Spatiotemporal depletion of tumor-associated immune checkpoint PD-L1 with near-infrared photoimmunotherapy promotes antitumor immunity
概要
【緒言】
近赤外光免疫療法(NIR-PIT)は、近赤外光照射によって活性化される光吸収性フタロシアニン色素IRDye700Dx(IR700)とモノクローナル抗体(mAb)の複合体を用いた、新規の癌分子標的治療である。癌細胞とmAb-IR700の反応後に、690nmの近赤外光を照射することによりIR700が励起されると、mAb-IR700付加体が表面タンパクを介して細胞膜が破壊される。手術不能な再発頭頸部癌を対象に、上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とする、NIR-PITの第III相試験が進行中である。2020年9月、IR700を結合させたEGFRモノクローナル抗体(mAb)であるcetuximab-IR700(ASP1929)が、医薬品医療機器総合機構(PMDA)より条件付きで臨床使用の承認・登録を受け、医療保険収載されている。
PD-L1は、がん細胞の膜上に存在し、エフェクターT細胞のPD−1分子に結合することで免疫反応を低下させ、免疫監視の回避に働き腫瘍の成長促進に寄与する免疫チェックポイント分子である。近年、制御性T細胞(Tregs)、骨髄系由来抑制細胞(MDSCs)など、さまざまな抑制性免疫細胞がT細胞の活性化を抑制することが明らかになっている。MDSCsは腫瘍微小環境においてエフェクターT細胞の活性を低下させ、腫瘍細胞の免疫回避を促進する。従って、腫瘍微小環境におけるMDSCの数を減らすように腫瘍微小環境を編集することは、有望ながん免疫療法戦略となりうる。MDSCはPDL1を高発現していることが報告されており、PD-L1を治療の標的とすることは、がん細胞のみならず、腫瘍微小環境の免疫チェックポイントに対しての阻害効果やMDSCにも影響を与える可能性がある。
今回、低発現のがん細胞表面分子を標的とした新たなNIR-PIT手法を実現するために、光照射によって時空間的に腫瘍微小環境からPD-L1を標的として近赤外光線免疫療法により誘導される抗腫瘍効果を、同種マウス腫瘍モデルで評価した。
【方法】
抗マウスPD-L1抗体(10F.9G2,抗PD-L1-F(ab')2)およびラットIgG2b(control-F(ab')2)のF(ab')2を、4mMシステインおよび5mMEDTAを含む10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)中で、固定化フィシンを用い消化することにより作製し、高速液体クロマトグラフィーによりF(ab')2を精製した。Fc部位を除去することで、非特異的な結合に寄る効果を削除し、また分子量をへらす効果で腫瘍微小環境への浸透性がよくなる効果が考えられた。panitumumab、抗PD-L1-F(ab')2およびcontrolF(ab')2をそれぞれ、Na2HPO4、IR700と共にインキュベートし、混合物をSephadexG50カラムで分離精製した。結合を確認するために、フローサイトメトリー解析をA431-Luc-GFP(ヒト皮膚がん)、MC38-luc(マウス大腸がん)、LL/2-luc(マウス肺がん)、TRAMP-C2-luc(マウス前立腺がん)。B16F0-luc(マウスメラノーマ)を用いて行った。これらの腫瘍細胞にはレポーターとして、luciferase遺伝子ないしはluciferase-GFP遺伝子導入を行い、invitroとinvivoでその活性を評価できるようにした。
共焦点蛍光顕微鏡での観察を行うために、MC38-luc、LL/2-luc、TRAMPC2-luc(2×104)をガラスボトムディッシュに播種し、24時間培養した後、10μg/mLの抗PD-L1-F(ab')2-IR700を培養液に加え6時間インキュベートした。PBSで2回洗浄し、死細胞染色であるSYTOXBlueを添加した。細胞に近赤外光(20J/cm2)を照射し、その前後を撮像し検討した。また、invitroでNIR-PITの効果を定量的に評価した。EGFRを標的としたNIR-PITでは、A431-luc-GFP細胞(1×105)を12ウェルプレートに播種し、panitumumab-IR700(pan-IR700)を含む培地と共に12時間インキュベートした。PD-L1を標的としたNIR-PITでは、MC-38-luc、LL/2-luc、Tramp-C2-luc、B16F0細胞(1×105)を12ウェルプレートに播種し、抗PD-L1-IR700を含む培地と共に12時間インキュベートした。PBSで2回洗浄した後、近赤外光を照射した。NIR-PITの光細胞毒性効果は、プレートリーダー(Powerscan4)でのルシフェラーゼ活性評価と、フローサイトメトリー(FACSCalibur)での死細胞染色ヨウ化プロピジウム(PI)染色評価で測定した。
Invivo実験は、名古屋大学の動物実験委員会の許可を得て規則に従って行われた。約10〜15週齢のC57BL/6マウスに、MC38-luc,LL/2-luc,TRAMP-C2-lucのいずれかの細胞(2×106個)を右,左,または両方の臀部に皮下移植し、NIR-PITを行った。効果判定はルシフェラーゼ活性と腫瘍体積で行った。ルシフェラーゼ活性はIVISイメージングシステムを用いて測定し、腫瘍体積評価は、最大径と幅を体表から測定し、最大径×幅2×0.5と算出した。NIR-PIT前日に、マウスに100μgの抗PD-L1-F(ab')2-IR700またはcontrol-F(ab')2-IR700を注射し、特に指定のない限り75J/cm2の近赤外光を腫瘍接種後4日目に右腫瘍に照射した。NIR-PIT後に血液と脾臓を採取し、リンパ球を分析した。CD3e、CD8a、CD25、NK1.1、CD11c、CD11b、Ly-6G、CD45、F4/80、CD69、Foxp3、IFN-γ、IL-2の染色を行い、染色した細胞をフローサイトメトリー(FACSCantoII)で分析した。
