者が報告されている。一般的に、インフルエンザは風邪症候群とは異なり、38.0℃以上の発熱、頭痛、全身倦怠感などの全身症状、関節痛など、強い全身症状を伴うのが特徴的である。健常な成人であれば、2~3日で解熱し、その頃から鼻漏や咳嗽などの呼吸器症状が目立ってくる。嘔吐や下痢などの胃腸症状は少ないとされる。完全な回復には1~2週間程度を要し、予後は良好とされているが、時に急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome: ARDS)やインフルエンザ脳症のような重症化の病態を引き起こすことが知られている。近年、先天性の免疫不全や遺伝子変異が、インフルエンザ重症化に関わることが報告されている。最近の研究によって、インフルエンザ罹患における重症化に関連する遺伝子として、インターフェロン誘導性遺伝子であるinterferon-induced transmembrane protein 3(IFITM3)、interferon regulatory factor 7(IRF7)が同定された。しかしながら、インフルエンザに罹患しやすい性質、すなわち“インフルエンザ易罹患性”に関与する遺伝的要因については、よく分かっていない。今回、1シーズンにおいて3回、インフルエンザに罹患した小児を経験した。本研究においては、その小児の全ゲノム解析を行い、インフルエンザ易罹患性に関わる遺伝子の同定を試みた。

易感染性の小児および両親の唾液を東京大学医科学研究所ウイルス感染分野に郵送してもらい、DNA抽出を行った。外注先(Genewiz)にて、次世代シークエンサーであるIllumina Hiseq-Xtenを用いて、抽出したDNAから女児および両親の全ゲノムシークエンスを行った。全ゲノムシークエンスデータは、FASTQファイルとして外付けHDD内に保存され、当研究室に送付された。まず、FastQC(version0.11.2)にて、シークエンスデータのクオリティチェックを行い、リード長や重複数、含まれる核酸の含量など、全ゲノム解析を行うにあたり、問題ない品質であることを確認した。FastQCによるクオリティチェック後、全ゲノムシークエンスデータをGenomon(version2.5.3)にて、ヒトゲノムのリファレンスであるhg19/GRCh37と比較し、遺伝子変異、構造変異の抽出を行った。同定された一塩基変異数、もしくは挿入/欠失数は、女児4,513,738箇所、母親4,723,252箇所、父親4,637,466箇所であった。一方、構造変異数は、女児6,942箇所、母親8,053箇所、父親7,377箇所であった。その結果、遺伝子発現に影響を与え得る複合ヘテロ接合体変異が認められた遺伝子を3つ同定した。CCDC66(Coiled-coildomain-containingprotein66)遺伝子、DNAH14(Dyneinaxonemal heavy chain 14)遺伝子、SP100(Sp100 nuclear antigen)遺伝子である。CCDC66遺伝子は、KOマウスにおいて、緩徐に進行性の網膜の機能障害が生じるという報告があるが、本研究の目的である易罹患性性の原因となるような表現型に関する報告は見つからなかった。SP100遺伝子は、老化、発がん、アポトーシス、転写などに関与する核内構造体PMLbodyの構成部分をコードする遺伝子であるが、こちらも易罹患性に関連するような報告は見つからなかった。DNAH14遺伝子は、線毛や鞭毛を構成するダイニンの内腕をコードする遺伝子である。ダイニン外腕をコードするDNAH5遺伝子の異常では、原発性線毛運動不全症が起こることが知られており、一般的に細菌感染やウイルス感染が引き起こされやすいことが知られている。今回、線毛を構成するダイニン内腕の機能低下により、線毛運動の低下が起こり、インフルエンザ易罹患性となるという仮説を立てた。この仮説を検証するため、DNAH14遺伝子に着目して解析を進めることとした。

DNAH14遺伝子が、インフルエンザ易罹患性に関与するかどうかを調べるため、本研究では、CRISPR/Cas9システムにて作製されたDnah14遺伝子ノックアウト(KO)マウスを用いて実験を行った。Dnah14遺伝子KOマウスにおいて、蛍光顕微鏡を用いた気管線毛運動の観察、気管線毛の電子顕微鏡による観察を行ったところ、気管線毛運動が低下していることが明らかとなった。また、Dnah14遺伝子KOマウスにおいて、経鼻感染実験を行い、インフルエンザの増殖力が上昇することがわかった。これらの結果から、マウスモデルにおいて、Dnah14遺伝子の発現低下がインフルエンザウイルスの感染効率に寄与することが示唆された。

近年、乾燥状態におかれたマウスでは線毛運動不全が引き起こされ、インフルエンザに罹患しやすくなるという報告もされている。線毛運動を改善する方法として、マスク着用やうがいなどで乾燥を防ぐこと、また特定の薬剤(カルボシステイン、清肺湯)が知られている。これら薬剤が、本症例において、インフルエンザを初めとする呼吸器感染症の予防になり得ると考えられる。

これまで、全ゲノムシークエンシングや、Genomonによる遺伝子変異解析は、がんの罹患や、抗がん剤に対する薬剤感受性等の研究・臨床に主に活用されてきたが、本症例のように感染症の疾患感受性遺伝子を考える上でも重要なツールであると考えられた。

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