ATPとhigh mobility group box protein1(HMGB-1)の発現定量のために、それぞれMC38(5×105)とMC38-luc(1×105)を12ウェルプレートに播種し、10µg/mLの抗PDL1-IR700と37℃で12時間インキュベートした。培地をPBSで置換した後、128J/cm2のNIR光を照射した。ATPの発現はFF2000ENLITENATPAssaySystemにより、HMGB1の発現はELISA(ARG81310)により、それぞれ処理後1時間で定量した。
【結果】
1.PD-L1を標的としたinvitro NIR-PITの効果
フローサイトメトリーを用いて、A431-luc-GFP細胞でEGFRの発現を、MC38-lucでPD-L1の発現を解析した(図1A、B)。MC38-luc細胞上のPD-L1は、細胞表面のIR700-蛍光を用いて評価すると、A431-luc-GFP細胞上の過剰発現したEGFRと比較して約100分の1程度の発現量しか無いことが判明した。また、LL/2-luc、Tramp-C2-luc、B16F0-lucの各細胞でも、MC38-lucと同程度のPD-L1の発現が確認された。A431-lucGFP細胞に対するEGFRを標的としたinvitroでのNIR-PITの細胞傷害効果は、MC38-luc細胞に対するPD-L1を標的としたNIR-PITよりも有意に高かった(図1A、B)。他のマウス腫瘍細胞(LL/2-luc、Tramp-C2-luc、B16F0-luc)に対するPD-L1を標的としたNIR-PITの有効性は、MC38-luc細胞に対するものと同程度であった。これらのことから、EGFRを標的としたNIR-PITに比べて発現量が極端に低いPD-L1を標的としたNIR-PITの効果はかなり限定的であった。
MC38-lucの蛍光顕微鏡観察をNIR-PITの前後に行った。NIR-PIT後、細胞の膨張と破裂、および死細胞蛍光染色が観察された(図1C)。LL/2-luc,Tramp-C2-lucでも同様の所見が観察された。充分な光量を当てれば、発現量が低くともNIR-PITにより細胞死を誘導することが可能であると確認できた。
2.PD-L1を標的としたinvivoNIR-PITの効果とそのメカニズム解析
MC38-lucを臀部に移植したマウスに対し、抗PD-L1-F(ab')2-IR700を投与し、1日後に近赤外線光照射(75J/cm2)を行った(図2A、B)。PIT群ではcontrol群、control-F(ab')2-IR700投与後NIR-PIT照射群、抗PD-L1-F(ab')2-IR700投与のみ群と比して腫瘍増大抑制効果が得られ(図2C、D、E)、生存期間も有意に延長した(図2F)。同様の結果は、LL/2-lucおよびTRAMPC2-lucにおいても見られた。
NIR-PIT後の腫瘍浸潤リンパ球をフローサイトメトリー解析したところ、MDSC(CD11b+Gr1+)の数は有意に減少したが(図2G)、末梢血では、CD8+T細胞数に有意な増加が見られた(図2H)。
3.PD-L1を標的としたNIR-PITによる腫瘍微小環境の編集効果
NIR-PIT後1.5時間で、腫瘍内のCD8TとNK細胞の活性化が見られた(図3A)。また、末梢血中のCD8T細胞およびNK細胞も同様に活性化されていた(図3B)。PD-L1を標的としたNIR-PITは、invitroでATPとHMGB1のレベルも上昇させた(図3C、D)。
4.PD-L1を標的としたNIR-PITの遠隔腫瘍への効果
PD-L1を標的としたNIR-PITを、両臀部にMC38-lucを移植したマウスの右側の腫瘍にのみ行った(図4AおよびB)。ルシフェラーゼ活性、腫瘍体積の評価で、controlF(ab')2群に比して、非照射側でも腫瘍増大抑制効果がみられ、(図4C、D)生存期間の延長効果が得られた(図4E)。右側腫瘍への治療後6時間で、対側腫瘍内のCD8T細胞、NK細胞の活性化が見られた(図4F)。
【考察】
PD-L1を標的としたNIR-PITによる腫瘍に対する新規の治療法を前臨床の同種マウス腫瘍モデルで検討した。PD-L1を標的としたNIR-PITは、invitroでは限られた治療効果しか示さなかったが、invivoでは強い治療効果を示し、また、近赤外光線照射部位のみならず、転移腫瘍にも抗腫瘍効果を示した。PD-L1を標的としたNIR-PITは、DAMPsの放出、腫瘍微小環境の変化、抗PD-L1抗体による免疫チェックポイント効果によって腫瘍局所および全身性の抗腫瘍効果を亢進させたと考えられた(図5)。PDL1は各臓器の腫瘍に横断的に発現していることが知られているので、PD-L1標的NIR-PITは、臓器横断的に使用できる。また、本研究で示されたように、腫瘍のPD-L1発現が低くても有効であり、近赤外光が照射されていない遠隔腫瘍にも有効である。多くの抗PD-L1抗体薬がすでに承認され、臨床に適用されており、PD-L1を標的としたNIR-PITは容易に臨床応用が可能であると考えられる。
【結語】
PD-L1を標的としたNIR-PITは、様々な腫瘍に対する有効な全身治療法となる可能性がある。